第265話 侮辱
ラビちゃんの撃墜を確認したのは地下2階のTWを全て破壊した時だった。
ラビちゃんは恐らく地下3階で倒された。ならばラビちゃんを倒した相手は地下3階に居る。そう考えた僕はエレベーターで地下3階に降りた。そこで僕が発見したのは道路を大行列で行進する火緋色金の軍勢だった。ラビちゃんを倒したのはこの軍勢だと僕は思った。
地上に通すのはまずいという考えと、エレベーターで鉢合わせしたら気まずいという思い、さらにラビちゃんの仇討ちも兼ねて僕は長距離狙撃を開始した。多人数に囲まれたら緊張で動けなくなるため、距離を取りつつ長距離で削り続けた。相手は中々に手強く、全て撃墜するのに15分近くかかってしまった。
軍勢の大半は倒したけど、3人はエレベーターに乗り込まれてしまった。逃がしてたまるかと、僕はエレベーターで地上に上がり、取り逃した3人を狙撃で撃墜した。あとレーダーに映った人達もついでに狙撃した。
そこでようやく状況を確認する暇が生まれる。よくわからないけどオケアノスは押されている感じだった。サブシップは1隻減っていて、ロゼッタさんがシノハさんを抑えていた。明らかに悪い状況だ。
『シキ君。ここは任せた。3隻のサブシップと連携し、この場に居る敵全員を撃ち抜いてくれ。吾輩はメインシップを連れてキングを取ってくる』
ロゼッタさんの指示が届く。
メインシップで突っ込むことは危険だと思うけど、地上の状況を知らない僕に異議を唱えることはできない。ロゼッタさんなら考えなしということも無い。
この場に居る敵全員を撃ち抜く、なんて無茶な指示だと思うけど、シノハさんさえ倒せれば僕は自由に動けそうだし、なんとかなるかな。
僕は首を縦に振った。
「は、はい! やってみます!」
ロゼッタさんはスピカ・セーラスに向かって上昇する。シノハさんがロゼッタさんを追いかけようとしたので、僕はいまある全てのアステリズム9基を展開し、シノハさんに対し一斉射撃する。シノハさんはアステリズムのレーザー弾を避けるけど、僅かに体勢を崩した。その隙を狙い、狙撃で下からワイバーンを撃ち抜くことに成功する。
シノハさんはワイバーンから足を離し、スラスターによる飛行に移る。スラスターではワイバーンを装備したロゼッタさんには追いつけないので、諦めて僕の居る道路の直線上に着地する。
「ははっ! これは良い展開だね。待ち望んでいたよ。アンタと一騎打ちでやれるこの展開を……!」
シノハさんは拳を合わせる。フリーチャンネル通信から聞こえるシノハさんの声は高揚していた。
距離102.8m。まだ、僕の間合い。
「私は狙撃手殺しって呼ばれている。なぜだかわかる?」
「い、いえ……」
「目に映る弾は全部反応できるから。バックアイを装備しているから背後への狙撃にも対応できる。私に狙撃は当たらない。スナイパーには負けない。そもそも、こんな距離まで近づいている時点で、スナイパーとしては終わっているけどさ、アンタ」
それはそう!
「す、すみません。まだまだ未熟でして……そっかそっか。その首の後ろの黒い斑点、ホクロじゃなくてバックアイだったんですね」
「!?」
「バックアイの説明文には『頭の後ろに装備する』って書いてありましたけど、首の後ろにも装備できるんですね。髪の毛が無い分、首の後ろの方が見えやすいのかな……」
シノハさんは首の後ろを手で隠す。
「アンタ、これが見えたの? こんな1mm程度の物を……」
「? はい」
「しかも、私がアンタに首の後ろを見せたのって、まだ上に居る時だよね。あの距離で……」
僕はスタークを構え、撃つ。シノハさんは黒いレーザー弾を拳から出した電磁シールドでガードする。
「話の途中で撃つな!」
「ひぃ!? す、すみません! で、でも……これ、負けられない戦いなので!」
ホントだ。完璧な反応。僕のレーザーは黒いから、この夜のステージでは見づらいはずなのに。
防御範囲は狭いから手数があれば崩せるだろうけど、狙撃は基本単発だ。狙撃で崩すのは難しいみたいだね。だからこそ狙撃で崩したいところだけど、シノハさんは中距離で戦うのが1番楽だ。中距離で叩く。
いま言った通り負けられない戦いなので、確実に勝たせてもらいます。
「そんなに早く散りたいなら望み通りにしてあげる。ラウンド、スタートだ!」
シノハさんはスラスター加速する。僕は後ろへ引きつつ、左手の指からデコイバルーン5体を射出する。
「ふっ!」
シノハさんはチャージ式ブースターで更に猛加速。僕の出したデコイバルーンの間を突っ切り、距離10mまで近づいてくる。
「ぶん殴る……!」
「撃ち抜く……!」
アステリズム6基を展開。僕とシノハさんの間にΔシールドを1つ展開し、シノハさんの足を止める。そして他のアステリズム3基で多角的に攻める。シノハさんは横のステップでレーザー弾を回避。回避を見てから僕はワンオフ式サーベルを抜く。
「高出力モード」
「ちっ」
僕が高出力モードでサーベルを展開すると、シノハさんは後ろへ飛んだ。僕はサーベルを薙ぐも、1m程長さが足りない。
シノハさんの背中が、僕が先ほど展開したデコイバルーンに近づく。
(ここ)
デコイバルーンの影からアステリズム3基が飛び出す。
「は!?」
至近距離。しかもバックステップを踏んだ直後。シノハさんは体を捻るも、背後に現れたアステリズムの射撃を3発中2発受けてしまう。1発は右肩に直撃し、耐久値を削った。もう1発はシノハさんの首の後ろを掠り、バックアイを破壊した。
「アンタ……!」
先ほどデコイバルーンを放った際に、デコイバルーンの影、シノハさんの死角にアステリズムを3基置いてきた。こうやって背後から隙を衝くために。
僕はアステリズム9基を腰に戻す。
「見える攻撃は防げる。つまり、見えない攻撃は防げない」
ツバサさんとは違ってね。
「バックアイ、狙ったの?」
「はい。狙い撃ち、というやつです。これで背中側は死角になりましたね」
シノハさんは苦虫を噛み潰したような表情をする。
「アンタは確か、ピースを12基持っていたはず」
「はい」
「でも、アンタが姿を見せてからピースは9基しか見てない。残りはどうした?」
「あ、そういえば! どこかに置いてきちゃったかもしれません。えへへ……」
疑心が、シノハさんの動きに影を落とす。シノハさんはきっと僕の言葉を嘘だと思い、必死に行方不明のアステリズム3基の場所を考えていることだろう。
バックアイを失ったことで不安になったのかな。警戒を強めるあまり動きが鈍ってくれれば儲けものだ。
「余裕綽々ってか。ムカつくね」
シノハさんは拳を合わせる。
すると、表情が冷静なものに戻った。いまの動作で気持ちをリセットしたようだ。
「……そういえば、さっきアンタの仲間を倒したよ」
「え……?」
シノハさんは薄く笑う。
「ラビリンス、だっけ? 随分とお粗末なプレイヤーだったよ。瞬殺しちゃった♪」





