第194話 一機当百
僕はサーフシールドで弾幕を掻い潜りつつ上昇し、狙撃銃で敵機を牽制する。
(攻撃の波が段々と規則的になっていく……そろそろか)
敵集団が呼吸を合わせた。一斉射撃がくる!
「パージ!」
サーフシールドを足から切り離し、サーフシールドを僕の前面に展開する。
「呼吸合わせェ!!」
0.3秒の静寂。
「放てェ!!!」
飛んでくる無数のレーザーにミサイル。僕はサーフシールドに脳波で指示を出す。
(回れっ!)
サーフシールドが高速回転する。
(シールド展開!!!)
サーフシールドを基点として、球体の電磁シールドを展開。シールドは僕を包み込み、四方八方からの攻撃を全てガードする。
「なに!? 全方位シールドだと!!」
「チャチャさん! ミサイルポッドと加速装置を射出してください!」
『OK! 108連装ミサイルポッド『テンパチ』&『アクセルリング』射出!!!』
攻撃は止んだ。
シールドを解き、アステリズム12基を展開する。
「今度はこっちの番だ!」
スタークを速射モードに切り替え、アステリズムと共に一斉射撃を開始する。
アステリズムは優秀な武装だけど1撃で相手の装甲を貫ける程の威力は無い。だからアステリズムには相手の武器を狙撃したり、シールドピースを削ってもらう。武器を失い、隙のできたスペースガールをスタークで丁寧に落としていく。
「放てェ!!!」
「サーフシールド!」
再び相手の一斉攻撃。サーフシールドでガードするも、さすがに限界が訪れ破壊される。サーフシールドで防ぎ切れなかった攻撃はアステリズムのΔシールドで対応する。
「来た……!」
湖から無数の影が飛来する。
「なによアレ!?」
「リング!?」
敵勢が驚く。
湖から飛び出してきたのは輪っか。機械のリングだ。あのリングは加速装置。
数は80。リングは個々でエンジンを内蔵しており、エンジンを吹かして空中を飛び回る。
『チャチャさん製作! アクセルリングよ!』
さらに、リングの影に隠れてウィングユニット付きのミサイルランチャーが飛んできた。
「ちょっと遠いかな」
僕はアクセルリングの輪の中を通る。すると、僕の体は超加速し、スラスターも回復した。その勢いのまま2つのアクセルリングの中を通って更に加速。ミサイルランチャ―『テンパチ』に追いつく。
(ウィングを一旦データ化して、テンパチをスラスターに接続!!)
テンパチを背中のスラスターに合わせる。
「連結完了!」
そのまま上昇し、敵部隊の上を完全に取る。
大量のミサイルポッドが付いた飛行ユニット『テンパチ』。僕はテンパチに付属するゴーグルを装着し、敵機を次々とロックオンする。
「……ロックオン完了。一斉射撃!!!」
108発のミサイルを発射する。ミサイルには追尾性能があり、逃げた敵機も追尾し、攻撃する。
「いっけえええええええええええええええっっっ!!!」
湖の上に、大量の花火が咲き乱れる。
「パージ!」
テンパチは使い捨て兵装だ。ゆえに、ミサイルを使い切ったら投棄する。
「……今ので30は削れたかな」
『シキっちょ! アクセルリング残り1分で落ちるよ!』
『シキ。敵のサブシップ1隻が動きを見せた。警戒しろ!』
「了解です!」
僕はG-AGEとウィングを装備する。
「あの人がこの前線の肝だね……」
狼耳のお姉さん。
明らかに1人だけ動きが良いし、陣形の中心になっている。
(突っ込むか)
僕はアクセルリングで高速移動し、前線部隊の指揮官と思われる人の背後を取り、G-AGEで後頭部を狙う。
「なっ!?」
アクセルリングを使った奇襲。死角で動かれたらまず反応できない。
発砲し、後頭部を破壊する。
何が起きたか理解できないまま、狼耳のお姉さんは落ちていく。
「そんな……!」
「ツンドラ隊長が!?」
お姉さんは空中でポリゴンとなって散る。
敵軍勢に、明らかに動揺が走った。やはり、今落とした人は前線の要……。
「よし、これで……!」
敵機を落とした後はアクセルリングを使用して素早く退避。
「磁槐砲ください!!」
『あいよぉ!』
僕はアステリズムで敵部隊の攻撃を凌ぎながら、磁槐砲の到着を待つ。
『いったよ!』
「良かった。今度は近くだ」
僕の近くにランチが飛んでくる。ランチは僕の傍で装甲をパージし、中に内蔵されたバズーカ砲を出す。
僕はバズーカ砲を装備し、バズーカ砲のスコープで着弾地点を定める。
『気を付けてね。変な所で炸裂させると味方への被害も甚大だよ』
「はい」
味方を巻き込まず、できるだけ多くの敵を落とせる場所。
(あそこだ)
僕はバズーカ砲から砲弾を発射する。
砲弾は敵陣形の深い所で炸裂した。
『磁槐砲の砲弾は2度炸裂する。まず1度目の炸裂で強烈な磁力を放ち、敵機を着弾地点に引きずり込む。そして2度目の炸裂で……ドーン!』
砲弾が炸裂した場所、僕から200m離れた場所で、不思議な現象が起きる。砲弾の炸裂地点に黒い球体が現れたのだ。アレは砲弾の中に仕込まれていた『磁性爆弾』。強烈な磁力で周辺の金属を引き寄せる。
磁性爆弾は半径100m以内のスペースガールやTWを引き寄せていく。まるでブラックホールだ。そして敵機を十分に引っ張り込んだ後、磁性爆弾は爆発し、半径70m以内の全ての物体を破壊した。
「半分を切った。――カムイさん!」
『了解だ! 浮上する!』
しかしここで、敵のサブシップが1機姿を見せる。
『タイミングの悪い……! 浮上中は主砲の狙いが定まらんぞ!』
嫌なタイミングで差し込んでくる……!
『シキっちょ、バリアブルキャノンを出すかい?』
「いえ、あれはメインシップの攻略に残しておきたいです。対艦サーベルを要求します!」
『了解。届くまでに落ちないでよ?』
敵サブシップの無数の機関砲・機関銃が、僕を捉える。
「狙いは僕か……!」
アクセルリングを使おうとするも、ちょうどアクセルリングは充電を切らせ、落下してしまった。
「くっ!」
先手を打ちスタークで狙撃するも、戦艦用シールドピースに簡単に弾かれてしまった。
サブシップから無数のレーザー・ミサイルが放たれる。
僕はライトウィングを使い、全力で回避するも、レーザーにもミサイルにも追尾性があり、避けきれない。
「Δシールド!!!」
アステリズムのΔシールドでなんとか被弾は回避する。しかし、あまりの攻撃の苛烈さにアステリズムが10秒足らずで6基も撃墜された。
(まずい! スラスターが切れる!)
『シキ! 下を見ろ!』
僕の真下に、ワイバーンに乗ったチャチャさんが居た。
「やっほー! 独断で届けに来たぜぃ」
「痒い所に手が届きますね!!」
「対サーも来てるよん」
チャチャさんが指さす方を見る。すでにパージを終え、剥きだしの対艦サーベルが飛んでいた。
僕がワイバーンに乗ると同時にチャチャさんは飛び降り、パラシュートでゆったりと落下を始めた。
『浮上完了した! シキ! どうする! 主砲を使うか!?』
いや、相手のサブシップは思っていた以上に小回りが利く。主砲1発で仕留められる可能性は低い。
「いえ! 手数です! 敵艦全体に弾をばら撒いてください! 相手の防御範囲を広げ、シールドピースを散らして欲しいです!」
『承知した!」
僕はワイバーンを使い、対艦サーベルを受け取る。両手じゃないと持てないほど大きなサーベル端末だ。これを起動させると15.5mのレーザーサーベルになる。
しかし、あくまで戦艦も斬り裂けるサーベルであって、一刀両断できるサーベルじゃない。急所を狙わないと1撃で撃沈は無理だ。
(1撃で決めないと反撃が怖い……!)
援護射撃が飛んでくる。
スピカ・セーラスのホーミングレーザーとホーミングミサイルが相手サブシップのシールドピースを散らし、僕の視界をクリアにする。
僕は敵艦に近づきながら、目を凝らす。
(動力部、どこだ。わからない。こっちのサブシップと同じとは限らないし……!)
足りない。
眼が、足りない。
(この一瞬だけでいい。お願い……!)
わかる。今日の僕は、∞バーストに入れるコンディションじゃない
だがそれでも、長い時間入ることは無理でも、たった一瞬、相手の急所を見つける一瞬だけなら……!!!
「すぅ……はぁ……」
1度目を閉じ、自身の精神に焦点を当てる。
――渇きかけの雑巾を絞り、一滴の雫を出すような感覚。
「ワンセコンド、∞……!」
瞼を開く。
戦艦の後方下部の一か所が光って見えた。
「そ、こ……かああああああぁぁっっ!!!!!」
僕はサーベルを展開。相手のシールドピースを躱し、超巨大なレーザーサーベルで光った部分を狙う。
サーベルで、戦艦を突く。ジックリと手応えを確かめた後、サーベルを抜き、戦艦から距離を取る。
「――いったね」
戦艦の動力部が爆発し、サブシップは半壊の状態で落下を始める。
すると、サブシップから大量のスペースガールが湧き出て来た。
「面白い距離……!」
僕は対艦サーベルをサブシップから出て来た集団に向けて投げる。不意打ちで飛んできた回転する対艦サーベルに集団は撥ねられ、宙を舞う。僕は投げた対艦サーベルを回収し、電源をオフにした。
そのすぐ後、スピカ・セーラスの追撃により敵サブシップは全壊した。
――サブシップ撃墜!
僕は対艦サーベルの端末をワイバーンに引っ掛け、再び加速する。
『単騎でスペースガール79機、戦闘機21機、戦艦1隻……一騎当千ならぬ、一機当百♪』
『素直に称賛するよ。これで振り出しだ』
湖上の戦力は五分になった。このまま湖上を綺麗にしたい所だけど……まだサブシップは1隻差ある。こっちからも仕掛けないとダメだ。
「防衛は任せます。僕は……敵メインシップの攻略に出ます!」
今回出て来た数々のTWをミフネが使わなかったのは『完璧に使いこなせるプレイヤーがいない』のと『全てチャチャ原案の兵器で、使いたくなかった』のが理由です。




