第48話 痛み分け
G-AGEを完璧なタイミング、完璧な状態で撃てた。
G-AGEはツバサさんのアイギスを1枚割り、ツバサさんに命中した。けれど、
「そんな虎の子を抱えていたとはね……!」
G-AGEはツバサさんの急所には命中せず、右腕を破壊するに留まった。
(どうして!? 狙いは完璧だったはず……)
実弾はレーザー弾に比べて遅い。この距離でも弾丸を認識できれば回避することは可能だ。
でも銃声は誤魔化したし、視界も潰した。反応できるはず……。
「銃声、ちゃんと聞こえたよ。M1911の発砲音だ」
「え……?」
「ツバサはアイドルだからね。音には敏感なのさ。うっさいゲーセンの中でも足音を拾える」
そんな……!
僕も耳には自信がある。けれどこれだけ騒音・雑音がある中、1つの音の『位置の特定』・『種類の特定』を瞬時に行い、回避行動をとることは不可能だ。
人間としての性能が軒並み強化されているこの世界でも『聞き分け能力』ばかりは個人、実体の能力に依る。スペースガールとなり実際の体よりも遠くの音が拾えるようになっても耳に入る音の『音階』や『音質』の違いを区別化する力は本人の能力次第。つまりツバサさんは素で絶対音感に迫る、あるいはそれ並の聞き分け能力を持っている。
(射線上にあったツバサさんの背後のアイギスが無傷で倒れている。正面のアイギスは距離的に回避させることは無理だったみたいだけど、僕から距離のあったアイギスはきっちり回避させている。反射速度、思考速度、共に優秀。甘く見ていたわけじゃないけど、この人……僕が考えていたよりも強い)
計算が狂った。これでツバサさんに切り札がバレた。
「君がこの状況でただのM1911を使うはずがない。適当だけど体を逸らして良かった。アイギスすら容易く突き破る弾丸……! ガードナー殺しだね!!」
僕はG-AGEを更に2発放つ。ツバサさんはアイギスも含めて弾丸を躱し、狭い空間である店内から出る。
「決着は後回しだよシキちゃん。もうすぐ厄介なのが帰ってくるから」
ツバサさんは僕達が使っていたバイクをアイギスで器用に拾い、バイクに乗って逃走を始めた。
「ちっ!」
つい舌打ちしてしまう。正直悔しい。戦術を才能に潰された……!
僕はツバサさんを追いかけようとスラスター加速しようとするが、スラスターは1m進んだだけで止まった。
「EN切れ……!」
命拾いしたのはこっちだったか。戦闘があと少し長引いていたら負けていた。
「シキさん!」
シーナさんが店内に入ってくる。
「状況はチャチャさんに聞きました。ツバサさんの右腕とアイギス1枚を削ったのは大きいです。ナイスファイト」
「……ですかね。1撃で潰せなかった事実もマイナス面で大きいです。これで奥の手がバレてしまった」
『G-AGEを認識されてしまった』というマイナスと、『ツバサさんの右腕とアイギス1枚を削った』というプラス。個人的にはマイナスの方が大きい。
「差し引きで言えば間違いなくプラスですよ」
シーナさんは僕とは反対の意見のようだ。もしくは気を遣ってくれているのかもしれないけど。
「ところでレンさんは……」
「落としました。これでツバサさんは1人です」
「さ、さすがシーナさんです! ここでレンさんを落とせたことはかなり大きいですよ!」
「シキさんがツバサさんを抑えていてくれたおかげですよ」
チーム単位で言えば、間違いなく今回の衝突の勝者は僕達の方だ。あの罠と狙撃が無くなったのは嬉しい。楽に動ける。
「とにかく今はEN瓶を探しましょう。近くに敵はいませんよね?」
「はい。反応0です」
僕とシーナさんは手分けして家や店を漁り、EN瓶を集める。
ツバサさんが去ってから10分後、ランクマッチ開始から25分が経過。5度目のエリア縮小が終わる。更に1分経過し、次のエリア縮小範囲がマップに映る。ここリゾートシティはついにセーフティエリアから外れた。次の縮小までに街から離れないとならない。
残りの人数は21名。大体8~10チームぐらいかな。
もう終盤だ。あと4回のエリア縮小でタイムリミット。
僕とシーナさんは喫茶店の中で物資を見せ合う。
・地雷3個
・グレネード2個
・スモークグレネード3個
・火炎瓶1本
・リモコン爆弾1個 (リモコンもセット)
・修理キット4個
・EN瓶3本
「EN瓶は3本ともシキさんが使ってください」
「シーナさんは回復しなくて大丈夫なんですか?」
「私はまだ40%程ありますのでお気になさらず。これから先の展開を考えるとシキさんのEN残量は万全にしておいた方がいい」
それなら……と僕はEN瓶を全て飲み干す。
「移動します。先ほどスーパーカーを見つけましたので、それを使います」
「スーパーカー! それは心が躍りますね……!」
「心が……? ただの速い車ですよ?」
僕とシーナさんはハンバーガー屋の車庫にあったブルーのスーパーカーに乗り込む。
僕が運転席、シーナさんが助手席だ。
「シキさん、運転大丈夫ですか?」
「他のゲームと仕様が変わってなければ……少なくとも片手のシーナさんよりは上手く使えるかと」
僕はアクセルを思い切り踏み込み、発車する。
「ちょっ!? シキさん!?」
「いっきますよぉ~!!!」
時速180kmで吹っ飛ばす。
速度はドンドン上がっていく……200……250……300……400。どうやらここがこの車の最高速度のようだ。
「し、シキさん!?」
「はぁい! なんでしょう!」
「は、速いし、荒いです……!」
「まったまたぁ~! これぐらいまだまだ鈍いぐらいですよぉ~! カメさんですよこんなの~!」
『コイツ、なんかキャラ変わってない?』
『ハンドル握ると性格変わるタイプだ……! 現実では絶対運転させちゃダメだね』
あっという間にリゾートシティを飛び出る。
「……運転はもうこれでいいです。シキさん、目的地ですが」
「『樹海』か『造船所』ですね?」
「はい。このエリア縮小の流れを見るに、どちらかが最終エリアになるでしょう。造船所は船の部品製造のための工房が多数存在し、港の役割もしているため大量の船が停まっています。樹海は丘に囲まれていて、中心にひざ下程度までしかない浅瀬の湖があります」
僕はシーナさんより詳しくマップの説明を受ける。
樹海は説明するまでもなく木々が大量にあり、周囲には丘(標高40m~70m)がある場所。巨大な湖も中心にあるようだ。丘の上から樹海にいるスペースガールに向けて狙撃は可能だけど、最終的にセーフティエリアが湖に限定された場合、湖に降りなくてはならなくなる。障害物のない場所なんて狙撃手にとっては最悪だ。
一方で造船所は海辺にあり、多数の船と多数の工場がある。船の上や工場の屋根の上に根を張ることができれば狙撃し放題。海を背にすれば背後の警戒を解くこともできる。
どうせ山を張るなら……、
「僕は造船所を推薦します」
「採用します。造船所に行きましょう」
本作、なろうでもカクヨムでも結構好調&好評です。ひとえに皆様の応援のおかげでございますm(__)m 恐らく僕の知らない所で宣伝してくださっている方もいるのでしょう。そんな感じの伸びです。何かしらのきっかけで一気に駆け上がる予感満々で投稿するのが楽しみな毎日です。きついリアル(書籍化作品が打ち切られたり、超金欠だったり)をこの作品を書いている間は忘れられます。
そして、この章(C級ランクマッチ編)の最後まで書き溜めが完了しました。個人的にはすんばらしいラストが書けたと思っているのでぜひ楽しみにしていてください。
……この作品は久しぶりに書籍化までいける気がする……!( *´艸`) イラストで絶対シキやG-AGEを拝むぞぉ……!




