第3話 キャラクリエイト
今日は2047年7月28日(日曜日)。
青春全盛期である高1の夏、僕は友達とカフェに出かけるわけでもなく、部活に励むわけでも恋愛ごとに励むわけでもなく、電脳世界にフルダイブするためのヘッドギアを装着してベッドに寝そべっていた。
「とりあえず軽く触って、1時間ぐらいで戻ってこよう。明日の準備もあるし」
ヘッドギアの起動スイッチを入れる。すると目の前の空間にシステム画面が現れた。現段階では旧来のVRゴーグルとやっていることは変わらない。まだ意識は現実にある。
システム画面を操作し、妹に貰った『インフェニティ・スペース』というゲームを起動する。フルダイブはここからだ。
意識が一瞬途切れ、再覚醒した時には僕の体は電脳空間にいた。
《インフェニティ・スペースの世界へようこそ。この世界では、あなたは宇宙空間に対応したアンドロイド、スペースガールとして活動します》
ワームホールのような空間で僕はメッセージ画面と向かい合う。
インフェニティ・スペースには基本的に男性はいない。このゲームに参加できるのは女性のみ。プレイヤーは女性型ロボット・スペースガールとして生きることになる。
女性しか参加できないのに売上ランキング上位をキープしているのだから恐ろしいものだ。ちなみに男性限定、女性限定のゲームは珍しくない。このフルダイブ環境を利用した悪質なセクハラや性犯罪、誘拐事件等々、様々な問題が出たゆえに男女でゲームを分けることが増えた。
僕としては女性のみなのはありがたい。誰かと接することは性別関係なく苦手だけど、対男性(苦手:強)、対女性(苦手:弱)ぐらいの差はあるからね。昔、とある男性教師にこっぴどく怒られてから成人男性が物凄く苦手……。
《まずは名前を設定してください》
メッセージは女性の声で読み上げられる。
「えっと、いつも通りでいっか……」
僕の名字は古式。そこからとって、名前は『シキ』。どうせソロ活動するのだから呼ばれることはほとんどない名前だ。なのでシンプルな名前でいい。
《次にアンドロイドの容姿を設定してください。注意点として、現実の肉体から遠いと動かしづらくなります》
これはフルダイブ型のゲーム全般に言えることで、体型をいじり過ぎると現実の肉体とのギャップで体が鈍る。理想の体を作って運用するのもいいけど、それに慣れたら今度は現実の体に違和感が出るのだ。もちろん肉体に持病を持っていたり、現実の体格が大きすぎるあるいは小さすぎる場合は理想の肉体を作った方がいい。
まず肉体とは別の部分、髪型から決めよう。
(うわぁ~。髪型の種類多いし、細部設定もすんごい細かい。やろうと思えば髪の長さ1ミリ単位で決めれるの!? 凄いなぁ……)
現実の僕には女の子らしさというものが無い。髪は短いし、胸は小さいし……中学生男子に間違えられることもしばしば。
だからこそゲームの世界でぐらい女の子らしく生きたい。
(ロングヘアーで……ツートンカラーとかやっちゃおうかな。黒と白。目の色も赤と青のオッドアイにしちゃおう。うんうん、カッコいい!)
次に体型。背は現実と同じ150cmにする。体型も……同じに……。
(いや待った。胸ぐらい、現実より大きくしてもいいんじゃない!? ちょっとぐらい大きくてもいいよね!? 3サイズぐらい盛ってもいいよね!?)
+表示を押し、自分の胸を風船を膨らませるかのように大きくしている途中、凄まじい虚無感が体を襲った。
(やめよう……虚しいよ……それにおっぱい大きいと狙撃にも支障が出そうだし……)
渋々風船の空気を抜く。
服装は……世紀末風にしようかな。世紀末+銃は最高の組み合わせだ。
黒のレザージャケットで、黒のレザーパンツ……。ジャケットは、ちょっと大胆に肩出しにしてみようかな。サングラスも付けてみよう。
(あれ? なんか芸人さんでこんな格好の人いたような……? なんか奇声あげている感じの……)
ちょっと洒落たベルトとインナーを着けよう。そしてジャケットは長袖にしよう。サングラスはせっかくの可愛い目が見えなくなるから取って……うん、変な面影は消えた。
容姿はこれでOK。決定、と。
《役割を選んでください》
ロール、RPGで言うところのジョブかな。これで初期ステータスが決まるみたい。
ステータス項目は【装甲】・【スラスター出力】・【スラスター容量】・【精密性】・【レーダー】・【ステルス性】・【EN容量】。既存のRPGとはまるでステータスの名前が違うな。
ロールの種類は万能機、銃撃機、狙撃機、爆撃機、速攻機、防衛機、偵察機……etc。
このゲームは宇宙コロニーを舞台にしたゲーム。スペースガールは宇宙怪獣やら他のスペースガールやらをレーザー銃やレーザーサーベルで倒す。簡単に言うと、ロボアクションをアンドロイドでやっているわけだ。
だからロールも『~機』という表示。女の子の形をしていても、あくまでゲーム内のキャラは機体、兵器なのだ。
もちろん僕は、
「スナイパー!」
スナイパーは【装甲E(20)】・【スラスター出力D(40)】・【スラスター容量B(80)】・【精密性B(80)】・【レーダーA(100)】・【ステルス性C(60)】・【EN容量C(60)】。
ロボオタの僕はなんとな~く、各ステータスの意味とかは察せれるが、まぁ確信は無いので進めつつ調べよう。
《初期武装をお選びください》
ロボオタとして、武装は悩み抜きたい!
「うわっ! これまた多いなぁ……!」
武装は全8個装備可能。この段階では4つまで武装を選べるようだ。
スナイパーライフルだけで30種類ある。最初に選べる物だけで30種類だ。しかも武装にもステータスがある! 【威力】・【射程】・【銃声】・【反動】・【追尾】・【弾速】・【弾数】!? やばばばばば……! こりゃまずい。吟味していると無限に時間が溶ける……!
くっ……! ダメだ! 凝ると1日が終わってしまう! どうせここで時間をかけるよりポンポン選んでストーリー進めた方が効率的なんだ! だからここは、
「直感で選ぼう……」
・RS-11(スナイパーライフル)×1
・GR-2(ハンドガン)×2
・PT-8(シールドピース)×50
中距離戦のためのハンドガン、そしてメイン武装のスナイパーライフルは当然必要。後はシールドピース、これは六角形の実体盾であり1つのサイズは拳ほど。脳波で操作することができ、固めて円形のバリアにできるしバラバラに運用して多方面の攻撃に対応することもできるそう。必須アイテムと書かれていたので採用した。50個で1武装扱い。これで武装欄が4つ埋まった。
実際に武装を装備した3Dモデルを見てみる。
「おぉ……!」
腰にハンドガンを装備し、シールドピースはスカートみたいに腰から太ももに掛けて装備してある。手には狙撃銃……カッコイイ……!
一応、武装はイベントリから自由に取り出しできるらしい。だから全部装備する必要は無いのだが、やっぱね……重武装はロマンだよね。武装欄全部埋めて、一度は全装備で写真を撮りたい。
他詳細の設定諸々OK。
全項目入力完了。
《それではシキ様、無限の宇宙へご案内いたします》
ワームホールが白い光で満ちる。
ゲームが始まる直前のこのワクワク感、いつだって最高だ……!
ステータスについてはいずれ作中で説明が入りますが、待てねぇ! という方のためにわかりにくい2項目だけ説明します。
【レーダー】……索敵に関するステータス。索敵における『攻撃力』。レーダーの索敵範囲(半径250m以内)に他機が入った際、その他機のステルス性をレーダーの値が上回っていたらMAPに敵アイコンが表示される。
【ステルス性】……索敵における『防御力』。ステルス性が他機のレーダー値を上回っていたらその機体のレーダーに映らない。
もし作者がインフェニティ・スペースをやるならこのステータスは重視しないだろうけど、人によってはめちゃくちゃ重視するんだろうな~って思うステータス。