第204話 ラビリンスvsPPP
「それは違う……恋敵は君だぁ! なぜなら主人公は私なのだから!」
「馬鹿を言うな。この世界! この人類史の主人公はこの私だ! つまり、恋敵はお前だぁ!!」
あのぉ、もう少しわかりやすい日本語でお願いします。
「くくく……! 君は愉快な友人がいっぱい居るねぇ」
「ロゼッタさん、面白がってないでなんとかしてください。あの人、敵国の王ですよ」
ラビちゃんとピーさんの顔つきが変わる。
コミカルな空気からシリアスな空気へと移行する。
「……面白い。お前が主人公だと言うのなら、素養を見せてみろ」
ピーさんは両拳を握り、構える。あの構えは――
「ボクシング……?」
「へぇ。肉弾戦か。それなら……」
ラビちゃんもサバットの構えを取る。ボクシングの構えに似ているものの、重心が違う。ピーさんは両足に体重を乗せているが、ラビちゃんは軸足に体重を集中させている。蹴りを選択肢に入れているか、そうでないかの違いだ。
「と、止めないと!」
「もう少しいいじゃないか。彼女のボクシングを無料で生で見られる機会なんてないよ?」
「?」
それってどういう――
「いっくよ~!」
ラビちゃんは接近し、連続上段蹴りを繰り出す。
(速い! それにキレも凄い。前に見た時よりもさらに体術が向上している!)
しかし、ラビちゃんの攻撃は1撃も当たらない。ピーさんは膝を使って上半身を浮き沈みさせ、全て躱す。あの技術って確か、ダッキングとかウィービングって言うんだっけ?
「ならこれでどう!」
ラビちゃんは下段へ蹴りを出す。
(うまい。ボクシングは足に対する攻撃には慣れていないはず!)
ボクシングにとっては急所のはずの、下段への攻撃。なのに、ピーさんは待っていたと言わんばかりに笑った。
ピーさんは軽やかなバックステップで蹴りを躱し、着地と同時に床を踏み砕いて突進する。
「!?」
突進からの速射。
ピーさんの左拳がラビちゃんの頬を掠める。
(ここからでも辛うじてでしか見えない速度。ラビちゃんの距離じゃほとんど見えていないんじゃ……)
ピーさんのジャブの連発。あの逃げ上手なラビちゃんが回避ではなく防御を選択し、拳を腕で受ける。
だがそれも限界がきて、ガードが崩れる。ラビちゃんは堪らず、後ろへ飛んだ。ピーさんはラビちゃんの動きを読んでいたのか、ラビちゃんが後ろへ飛ぶと同時に大きく前にステップを踏んだ。
今まで封印されていたピーさんの右拳が、後ろへ引かれる。
(ストレート! 来る!)
ピーさんの右ストレート。ラビちゃんは腕をクロスさせて完璧に防御する。でも、
「ぐっ!?」
ガードごと押し込まれ、体を浮かされる。
「つぅ……!」
「……やるなぁ! 口先だけではない。良い読みと反射だ」
あのラビちゃんがほとんど一方的に……!?
「強い……」
「そりゃそうさ。PPPはリアルで女子ボクシングライト級世界チャンピオンだからね」
「え!? そうなんですか!?」
「そうだよ。有名な話さ。1度もKOをくらったことはなく、勝った試合は全てKO勝ち。挑発してきたミドル級の男子ボクサーを喧嘩で負かした逸話もある」
うっわぁ……。
「その鋭いパンチと尊大な性格から、付いたあだ名は『QUEEN BEE』。女王蜂さ。ま! 女王蜂ってあんまり刺さないらしいけどね」
「最後で台無しです……」
「世界チャンプとか知ったこと無いよ……」
ラビちゃんの目が鋭く光る。
「やられたらやり返さないと……!」
ラビちゃんの負けず嫌いの心が前面に出る。
「いい気概だ。来い。遊んでやる」
2人は向かい合い、また拳を握る。
2人がダッシュした刹那、僕は間に割り込み、右手のG-AGEをピーさんに、左手のスタークをラビちゃんに向け、止める。
「……いい加減にしてください。試合前ですよ」
僕が言うと、2人は握った拳を解いた。
「そうだったな。興が乗り過ぎた。まさかシキ以外にもここまで面白いメスがいたとはな」
ピーさんは搬入口へ足を向ける。
「シキよ」
ピーさんは背中を向けたまま、
「我々が優勝したら、我がコロニーに移住しろ。そうすれば、お前も惑星攻略に参加させてやる」
そ、そう来たか。
実際そうなったとしたら、僕は――
「待っているぞ」
ピーさんは堂々とした歩き姿で格納庫から去っていった。
「相変わらずだね」
ロゼッタさんはそう言ってジャケットのポケットに手を入れた。
「会ったことがあるのですか?」
「前に彼女から武器を買ったことがある。欲望は至ってシンプル。しかし欲望を叶えるための手間は一切惜しまず、豊富な手段を駆使してくる。人を見る目もあるし、戦術眼も本物だ。ただ根本がアホだけど」
間違いなく、月上さんや千尋ちゃんと同じ、常人とはかけ離れた場所にいる人だ。
「さぁさぁ! 気を取り直して作業に戻りたまえ~」
ピーさんの存在に圧倒されていた技師さんたちに、ロゼッタさんは発破をかける。
「とんだ邪魔が入ったけど、本来の目的に戻ろうか」
「あ、そうでした。アレを見に来たんでしたね」
僕はロゼッタさんについていき、とある新兵器の前で立ち止まる。
「おぉ~! これが……」
「そう。次の作戦の肝さ。最高の嫌がらせだろ? それでいて費用はぜ~んぜんかからない」
コレ……いいなぁ。
「あの、ロゼッタさん。これって武装に落とし込めたりできないですか?」
「ん? ああ、できるよ。というか前に作ったことがある。欲しいかい?」
「はい! あ、対価は払います」
「対価ね。それじゃ、オフ――」
「それは断ります」
「……それなら、吾輩の武装構成を一緒に考えてくれないか? 少し弄りたくてね」
「わかりました! あと、材料費もちゃんと払います」
「マメだねぇ~」
ロゼッタさんと共に武装の調整を終えた後、僕はロゼッタさんに頂いたリストバンドを嵌めた。転送位置を指定するリストバンドだ。
次の試合、僕はメインシップスタートではない。サブシップ・アスター1の格納庫からスタートだ。
「ふぅ」
余った時間、1人、メインシップのレストルームで意識を休ませる。
「そろそろだねぇ♪」
「うわぁ!?」
上からラビちゃんの声が聞こえた。
天井を見上げると、なぜか天井に隙間ができていて、その隙間からラビちゃんは顔を出していた。
「入り口から来なよ……」
「よっと」
ラビちゃんは僕の前に降り立つ。
「どっちが活躍できるか、勝負だね」
「にっしし! 負けないよ~、シキちゃん♪」
僕とラビちゃんは手を合わせる。
「最強コンビ再結成♪」
「この前も一緒のチームになったけど……」
「アレは別枠。邪魔者もいたしね」
「あはは……」
「また暴れようね。シキちゃん!」
ラビちゃんは可愛らしくウィンクする。
「うん!」
僕は笑顔で返事する。
幼い日の思い出が蘇る。ラビちゃんと一緒に、駆け回った日々を思い出す。またあの時と同じように、ラビちゃんと一緒に遊べる。それがたまらなく嬉しい。
青い雷が僕らの全身に走る。体の感覚が無くなっていく。
景色が一変する。
『ステージ名・砂漠1。戦闘開始します』
明けましておめでとうございます。
今年も『スナイパー・イズ・ボッチ』をよろしくお願いします。





