第195話 速射狙撃
――VIPルームA。
シキの活躍を前に、1番に喜んで見せたのは味方の六仙ではなくPPPだった。
「見よ! これが我がプリンセスの力だ!! フハハハハハハッ!!! シャンパンを持ってこい」
「そこの受話器から自分で頼みなよ。やれやれ……なんとか勢いを傾けたか」
「ふふふ……」
PPPはともかくとして、狐姫まで笑っているのを六仙は見逃さない。
「なぜ笑っているのです? 余裕の笑みってやつですか」
「いえいえ。これで同時視聴者数が増えるなと。ほら見てください。同時視聴者数が100万を超えましたよ。最高の出だしではないですか」
「視聴者が釣れれば、自軍が負けてもいいのですか?」
「まさか。最後にはやはり勝ってほしいですよ。皆、私の良き友人達ですからね」
六仙はモニターからオケアノスの戦艦を見る。
(艦内まではカメラが回っていないから中で何が起きたかはわからない……ネス君からミフネ君が落ちたという連絡が来た時は驚きを通り越して呆れたよ。メインシップは1撃も喰らっていない。艦内に敵が侵入したとも考えづらい……つまり、内部で裏切りがあったんだ。その結果、シキ君が前に出たと考えていいだろう。内部はガタガタになっている可能性があるな……)
六仙は小さくため息をつく。
「……めんどくさいことになってるだろうなぁ。まぁいい。とりあえず、今はこの勢いのまま決めてくれ」
狐倶里は前線に戦力を投入し過ぎた。おかげで、カウンターに対して無防備な状態にある。
緩んだ守備を狙うため、1人のスナイパーが狐倶里のメインシップに近づいていた。
---
索敵を始めること10分。
僕は山の影に隠れる敵メインシップを見つけた。
「……チャチャさん。バリアブルキャノンを僕のいる座標まで投げられますか?」
『投げることはできるけど、撃墜リスクが高いねん。ちょい待ち、チャチャさんがそっちまで運ぶわ』
「大丈夫ですか? 敵の攻撃にさらされますよ」
チャチャさんは非戦闘員だ。敵の弾幕を搔い潜り、ここまでTWを持ってくるのは難しいはずだ。
『だいじょぶ。なんとかするよ』
そう仰るのなら任せよう。チャチャさんなら本当になんとかするだろう。
『3分以内に持って行くね』
「お願いします!」
バリアブルキャノンさえあればやりようはある。
それまではこの山の森の中で身を隠せばいい。まだ敵メインシップまでの距離は3kmある。敵のレーダーは届かないはずだ。
「!?」
僕は咄嗟に屈むが、右肩にレーザーを掠らせた。
背後からの攻撃。神眼のおかげでギリ反応できた。後ろを見ると、僕から1km離れた位置にサブシップが飛んでいた。
「あそこから……」
僕は狙撃銃のスコープでサブシップを見る。サブシップの上に、見たことのある狙撃手がいた。
「コナちゃん!?」
しかも、赤い粒子を大量に放っていた。明らかに他の人と別格の量の狐火を受け取っている。
「まっずい!」
狙撃が次々と飛んでくる。僕はなんとか躱し、木の後ろに身を隠す。
「狙撃の間隔が短い……! 狙撃の速射、それがあの子の持ち味だ……!」
その分射程は短い。2km離れれば一方的に倒せる。けれど、
(後ろに下がると今度はメインシップの有効射程に入る。この配置、意図して誘い込まれたかな)
思えば簡単にここまで入り込めたものだ。きっと、あの湖から誰かにマークされていたね。
(死角に居れば、狙撃はできないでしょ)
木陰から木陰へ移動する。けど、
「っ!?」
変わらず、精度の高い狙撃が飛んでくる。
この森の中、正確に姿を捉えられている。
(場所が割れてる!? 観測手か!! まったく気配を気取らせないなんて、さすがはコロニーの精鋭……!)
スポッターを詰めるのは難しい。きっと軽装備で、スラスターやステルス性にステを振っているはずだ。しかもあの狐火とかいうので強化されている。見つけたとして、撃墜には手間取る。今は無視だ。
「ここに居るよりは、まだ上に行った方がマシか」
僕は森に隠しておいたワイバーンの所に行き、起動させ、空を飛ぶ。
視界が開けた。これなら見える。
「アステリズム!」
僕はアステリズムでΔシールドを展開し、狙撃を跳ね返す。しかし跳ね返したレーザーはシールドピースで防がれてしまう。
僕もスタークを構える。狙撃勝負だ。僕が弾を撃つと、コナちゃんは艦上を転がって避けて、体を回転させながらも狙撃を放ってきた。僕はΔシールドを広げて受けるも、Δシールドを貫通され、レーザーを頬に掠らせた。
「……あの体勢からも撃てるなんて。狙撃手として射程は短いものの、それを補って余りある能力だ……」
Δシールドは面積を広げると防御力が落ちる。かなり絞らないと狙撃は返せないね。
万全なら広げたΔシールドで防げただろうけど、さっき酷使し過ぎたかな。アステリズムの出力が40%程落ちている。
(僕の狙撃に対するカウンター狙撃がきつい。Δシールドは広げるより狭める方が難しい。狙撃に集中してすぐ頭を切り替えてΔシールドを絞るのはまだ無理だ。かと言って狙撃体勢を解いて回避すると、相手の追撃を受けるだけ。時間の無駄だ)
相手のサブシップに攻撃を集中させようか。コナちゃんが避けたスタークの1撃は一応サブシップの装甲は撃ち抜いた。あと何十発と浴びせれば落とせる……かも。いやいや、きっと攻撃をもらってすぐ修理してるでしょ。こっちのサブシップだって穴が空いてもすぐロボに修理されたんだから。サブシップ狙いは無いかな。まずはコナちゃんからだ。
「……狐火によるステータスの大幅バフにコナちゃんの速射狙撃のスキルが噛み合って、間を置かない狙撃の連打を可能にしている。厄介だ」
バリアブルキャノンが届くまでに、あのサブシップは落としたい……いや、焦るな。後ろにはメインシップもいるんだ。下手に攻めて後ろに隙は見せられないぞ。
(くぅ……! 手が足りない! こういう時、あのサブシップに対して突っ込める人や、メインシップを抑え込める人がいれば……!)
大体カムイさんが戦艦に縛られている状況がわけわからない。あの人の適性は完全に前線、兵士なのに!
「って、いけないいけない。現状を嘆いたってなにも始まらないぞ……!」
こう考えている間も狙撃は絶えず飛んできている。アステリズムで防いでいるけど、アステリズムのエネルギーだっていつまでももつかわからない。しかもアステリズムが反射した弾は、あの位置に届くまでに威力のほとんどを使ってしまう。容易く弾かれる。
いま、僕の乗っているワイバーンには対艦サーベルが引っ付いている。これでサブシップを落とせるか。狙撃を回避しつつ突撃。これが1番ベター……。
「……」
しかし、この狙撃勝負から降りるのは癪だ。
コナちゃんは狙撃で落としたい。
「そうだ……狙撃からシールドに切り替えるのが難しいなら、切り替えなければいいじゃないか」
この連射狙撃で、コナちゃんの弾のラインは完全に把握した。
後は未来を見て、タイミングを合わせれば潰せる。
「……やれるか」
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