第236話 神狼乱舞①
コンクリートの道路の上で、僕とペテルさんは向かい合う。
「10分経過」
「……」
少しずつだけど着実にペテルさんにダメージを与えることはできている。すでに左腕は破壊できた。
けれど、右腕1本になってもまるで怯まない。これぐらいのダメージは承知の上、って感じだ。
「なぜ」
ペテルさんは眉をひそめる。
「笑っているのですか?」
「え!?」
僕は自分の頬を引っ張る。
「笑ってました?」
「はい。なんか、にやけてました」
「こ、これはお恥ずかしいところを……その、あの……嬉しくて」
「嬉しい?」
「はい!」
僕は感情のまま話す。
「ペテルさんの戦闘スタイル、とっても素敵です! いぶし銀というかなんというか……初めて見るタイプで! だから、そのぉ……こんな凄い人を撃ち抜けると思ったら、嬉しくなってしまって……」
最初はただただめんどくさかった。でも、手合わせしている内に尊敬の念が湧いてきた。
どれだけ僕を研究したのだろうか。どれだけ努力を重ねたのだろうか。
底知れない忍耐と研鑽の果てに辿り着くスタイル。とてもじゃないけど真似できない。
「素敵って……こんなせこい戦闘スタイルがですか?」
ペテルさんは照れた表情を見せる。僕はその隙をスタークで狙うけど、横移動で弾は躱された。
「その手には乗りませんよ」
「ダメですか。でも、さっきの言葉に嘘は無いですよ」
本当に尊敬する。
個人の勝利は捨て、チームの勝利のみを考える。
どこまでいっても僕は僕の欲を無視できない。個人の欲を捨てるのって簡単じゃない。誰でもできることじゃない。だから、心から尊敬する。
たった1人と、ここまで長く戦ったのは初めてだ。
「絶対、15分はかけません! それよりも早く落とします!」
「……油断、ですね」
ぞく。と悪寒が背筋をなぞった。
「事前に自分が15分間足止めすると言ったから、15分が経過するまでは何も起きないと思い込む。そこにラインを引いてしまう。残念ですが、タイムアップです」
レーダーに、新たな反応が映る。
僕は背後を振り返る。
「まさか……!?」
コロニーに新たな乱入者。
「――待たせたわねぇ! シキィ!!!」
ピンク髪、サーベル逆手持ちのアタッカー!
「ニコさん!?」
チャフグレネードが僕の頭上で炸裂する。アステリズムを制限するためにペテルさんが先手を打ってきた。
ニコさんは僕達の居る道路に着地。ペテルさんとニコさんに挟まれてしまった。けどニコさんとは距離はまだある。
僕はアステリズムを展開。自分から1m以内の範囲で展開し、12基で一斉射撃する。
「温い! 甘い! 鈍い!」
ニコさんはスライドステップでレーザー弾を全て躱す。
「緋威!」
緋縅を纏い、ペテルさんの方へバックステップを踏む。
ペテルさんは鞭を繰り出してくるけど、神眼を使い場を俯瞰。後ろを見ずに鞭を躱す。
スタークを連射し、ニコさんをとにかく牽制。でも、ニコさんは止まらず。シールドピースとステップを駆使してゴリゴリ距離を詰めてくる。
(相変わらずステップが上手い! 天才的なスラスター管理……! このバグ塗れの体じゃ振り切れない……!)
ニコさんに集中した刹那、足に鞭が絡んだ。
「しまっ――!?」
僕は鞭に躓き転倒。起き上がると、もう目の前までニコさんは来ていた。
「ホントは1対1でやりたかったけど、仕方ないわよね!」
ニコさんは逆手に持った二刀を激しく右へ左へ往復させる。僕はスラスターで後ろに飛んで回避。着地すると、右足の裏がなぜかコンクリートの道路にくっついた。足の裏に、接着剤のようなものがついている。
(足が道路にへばりつく。これは……ペテルさんが仕掛けた罠か!)
「私が到着するまでに、ペテルを倒せなかったアンタが悪い!!」
このままじゃまずい!
「アステリズム!」
僕はアステリズムを傍に展開。
「そぅらぁ!!!」
ニコさんが迫りくる。僕は緋威を右手に巻く。
「炎纏!!」
緋縅に紅蓮のエネルギーを纏う。
紅蓮の右手でニコさんの両手の斬撃を捌く。ニコさんは右足を振り上げようとするけど、僕は左足でニコさんの右足のつま先を踏み、動きを抑制する。
「ちっ! 狙撃手がなんでここまで近接を……!」
展開したアステリズムを一斉射撃。ニコさんは後ろへ飛んでアステリズムの射撃を回避する。
僕は自分の足下をアステリズムで破壊し、地面から右足を剥がし、足の裏の接着剤を右手に巻いた緋威で焼いて溶解する。緋威はそこでデータ化され、チャージタイムに入る。
(ペテルさんは……!)
背後へ視線を送ると、ペテルさんがタンクを背負い、タンクから伸びたホースを手にしていた。
「消火器……?」
ペテルさんはホースから緑色のぬめっとした液体を射出する。
(どうせアレもなんらかのバグを与えるもの! 当たったらまずい!)
僕が横に移動しようとすると、
「させないわ!!」
ニコさんの放った二振りのブーメランが、僕の左右に飛んでくる。
右に飛ぶ→ブーメランに当たる。
左に飛ぶ→ブーメランに当たる。
屈むor移動しない→液体に当たる。
上へ飛ぶ→今のスラスター性能じゃ間に合わない。
(いけない……!!)
また二択。スライドしてブーメランを受けるか、足を止めて液体を被るか。
ブーメランを受けるとどこかしらの部位は死ぬ。それはまずい。バグをもう1個背負った方がマシだ。
僕は足を止め、ホースから射出された液体を体に浴びた。
バチバチと、体の節々で稲妻が弾ける。
『バグ発生 種別:漏電』
また知らないバグだ。
「漏電は時間経過でENが減っていくバグです。少しの時間で解除されます。EN瓶を持っていれば、そう怖いものではない。けれど」
突如、視界が真っ暗になった。
「え」
MAPや、各種メータは映る。けど、それ以外は何も見えない。暗闇――カメラが……映らない!?
「軸受麻痺、接続不良、漏電。全てを同時に起こした時、カメラは映らなくなる。複合バグ――停電」
違う。
停止したのはカメラだけじゃない。
『バグ発生 種別:停電』
『効果:スラスター停止、カメラ停止、本体から武装へのEN供給停止 解除条件:軸受麻痺、接続不良、漏電のいずれかのバグの解除』
スラスター無し。目は映らず。武装はいまチャージしている分のENしか使えない。
こんな状態で、ニコさんと戦うなんて――
(無理だ)
負ける。
このままじゃ、負ける。どうしようもない。
「まったく、つまらない展開になったわね。残念だけど、終わりよ。シキ」
幕切れ。終わり……?
(嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……! 負けたくないっ!!!)
僕がここで落ちたら致命的だ。この2人は絶対にここで落とさないといけないっ!
(約束したんだ月上さんと! 勝つために……ラビちゃんを、ロゼッタさんを、イヴさんを巻き込んだんだ! ここで、僕が落ちるわけにはいかないんだっ!!!)
頭に、声が響く。
――『もし自信が無い時は、私や星架ちゃんのことを思い出してよ。レイちゃんが『凄い』って、『かっこいい』って思っている私達が、君を『凄い』、『かっこいい』って思ってるってこと、思い出して』
――『君の『駒』としての重要性は大幅に上昇した。簡単には落ちてくれるなよ』
――『ま、今回も暴れてくれよ。エース』
――『だからレイ……勝手なお願いだけど、あなたに鍵を取ってきてほしい。あなた以外には頼めない』
月上さんの声が聞こえる。
――『私も流したい。あなたの体を』
脳が軽くなる。
感覚が解き放たれる。
目は見えないまま、だけど、世界が明瞭で明確になっていく。
無限の万能感が身を包む。
「このまま、終わらせはしない……」
「目も見えないでどうするってんのよ!」
スラスターの音が近づいてくる。
「暗闇、1人の世界。むしろいいじゃないですか」
昔から、暗い部屋で布団にくるまるのが好きだった。
「集中できるよ……!」
「はぁ?」
ニコさんの突進斬りを屈んで躱し、ニコさんの両腕を押さえ、お腹に右膝を入れる。
「かはっ!?」
多分怯んだニコさんの服と腕を掴んで引き寄せ、投げ飛ばす。
「~~~~っ!?」
ニコさんは多分空中で立て直し、低い姿勢で着地した。
「……どういうことですか。目は見えないはず……!」
「集中しろペテル! ……別人だ!!!」
多分同じ場所に居る2人に、僕はスタークを向ける。
「ペテルさん、ニコさん。すみません」
スタークを持つ手と逆の手、左手の人差し指と中指を立てる。
「御二人には、あと2分で退場していただきます」
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