第37話 チームミーティング
8月5日、ランクマッチ前日。
今日はチームミーティングがあり、僕はましゅまろスマイルの事務所に招待された。場所は『スペース・ステーション ch2621 第18フロア・オフィス区間』。
ベッドルームでチャチャさんと合流し、白い通路を歩く。イメージとしてはテナントビルだね。色んなアーミーやチームの事務所が混在している。
「ここだよん」
白いドアだ。ドアには『ましゅまろスマイル』と書かれた電磁表札が掲げられていた。チャチャさんがカードキーをカードリーダーにかざすとドアが開く。中に入ると……、
「……」
「……」
椅子に座り優雅に読書をしているシーナさんと、机に頬を当てて項垂れているニコさんがいた。
ニコさんは明らかに落ち込んでいて、目は虚ろ。今にも魂が抜け出てしまいそうだ。
「あれ? ニコっちどうしたん?」
「べっつに~」
いつもの活気がまるでない。しおしおだ。
「あ、もしかしてまた例の恋愛絡み?」
ぴく。とニコさんの背中が揺れる。
「ニコさん、誰かに恋を……?」
「うん! ニコっちは同じ中学の生徒会長に恋しちゃってるのだ!」
「生徒会長……ていうか、中学!? ニコさん、中学生なんですか!?」
「そだよ~。何ならシーナっちも中3だし」
嘘……シーナさんもニコさんも年下だったの!?
今時の中学生って大人びてるなぁ……。
「も、もしかしてチャチャさんも……?」
「いやぁ~。チャチャさんは大学2年生だよーん」
それはそれで意外!
「言っとくけど、別に恋してるわけじゃないから! あんなやつ! もうさいっていよ! さいってい!」
「おろおろ、一体なにがあったのさ? チャチャさんが聞くよ」
ニコさんは喋ろうとするも、涙目になって口を閉ざしてしまった。シーナさんがやれやれという顔でニコさんの代弁をする。
「その生徒会長にインフェニティ・スペースのソフトを貸したそうですよ。だけど」
「アイツ……私が貸したゲーム、姉に横流ししたって……!」
ニコさんは頬杖をつき、「けっ!」と苛立ちを露わにする。
フルダイブ型ゲームは決して安くない、どれも数万はする。中学生にとってはかなりの出費だ。それを無下にされたら傷つくのも当然だ。
「そ、それは可哀想です……ニコさんはその人とインフェニティ・スペースをやりたくて、貸したんですもんね? やらないにせよ、誰かにあげるなんて……ちょっと無神経です」
ニコさんが僕の両手を握り込む。
「ひぃ!?」
「アンタ! ……わかってるじゃない」
「あああ、ありがとうございます?」
ん? ちょっと待って。なんか、今の会話の中に違和感があったような気が……。
インフェニティ・スペースは女性限定のゲーム。それを貸したということは、ニコさんの好きな相手は――
「皆さん、くだらない色恋話はそこまでにしてください」
「くだらなくないわよ!」
「少し遅くなりましたが、明日のランクマッチの作戦会議を行います」
いいや。一旦今の話は忘れよう。こっちの方がはるかに重要案件だ。
僕達は丸テーブルを囲うように座る。シーナさんが卵のような形のリモコンを操作すると、テーブルの上に電磁スクリーンが浮かび上がった。スクリーンにはズラーっとランクマッチのルールが書き連ねられている。
「次のランクマッチのルールは前回と同じです。ステージは当然変わりますが」
「つーかいまさら作戦会議やる必要ある? これまでも4人でちょくちょく通話で打ち合わせしてたじゃん」
「1度顔を合わせて作戦の整理をするのは必須でしょう」
「チャチャさんも同意見なり!」
顔合わせて話すのは苦手だけど、僕も必要だと思う。
通話だと緊張は薄いけど、相手の顔色がわからないから自分が喋るタイミングを見失ってしまう。事実、僕はまだ言うべきことを言えていないでいる。今日こそちゃんと言わないと。
「まず転送完了してからの流れですが、シキさんは近くの建物に潜伏。私とニコさんがシキさんの元へ向かう形で合流します。最初のエリア縮小までには合流したいですね」
ランクマッチの安全地帯は5分毎に縮小する。安全地帯は全体マップに円で範囲が表示され、この安全地帯の外にいると1秒で10、全身の耐久値が減っていく。スペースガールの耐久値は100だから、10秒で耐久値は消えデリートされる。
試合開始あるいはエリア縮小後1分でエリアの縮小範囲が示され、4分から5分にかけてエリアは縮小する。最初はマップ全てを囲んでいる安全地帯も1度縮小するごとに8分の1となり、40分で安全地帯は100mとなる。この残った100mも5分で消える。実質的なタイムリミットは45分と10秒ってことになる。
もっとも45分も戦いが続くことは滅多にないはず。スペースガールの行動範囲・射程を考えると大体30分ぐらいで決着はつくと僕は考えている。
「合流後はエリアの流れを見つつ、シキさんのレーダーを頼りに動きます。敵機を発見したら私とニコさんが前に出て、シキさんは隙を見て狙撃。本来ならスナイパーがフレンドリーファイアをしないよう細かく陣形を練りますけど……シキさんが味方に当てることはないでしょうし、必要ないですね」
「私達の場合、下手に陣形組むより全員自由にやった方が強いっしょ。みんなアドリブ力高いし。特にシキは縛らない方が絶対に活きる」
凄い信頼されている……味方に当てることはないけど、味方が邪魔で撃てないパターンは無くもない。けれど、この2人なら上手く狙撃のタイミングを作ってくれるよね。
「私とニコさんのどちらかは欠けても問題はありませんが、シキさんは落ちたら困ります。なので、自分の身第一でお願します」
「りょ、了解です!」
僕はレーダー役だ。基本的に僕のレーダーで索敵を行うため、シーナさんもニコさんもレーダーにはステータスポイントを振っていない。僕が落ちたら索敵という面で他チームに大幅なアドバンテージを許してしまう。前回みたいに真っ先に落ちることは絶対に避けないとね。
「次に要注意チームの確認です。まずはもちろん、ランクマッチ連勝中の『紅蓮の翼』」
シーナさんはリモコンを操作し、電磁スクリーンにクレナイさんの情報を載せる。
「クレナイさんは高機動アタッカーで型に嵌らない攻撃を得意とします。ウィングを採用していますが、戦い方自体はニコさんに似ていますね。実力も恐らく同じくらいです」
「結局まだ1度も戦えて無いのよねぇ。ぜひともお手合わせ願いたいものだわ」
「ニコさんとクレナイさんが戦った場合、勝敗が読めません。こういう手合いを転がすのは得意なので、クレナイさんは私に任せてください。わざわざ勝率の低い択を取る必要はありません」
「はいはい、わかったわよ」
次にシーナさんはレンさんの情報をスクリーンに載せる。
「レンさんは隠密行動が上手く、それでいて狙撃の腕もある。ただし、ハンドガンやアサルトライフルの練度は甘い。近づけば怖くないです。ただトラップキットを装備しているので地雷やワイヤーには注意してください。レンさんを捕捉したら私かニコさんで抑えに行きます」
紅蓮の翼の過去の戦闘を見せてもらったけど、クレナイさんもレンさんも強いというより厄介。どっちも状況判断がかなり正確で、上手く連携してくる。もちろん、技術もある。
だけど、そんな2人が霞む程に……。
「ツバサさん……彼女に関しては言うまでもなく、このランクマッチで最強でしょう」
電磁スクリーンが変わり、ツバサさんの驚異的な能力値が映される。
「へぇ。アンタよりも?」
「私も最強です。同率1位です」
「あっそ」
「ツバサさんに有効な手段は……レールガンぐらいでしょうね。私のレールガン以外で『C:Aegis』を崩すのは不可能です」
「そんじゃ、アイツはアンタに全任せってことね」
「そうですね」
「……」
僕がモジモジしていると、チャチャさんが、
「シキっちょ。なんか言いたいことあるんじゃない?」
「あ、は、はい!」
僕が右手を挙げると、シーナさんは微笑み、
「ゆっくりで大丈夫ですので、意見を聞かせてください」
「あ、あの……僕……僕にツバサさんは任せてくれませんか?」
僕は電磁スクリーンに映されたツバサさんを見る。
「僕が恐らく、1番、ツバサさんと相性がいいです」
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