第192話 さぁ
第一回戦開始直前。
スタジアム内に存在するVIPルームAに六仙と狐姫とPPPは居た。3人の前には無数のモニターがある。ちなみにVIPルームはもう1つあり、そちらではステージBの試合が見られる。
六仙は対戦相手である狐姫に視線を向け、口を開いた。
「今回も予言をしたのですか? 狐姫さん」
「どうですかね」
「つまらんはぐらかしをするな。妖怪めが」
六仙は堂々とセンターを陣取るPPPに目を向ける。
「なんで君がここにいる。君のコロニーは休みだろ」
「ふっ。プリンセスの勇姿を見届けてやろうと思ってな」
「偵察でも無いのか……」
一回戦が始まる。
3人の王は両チームの動きを見て、それぞれ意見を述べる。
「転送位置はオケアノス有利だな」
「そうだね。こっちの戦艦は海戦最強だ。湖を上手く利用すれば大抵の攻めは跳ね返せる」
「一方で、狐倶里は山の裏に身を隠すベターな戦術か」
「ふふふ。ベター・イズ・ベスト、ですよ」
狐倶里の軍勢が迷いなく湖の方へ行くのを見て、六仙は目を細める。
「……やはり、予め策を授けているようですね」
次に、オケアノスが湖へとメインシップを隠す。
「む……ミフネ君はそう行くか」
「大胆だな。嫌いでは無いが、失策だ」
「全体を見ているとね」
「狐倶里の機動部隊を地上に残した部隊だけで処理するのは不可能だ。メインシップの援護が無ければ押し切られるだろう」
六仙はミフネに狐姫の能力について話していたが、ミフネの動きを見るに信用は得られなかったようだ。もしも狐姫の予知能力を信じていれば、メインシップを沈める判断を取るはずがない。
読みで負けるのであれば正攻法で対応するべきだ。ここはメインシップとサブシップ4隻で陣形を組み、完璧な防御態勢で迎え撃つのがベスト。読み切られた奇策ほど脆弱なものもない。
「しかも……なぜ奴はシキを地上に残さなかったのだろうな。アレは温存する類の駒でも無いだろうに」
六仙は「ふっ」と笑い飛ばす。
「ミフネ君は考えなしにこんなことをする人間じゃない。きっと、シキ君を温存する理由があるのさ」
「そうかな」
湖を囲む狐倶里の部隊を、オケアノスのサブシップ2隻が包囲網の外から急襲する。
「左右に散らせた別動隊で挟み込んだか。お前がリーダーに置いただけあって、それなりに頭は回るか」
しかし、それでも不利は変わらない。1対9で狐倶里優勢だったものが2対8に変わった程度だ。
「ダメですね。湖にいる戦力と、包囲の外にいる戦力でラインが作れていません」
「完璧に分断されている。挟み撃ちの形にはならないな。おやおやどうした六仙? 顔に焦りが見えるぞ~?」
「舐めるなよアウトロー気取り。ここからミフネ君が素晴らしい大逆転劇を見せてくれるさ。この戦いが終わった後、彼女はミラクル・ミフネと呼ばれるようになるだろう」
しかし待てど待てどもオケアノス軍は押され続ける。
このままでは特に見せ場も無く、オケアノス軍は沈むだろう。
「どうやらミラクルは起きないようだぞ?」
六仙もこういった状況を読んでいなかったわけじゃない。なんせ相手は予知能力のある狐姫だ。ミフネの作戦が裏目に出ることを、六仙はしっかり考慮していた。ゆえに、六仙は3枚のカードを用意していたのだ。戦況を返せるカードを……予知を覆せるカードを。
誤算だったのは――
「なぜシキを出さん? 射程が足りていないのに奴を出さない理由は無いだろう」
端的にPPPは問う。
「……考えがあるのさ」
ポーカーフェイスで言うが、六仙も内心では、
(なぜシキ君とカムイ君を出さない? 彼女達ならば、適当に出してもこの悪い流れを断ち切れるだろ)
状況は悪くなるばかりだ。
一方狐姫は、
「困りましたね。これでは、次回以降の同接に響きます……」
視聴者数の心配をしていた。
---
狐倶里サブシップ艦上。
防衛の要、コナもんは前線の戦局を聞き、眉をひそめた。
「なんでや。なんでシキさんを出さんの?」
自軍の優勢……なのにその表情は浮かない。
「まさか出さずに終わるんか? ありえへんやろ。オケアノスが1番、この代理戦争に入れ込んでるんじゃ無いんか?」
---
依然変わらず、真っ白な部屋にいる僕・チャチャさん・カムイさん。
チャチャさんが用意した電磁スクリーンで戦局を確認していたけど……。
「まずいですね……」
「まずいねぇ~」
「まずいな」
完全に作戦面で上回られている。
「あの赤い光はなんですか?」
「強化光子『狐火』。狐倶里が所有しているΩアーツだね。あの狐火を纏ったメカは性能を大幅に上昇させる。使用者の脳波数値が高ければ高いほど狐火は大量生産可能で、他人に分配することもできる。少なくともキャパ200人分はあるね」
「全体バフってやつですか……」
「チーム戦においてこれほど厄介なモノも無いな。条件によっては∞アーツ並みの能力を発揮するΩアーツ……まさに本領発揮だな」
このままじゃやられる。
「む。こちらのサブシップが1隻落ちたぞ」
「アスター3だね。残りの3隻もいつまでもつか」
「なぜあちらはメインシップもサブシップも前線に送らないのでしょうか?」
「確かにな。戦艦を持ってこられたら、こちらとしてはどうしようもない」
「いやいや。オケアノスはΩアーツを所持していない分、メインシップの性能は他コロニーを圧倒しているからね~。そう易々とスピカの主砲の間合いに戦艦は持ってこれない――睨み合いさ」
そういうことか。
スピカ・セーラスは度々主砲で敵機動部隊を狙うも、的が小さくて当てられない。けど、戦艦ぐらい大きな的なら狙えるもんね。しかも威力が強烈。急所に当てずとも、1撃でサブシップぐらいなら落とせる。別に回避できなくもないと思うけど、これだけ優勢なのにわざわざ危険領域に戦艦を突っ込ませる意味はないよね。
スピカ・セーラスが水中で使える武装は主砲のみで、他は水圧による威力減衰と精度低下により使えない。特に精度の低下が問題で、湖上はかなりの乱戦状態にあるため、無暗に攻撃すれば味方に当たってしまう。魚雷などの水中武装は使えるけど、相手もそれはわかっていて湖の中に突っ込んではこない。
「相手は上手いですね。欲を出して湖に潜りはしない」
「湖の中はこっちの間合いだからね。入ってきても水中用武装に撃ち払われるだけだもん。それに無理する必要ないじゃん。サブシップを削り切られて撤退されたら、もうこっちからできることないもんね。ゲームオーバー」
時間切れになればサブシップの総数で勝負が決まる。サブシップを削り切られ、あとは時間稼ぎに回られたら……終わりだ。
「サブシップ2隻目、落ちたぞ」
――勝敗はついた。
最早、今のオケアノス軍に勝ち目は無い。
「この戦艦を奪取します」
僕は装備を実体化させる。
「カムイさん、1人でブリッジを制圧できますか?」
「可能だ」
「では、まずカムイさんには天井をぶち抜いて真上のブリッジまで行ってもらい、制圧してもらいます。その後、カムイさんは艦長として指示を出してください」
「苦手な分野だな」
「僕が通信で指示を出すので、カムイさんはそれを全体に伝えてくだされば大丈夫です。あとブリッジで得た情報を僕に伝えてください」
「それならいける」
「僕とチャチャさんはカムイさんが空けた穴から脱出し、格納庫を目指します。僕は格納庫から出撃、チャチャさんは僕の合図でTWを射出してください」
「了解っちょ!」
月上さんと洗いっこ……じゃなくて、月上さんのお父さんが遺した物、それを手に入れるためにも、こんなところで負けられないっ!
「さぁ……暴れましょうか」
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