第243話 雷花
VIPルームB。オケアノスvsフリーパーチ観戦室。
部屋に居るのは六仙、ネス、トゥルー、ソルニャー(お昼寝中)の3人と1匹。
ガーネットの異常な動きを画面越しに見て、ネスは動揺から眼鏡をさすった。
「アレはなんでしょうか。急に動きが獣じみたものになりましたね」
「へぇ、驚いたな。彼女以外にもアレを使える子がいたんだ」
「今のガーネット様の状態に心当たりがおありで?」
「ああ。ユグドラシルにも同じように突然戦闘スタイルが凶暴になる子がいてね。彼女はあの状態のことを『雷花』と呼んでいた」
ガーネットは瞳の中で黒い雷の花を咲かせ、奇想天外な動きをしている。
「己が内に眠る狂気を前面に出し、動きの規則性を破壊する技だよ。あの場に居るガーネット君以外の3人は全員、相手の動きを予測し崩すタイプだ。相手の思考の癖、動きの癖、得意・不得意、今の戦場の『流れ』。それらから相手の未来を確定し、潰すタイプだ。しかし『雷花』は自分の癖を、スタイルを、流れを崩壊させる。ほら、今だってボマーなのに接近戦を仕掛けた。馬鹿げている」
「狂気に身を委ねてまともに戦えるなんて……信じられません」
六仙は肩を竦めて「同じく」と笑う。
「麻雀で言うならさ、両面待ちできるのに敢えて単騎で待ったり、役満狙える手を崩して安手で上がったりしているものさ。合理的じゃない。でも、だからこそ読みにくい。優れた打ち手である程、狂った河に流される」
事実、現在シキとロゼッタはガーネットに翻弄されている。
特にシキにとって雷花は毒だ。狙撃の前段階、『対象の未来の確定』ができない。あの場で1番雷花に苦しめられているのはシキだ。
「不幸中の幸いなのは、シーナ君も手が出せなくなっていることだね。シーナ君が棒立ちしているところを初めて見たよ」
シーナはスナイパーライフルを構え、熱心にスコープを覗いているものの撃てずにいた。下手に撃つとレーザーがガーネットやミサイルに当たってしまう恐れがあるからだ。
ガーネットの動きに『思考』は無い。全て直感で動いている。その直感は全て敵であるシキとロゼッタに向いている。シーナには向いていない。
シーナの射撃を直感で躱すことはできないだろう。だからシーナは撃てない。
シーナはスコープを覗くのをやめ、宇宙を動き回り始めた。シーナは様々な角度からシキとロゼッタに射線を通し続ける。
「正しい判断だよシーナ君。君が完璧な狙撃体勢で控えているというだけで、2人にはかなりのプレッシャーになる」
シーナは絶好の狙撃ポイントに居座り続ける。
シキもロゼッタもシーナの狙撃を警戒せざるを得ない。シーナが控えているから思い切った作戦に出られない。
撃てないなら撃てないなりに、最大限のサポートをする。
「このままではまずいのではないでしょうか……」
「大丈夫ッスよ」
ネスの心配に対し、そう励ましたのは敵チームの長トゥルーだった。
「気付いてないんスか? オケアノスの2人があそこに近づいていることに」
シキとロゼッタはミサイルを躱しながら、徐々に主戦場へ近づいている。
本隊同士がぶつかり合っている激戦の宙域へ向かっている。
「なぜ本隊に? 合流したところで余計戦場が複雑になるだけでは?」
「2人には何か策があるようだ。シーナ君は2人の動きに気づいているけど放置しているね。この状況下、下手に止めに入ってガーネット君の上り調子に水を差すわけにはいかない、と考えているんだろう。それにシーナ君にとって本隊に寄ることは悪くない。できるならシキ君とロゼッタ君はガーネット君に一任し、暇な自分は艦隊戦に参加したいだろう」
六仙の読みは概ね正しい。
1つ異なるのはシーナの狙いについてだ。シーナは自軍のサブシップからガーネットを補助するTWを要請したかった。今の状況でTWを射出しても100%シキに狙撃されてしまう。だが、ある程度寄ってしまえば、シキの狙撃を受ける前にガーネットにTWを渡せる。
間違いなく、この2対2の結果次第で戦局は大きく動く。この2対2に集中してしまうのは仕方のないことだ。
しかしオケアノスサイドは敵主戦力を削ることに必死になって、ある大切なことを忘れていた。
敵軍の違和感に気づきかけていたのは、戦場でたった1人。
---
スピカ・セーラス、メインブリッジ。
操舵席に座っているイヴは敵メインシップを見て首を傾げた。
「なぁ、副長さん」
「どうしました?」
イヴは現指揮官の副長を操舵席まで呼ぶ。
「これ見てみろよ」
イヴは敵メインシップの装甲の映像を見せる。頭の先から尻の先まで。
「これがなにか?」
「おかしくないか? 傷が1つも無いぞ」
敵メインシップの装甲には一切の傷が無かった。
凹みも、擦り傷も無い。
「おかしくはないでしょう。フレアフィールドで攻撃は全て弾いているのですから」
「フレアフィールドは常に展開しているわけじゃない。こっちが火力を集中させた時にだけ展開している」
フレアフィールドを展開すると展開している方も武装を使用できなくなる。フレアフィールドを展開した状態でミサイルやレーザーを放つと自分のフレアフィールドに焼却されてしまうからだ。
「スペースガールの流れ弾とか、この戦いの中発生したデブリとかには当たっているはずなんだ。こっちの戦艦と撃ち合っている時は互いにシールドピースしか展開してないしな。シールドピースは万能じゃない。幾つかはすり抜ける」
「……」
「なのに、相手のメインシップはピカピカだ。ほれ、これがウチのメインシップの装甲だ」
イヴはスピカ・セーラスの装甲を見せる。
スピカ・セーラスは直撃を受けていない。だが戦艦は所々凹み、焼け焦げ、傷が付いている。
「……確かにおかしいですね。隊長に連絡しますか?」
「そうだな。アイツの手が空いたらあたしから連絡するよ」
「わかりました」
2人の会話が終わる。
イヴは再び操舵に集中する。
イヴはモニターを見ながら、ため息をつき、頭を掻いた。
「……いかんいかん。脇役が出しゃばり過ぎだな」





