第47話 カクレオニ
――2分前。
時間はシキとシーナが別行動を始めた瞬間まで遡る。
シーナはレンを抑えるためスラスターを全開で回していた。
(レンさんは隠れるのが上手い。すでに狙撃地点から離れ、身を隠しているはず)
レンが狙撃をした場所、ドーム状の建物の屋上にシーナは辿り着く。
すでにレンの姿は無く、周囲を見回しても一切の痕跡がない。
(……こちらの位置は把握しているはず。それでも私を撃ってくるような真似はしないだろう)
完全に警戒しているシーナを狙撃することは難しい。完璧なポジションで撃てても成功率は30%程。外せば位置がバレる。そんな博打に賭けるより、身を隠してプレッシャーをかけた方が確実で効果的だ。
レンの判断は正しい。相手がシーナで無ければ。
「熱探知鏡」
シーナはゴーグルを掛ける。
サーマルビジョン……温度の違いを色で見分けるゴーグル。シーナの10個目の武装だ。端的にその性能を説明するならば、熱い所は赤系統の色で見え、冷たい所は青系統の色で見える。
煙幕の中でも体温などの熱源を探知し攻撃することが可能で、視界の悪い場所では重宝される武装だ。
シーナはサーマルビジョンでレンがいたはずの屋根を見る。そこにはオレンジ色(やや熱い温度)の足跡が残っていた。
「間違いなく、レンさんの足跡」
スペースガールは機械という設定の為か人に比べて体温が非常に高い。それゆえにスペースガールが踏みつけた場所には僅かな温度の上昇が見える。スラスターで飛べば連続した足跡は無くなるが、着地した地点には摩擦熱とスラスターの散布熱でより濃く高温が残る。サーマルビジョンはその温度の違いを見分けられる。優秀な武装ではあるが、当然景色は見づらくなるため運転中には使えない。
シーナはサーマルビジョンを頼りにレンの追跡を開始。足跡を追いかける。
足跡は舗装されていない土のエリア、『Buggy Run』というアクティビティエリアに入る。
(大量のバギーがある。けれど使うわけが無い。エンジン音で位置がバレる上にバギーは遅い。スラスターで移動した方が静かに速く動ける)
背の高い草むら・木々があり、バギーのコース以外の場所は視界が悪く潜伏に向く。隠れて狙撃するのが狙いか。
否。そうではない。とシーナは判断する。
(土の地面――)
レンの狙いは明白。
(地雷)
シーナは正面30m地点の地面をハンドガンで撃ち、地雷を起爆させる。
(常に太陽に熱せられていた地面は熱くなっている。だけど掘り起こされた地面は僅かに温度が下がる。地雷は無意味ですよ)
太陽によって強く熱せられた地表を返すための欠点だ。
他にも木々を利用したワイヤートラップや落とし穴なども仕掛けられていたが、全て看破し適切に排除する。
このマップは太陽が輝き過ぎていた。ワイヤーも土も高温をもつほどに。
「見つけた」
距離300m、ようやくレンの背中をシーナは捉えた。
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シーナから離れて300m地点。レンは『やってらんねぇ!』という顔をしていた。
「……なんじゃアイツ! なんでトラップの位置全部わかるんじゃ!」
シーナから狙撃が飛んでくる。レンはシールドピースで狙撃を防ぐ。
(走りながらでこの精度! スナイパー顔負けの狙撃センス!!)
負けじと撃ち返すが、シーナは容易く躱し、距離を詰めてくる。
(この距離のライフルを躱すとは。舌を巻く回避能力)
距離50。シーナはフルオートのハンドガンで激しくレンを追撃する。
(速射も上手いのう! 躱し切れん!!)
レンは黒のアタッシュケースを出す。
「トラップキット!」
トラップキットはENを消費することでアタッシュケース内にワイヤー・リモコン爆弾・グレネード・地雷・ドリル・接着剤を生成することができる武装だ。
レンはアタッシュケースから野球ボール程のサイズの黒い鉄球を大量に取り出し、ばら撒く。その後でアタッシュケースの中からリモコンを取り出す。
(リモコン爆弾。その鉄球は全て、ワシの手元にあるリモコンのボタンを押すと共に炸裂する!!)
シーナは足を止め、左手に持っていたハンドガンを空に投げる。その後でサーベル端末を腰ポーチから抜いた。
「高出力モード」
シーナはサーベルを伸ばして、1秒の内に全ての鉄球を斬り裂いた。
鉄球は爆発し、両者の間に煙の幕を張る。レンはシーナを視認できないが、シーナは体温でレンを視認できる。
「……剣術まで達者とはな。さすがは、ツバサのチームメイトだっただけあるのう」
空中に投げられていたハンドガンをキャッチし、シーナは早撃ちを披露。12の弾丸がレンの体に穴を作る。
右腕の無い状態で、シーナはレンを圧倒してみせた。
「しかし、レールガン無しではツバサには勝てまい」
「……」
「この勝負、ワシらの勝ちじゃ」
レンは脱落する。
これで紅蓮の翼はあと1人。
(もう私にツバサさんのC:Aegisを攻略する術はない)
シキを失った時点で敗北必至と考えていいだろう。
「シキさん……!」
シキからの通信は無く、ニコやチャチャからの声も無い。
こういった状況になった時、チャチャたちにはシキの方をサポートするように言ってある。それでも、この静けさは不気味だった。
オペレートしなくちゃいけないチャチャたちが、固唾を飲むような事態がいま、もう1つの戦場では起こっていた。
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