第196話 極限バトル
狐倶里・サブシップ艦上。
「ありえへん。狐火で強化されたウチと、速射で張り合っとる」
シキとコナもんの早撃ちの速度はほぼ互角。
それでもコナもんが優勢なのは『足場』の差だ。コナもんは戦艦の上に陣取り、足場が安定している。一方でシキはワイバーンという不安定な足場の上だ。わかりやすい乗り物で例えるならば、コナもんはトラックの上に陣取り、運転は他人任せ。一方でシキはバイクを自身で運転しながら狙撃しているようなもの。
シキの方は自然と回避後の隙は大きくなり、処理する情報も多大になる。
条件は圧倒的にコナもんが有利。なのにシキを詰め切れない。
「それでも、この戦術を続ければウチが勝てるやろ」
勝てずとも、シキを釘付けにしているだけで儲けものだ。
(アンタさえ抑えられれば、ウチらの勝ちは揺るがん!)
コナもんはスコープ越しにシキを見る。
シキはその場で足を止め、狙撃銃を構えた。
(くる!!)
シキの精密射撃。コナもんは横っ飛びし回避。高速移動中に引き金を引く。
(狙撃した後は誰もがワンテンポ隙を生むもんや。そこを狙ったウチの狙撃。対応できへんやろ)
精密射撃時の姿勢は決まって動きやすい姿勢ではない。姿勢を安定させるということは、しっかり足で、体で根を張るということだ。狙撃後に移動する場合、その根を引っこ抜いてから動くのだから、ワンテンポの隙が生まれる。
ならば。と、狙撃手は笑う。
――ならば、根を張ったままにすればいい。
「は……?」
コナもんは、信じられないものを見た。
自分が放った白い光が、黒い光に、弾かれたのだ。
シキは狙撃を――盾に使った。
「相殺!?」
シキは狙撃体勢のまま変わらず、コナもんを狙っていた。
「――あかん!!!」
次の瞬間、コナもんは手に持った狙撃銃を撃ち抜かれ、破壊された。
(動揺した一瞬を突かれた!?)
回避・防御を捨てたシキは更に射撃の速度を上げる。
コナもんはスターク・アステリズムによる追撃の連射を、一身に受ける。1発も体を貫かなかったのはひとえに狐火のおかげだ。それでも急所の耐久値を80%削られた。
「まだ!!!」
コナもんは新たなライフルを装備し、シキに弾丸を放つも、その弾丸も後出しの黒いレーザーに撃墜された。
さらに4発速射するも、悉くを撃ち落とされる。4発目を相殺された刹那、コナもんはマルチピースの攻撃を喰らってしまう。狙撃後の隙を、今度はシキの方から突かれてしまった。
「嘘……やろ。狙撃を、狙撃で落とすなんて……!?」
――人間業じゃない。
コナもんの脳裏に、ある日のシキの言葉が響く。
――『集中すれば相手の数秒先の未来が見えるから』
「……マジで、見えるんか……!?」
酷く動揺したコナもんに、狙撃の雨が降り注ぐ。
コナもんの核は撃ち抜かれた。数秒後にデリートする。しかし、コナもんは笑っていた。
「あかんわ……負けたのに笑ってまう」
狙撃手の可能性を見せられたコナもんは、満足気にデリートされた。
その後、シキはサブシップを対艦サーベルで撃墜。対艦サーベルはそこでEN切れとなり、投棄された。
これで互いにメインシップ1隻 サブシップ2隻――
---
僕は大きく息を吐く。
「だっはぁ!!!」
なんとかサブシップを落とせた。つっかれた!!
「あ……アレはダメだ。弾で弾を落とすのは精神的な疲労が半端じゃないっ!」
コナちゃんにもう少し粘られたら僕の精神力がもたなかった。
「あんなのそうやるものじゃないね……」
ともかく、後はメインシップを落とすだけ!
「!?」
狐倶里のメインシップに視線を移し、驚いた。
なぜか戦艦全体から赤い火花を放っている。
「戦艦を狐火で強化してるの……!?」
メインシップはそのまま凄まじい出力で加速し、湖の方へ向かった。
「え!? なんで!?」
『シキっちょ大変だ!』
「チャチャさん! こっちも大変です! 相手のメインシップが……!」
『見えた見えた! 相手はメインシップを使ってこっちの戦艦を落とす気だよ!』
「なんでそんな博打を……! それって、こっちのメインシップの射程にも入るってことですよ!」
戦艦の特攻なんて……いくら狐火の強化があっても、ランダム性があり過ぎる。まともな手段じゃない!
『時間見て時間!』
「時間……? ――まさか!!」
1試合の試合時間は60分。
そして、もう体感かなりの時間が過ぎている。端末から時間を確認すると――
「残り、1分30秒……!?」
『時間切れで終わった場合、サブシップの数で勝敗を決める。いま、サブシップの数は互角だから――』
相手の狙いはこっちのサブシップか!
「カムイさん! オケアノスのサブシップの状況は……!」
戦艦は損傷率75%で撃墜扱いになる。30%未満だと嬉しいけど――
『アスター1の損傷率56%、アスター2が48%だ。敵はサブシップも前線に投入し、こっちを釘付けにしている』
どっちもギリじゃん……!
「主砲でサブシップを落とせませんか!?」
『相手の弾幕が激し過ぎて攻撃に回れん!』
「シキっちょ!」
チャチャさんがエンジン付きの『飛ぶ砲台』バリアブルキャノンを持ってきてくれた。
僕はワイバーンからバリアブルキャノンに飛び移る。空いたワイバーンにはチャチャさんが乗る。
「引き分けだとどうなるんでしたっけ?」
「勝ち点1! ちなみに勝つと勝ち点3ね!」
成程。引き分けだと旨味はあまりないわけだ。それなら、博打でも勝ちにいくのは頷ける。
「僕も引き分けは嫌いだ……!」
僕はバリアブルキャノンのハンドル(バイクのハンドルに似たもの)を握り操作する。キャノン砲の長い砲身を振り、砲口を高速で動く敵メインシップに向ける。
「砲身の問題で撃てるのは2発までだよ!」
「了解です!」
このバリアブルキャノンには4つのモードがある。『散』、『連』、『爆』、『狙』。僕はハンドルの中央にあるモニターを操作し、モードを『狙』にする。
(試し撃ち!)
狙いを定め、放つ。
戦艦主砲並みの威力のレーザーが飛んでいき、メインシップの側面を削る。ダメージは微々たるもので、戦艦は怯むことなく飛んでいく。
「外した……けど、ラインは読めた。でもでも、戦艦を撃ち抜けても動力部が無事なら制限時間いっぱいまで耐えられるなぁ……次からは防御もされるだろうし……」
「そりゃつまり、メインシップを落とすのは不可能ってこと?」
「はい……この残り時間では無理です」
サブシップの動力部の位置は把握している。
狙うならやはり、
「カムイさん! 敵サブシップの座標を細かく教えてください! 1隻は落として見せます!」
『こっちの防御はどうする!?』
「なんとか根性で耐えてください!!!」
試合終了まで、あと――30秒。
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