第26話 スナイパー・センス
僕が訪れたのは金の惑星。金星、とは違うらしい。金星は金星でちゃんと存在するようだ。
雲は金斗雲のような金色で、さらに金色の結晶体で地面や山、森が構築されている。
「ようこそ黄金郷へ! 私は金塊人のパメラパパレパルッパッパだ!」
「はぁ」
僕の宇宙船は吸い寄せられるように金の惑星の『黄金郷』という街に着陸した。
全部金ぴかで構築された街。そしてラスベガスのように騒がしい街だ。
目の前の金塊人は金タイツを纏ったオッサンである。なんというか……非常にダサくて気持ち悪い。僕、あまりこの街好きじゃないかもぉ……。
「到着早々すまないが旅の人よ、頼みがあるんだ。実はこの街の近くにゴールデンタンクが大量発生していてね、これを討伐してほしい」
「はぁ……」
「討伐してくれれば報酬を渡すよ」
『サブミッション『金ぴか戦車を撃破せよ』を開始しますか? YES/NO
推奨レベル:25
クリア条件:ゴールデンタンク12機の討伐
報酬:15000チップ』
サブミッション……つまりは特に大きなストーリー展開のないミッション。
受注して損なしだね。
「やります」
「ありがとう! 助かるよ!」
さぁってと、早速狩りに行くかな。
「おっと、その前に……」
宿屋に行き、カプセルベッドにタッチする。すると宿屋のカプセルベッドがリスポーン地点に設定された。
この街は『拠点』扱いなので、このカプセルベッドが壊されることはない。けれど1日毎にレンタル料1000チップ取られる。この星を去る時に契約解除するのを忘れないようにしないと。
「準備OK――っと」
宿屋から出る。すると、僕は後ろから右手を掴まれた。
「え!?」
「……」
振り返ると、そこにいたのはとても可愛いスペースガールだった。
「ねぇキミ、スナイパーでしょ?」
「は、はい」
薄紫色のツインテール、近未来的なセーラー服とミニスカート。頭のてっぺんからつま先まで可愛いけど、なんか怖い。
「ちょっと手伝ってほしいんだ」
蜜のような甘美なオーラと、捕食者のような危険なオーラが同居している。このオーラはたとえるなら――食虫植物。
小動物の勘が近づくなと言っている!
「申し訳ございませんが、僕……今から用事があって」
「神灰ツバサのお願いでも聞けない?」
え? 何急に……? この人のプレイヤーネームは『ツバサ』。じゃあ今のは……本名? なんで急に本名言ったの!?
へ、変な人だ!
「すす、すみません! 忙しいので――」
「無理にとは言わないよ。ツバサのお願いはさ、優秀なスナイパーしか叶えられないんだ。もし、狙撃の腕に自信が無いなら、断っていいよ♪」
「っ!!」
この人と関わるとロクな事にならなそう。でも、狙撃に自信が無いと思われるのは……嫌だ。
「ぼ、僕で良ければ手伝います」
僕の馬鹿やろーっ! こんな時にプライド優先してどうするの!!
「ありがとーっ! 後でサインあげるねっ!」
サイン? なんで?
「こっちこっち! 急ぎでお願い!」
「は、はい」
引っ張られるまま走る。
ツバサさんの手引きで辿り着いたのは――巨大カジノだ。
(カジノ……RPGにおける隠れた中ボス!)
カジノに時間を吸収され魔王が待ちぼうけするのがお決まりだ。
「もう少しだからね~」
カジノの中、ツバサさんが案内した場所は、
「あれやって!」
アレは……射的?
まず目の前には色々な種類のライフルが並んだテーブル。そのテーブルの先に半径1メートル程の円がある。その円には『射撃位置』という名前が付いている。きっと、あの円の中で撃てということ。
円から離れて100m、そこからベルトコンベアが列を成していて、そのベルトコンベアの上には色々な商品が並んでいる。1番手前のベルトコンベアは距離100m、そこから50m感覚でベルトコンベアが並んでいて、最後のベルトコンベアは700m先だ。
商品はぬいぐるみとか家具とかフィギュアとかで、武装とか拡張パーツとか戦闘に役立ちそうな物はない。
「これを僕にやれと?」
「うん! あの1番奥にある白い羽の生えたクマさんのぬいぐるみが欲しいんだ~。商品は12時で切り替わっちゃうんだよね~。だから急ぎでさ! お願い! 当ててくれたら報酬弾むよ~」
「……わ、わかりました。挑戦料は支払ってもらっていいですか?」
「もちろんだよ!」
挑戦料1万チップをツバサさんが支払い、ゲームが始まる。
まず最初にディーラー(金塊人)の説明が入った。
「こちらのゲームで使用できる銃はそちらのテーブルの上に載っている物に限らせていただきます。途中で銃の交換をするのは禁止。1ゲームの中で、使用できるライフルは1種のみです。弾数はどれを使っても6発までです」
ライフルはどれも実弾銃。実在するものだ。
「商品それぞれに的が付いているのがわかりますか?」
「はい」
アーチェリーの的に似たやつがすべての商品に付いている。
「アレに当てれば商品がコンベアから落ちずとも入手となります」
「なるほど」
「逆に的に当たらなければ、たとえ射撃の衝撃で商品が落ちても入手とはなりません」
的はどれもかなり小さい。指定されたぬいぐるみの大きさは30cm程だが、ぬいぐるみに貼り付いた的の大きさは直径10cm程。
「射撃は必ずそちらの円、スナイプサークルで行ってください。サークル内であれば寝て撃とうが座って撃とうが自由です。ただし注意点として、スナイプサークル内ではスコープは等倍となります」
「え!?」
それはつまり、裸眼で見るのと変わらないってことだ。
(でもサークル外ならスコープは使えるってことだよね……)
スペースガールのこの体は視力も強化されているけれど、700m先の動く小さな的を見切るのは到底不可能だ。サークル外からスコープで距離と位置を把握して撃ち抜くしかない。
「ゲームを始める前に13列のベルトコンベアからどこか1列を選択して頂きます。選択していないベルトコンベアの商品に弾が命中しても無効となりますのでご注意ください。弾が商品を貫通することは無いため、標的の前にある商品を貫通し、標的を撃つ、ということは不可能になります」
(へぇ、それなりの難易度だな)
1番奥を狙うとなると、その前のコンベアの商品全てが壁となるわけだ。
12列の動く壁。それらを避けて700m先の動く的、10cmに弾丸をぶつける。コンベアは奥になるにつれ流れる速度が速く、1番奥は時速80km程で動いている。
中々性格の悪いゲームだ。1番奥の商品を撃つより700m先の蚊を狙う方が簡単だね。
予期せぬイベントだったけど、結構面白そうじゃないか。腕が鳴るというもの。
通称『スナイパーテスト』。商品目的でこの射的をする人間は数少ない。狙撃手の腕を試すためにやることが多い。5列目以降の商品に当てられればスナイパーの適正有りと言われる。今まで1番奥の列の商品に当てたスペースガールはたったの5人。その内、最初の6発で当てたのは0人である。
ちなみに商品はしょっぱいが、すべてここでしか手に入らない物であり、その商品を持っていることがスナイパーとしての実力を証明するブツになる。




