第197話 ラストスパート
――スピカ・セーラス、メインブリッジ。
「アスター1を下げろ! メインシップを盾にしていい! 相手の狙いはサブシップだ! 艦内のスペースガールは整備士共々出ろ! アスター1を守り切れ!!」
カムイは慣れないながらも指示を出し続けていた。
指示を出すと宣言していたシキも、実際には目の前の敵の対処に精一杯で指示を出せず。仕方なく、カムイは艦長の役割を1人で実行していた。
カムイの指揮は及第点レベルだ。決して高い指揮能力は持ち合わせていない。それでも戦線をもたすことができたのは彼女が『必死』だったからだ。彼女の必死さにブリッジメンバーが応え、サポートした。テロリスト紛いのやり方で指揮系統を奪取されたものの、カムイの勝利に向かう心に彼女たちは呼応した。
格ゲーマーとして、プロの世界で戦ってきたカムイは勝利への飢えが強い。しかもここまで本ゲーム内ではシキ、チャチャ、ツバサに惨敗している。チーム戦とはいえ、ここにきてまた敗北するわけにはいかない。彼女の勝利への欲求は不器用ながらもこの部隊を動かしていた。
カムイは小さく笑う。
「……命令ゆえに仕方なく参加したが、得るものはあったよ六仙」
モニターの先で、戦艦が湖に着水する。
「アスター1墜落! もう自力で動けません!」
「浮上はできるのか?」
「は、はい! なんとか! でも水面に浮くのがやっとです!」
「……いや、むしろ逆にいくか。――アスター1を沈めろ! 湖に隠せ!!」
沈めた所で相手は熱源をロックして当ててくる。それでも、外気に晒すよりは狙いを乱せる。
「敵メインシップ来ました!」
カムイは立ち上がる。
「リーダー役はここまでだ。我の戦場はここではない」
カムイは艦長席から降りる。
「カムイ! どこに行く!」
「後は副長、あなたに任せる」
カムイはブリッジの壁をぶち破り、外に出る。
カムイは雷の翼でアスター1の上空に行き、アスター1の追撃に来たスペースガール達を両手の波動で焼却する。
「カムイだ……!」
「スピカで指揮を執ってたんじゃ……!?」
アスター1上空にはすでに30機以上のオケアノス兵が飛んでいる。
「聞けい! 皆の衆! 最早あの戦艦の主砲を避けることはできん!! 我らが壁となり、アスター1を守るのだ!!!」
カムイが声を張り上げる。
敵メインシップ、稲荷宝船は主砲にエネルギーを充填する。
「壁になれ! シールドピースを展開せよ!! ここを守り切れば、必ずや奴が勝利を掴む!」
カムイの指示に従い、30数名のスペースガールは敵メインシップに体を向け、無数のシールドピースを展開した。
――試合終了まで、残り10秒。
稲荷宝船主砲から、強力な粒子収束弾が発せられる。同時に、遥か遠方からバリアブルキャノンのレーザーが放たれた。2本の光の線はすれ違い、互いに敵のサブシップを狙う。
オケアノス兵は粒子収束弾に立ち向かう。
「「「「「うわあああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」」」」」
雄たけびと悲鳴が混じり合い、戦場に鳴り響く。
スペースガール達は壁となり、そしてあっという間にレーザーに吞み込まれ、撃ち払われた。
「波動焼却砲!!!」
最後の関門、カムイが両手の波動を全開にし、エネルギー波を受け止める。
「ぬ、ぐ、ぐっ……!!!!」
仲間のおかげ威力は減衰したものの、やはり、単騎ではとても支えきれない質量だ。
(防ぐ必要はない! 残りの全ての力を使って、この質量を流す! 直撃さえ免れることができれば……!!!)
カムイは呼吸を整え、ベストなタイミングで力を振り絞る。
「こ……こ……だああああああああああああああああっっっ!!!」
カムイは最後の力で波動を傘のように広げ、粒子収束弾を受け流すことに成功する。同時にカムイは全身を焼かれ、消滅した。
逸らされた粒子収束弾はアスター1に当たるも芯は捉えず、艦の左側面を焼き払われるだけで済んだ。あと1分もすればアスター1は崩壊するが、制限時間まではもつだろう。
そして――先ほど遠方から放たれたレーザーは見事狐俱里のサブシップ動力部を捉え、その後間もなくサブシップは爆破した。
残り0秒。試合終了。
オケアノス――メインシップ1隻 サブシップ2隻
狐倶里――メインシップ1隻 サブシップ1隻
勝者、オケアノス。
これにて、第一回戦終幕。
狐倶里の敗因:サブシップの動力部を全部同じ場所にしていたこと。




