第191話 ハブられ3人組
「まさかいらっしゃるとは……」
「くくく。まったく、なんと面白い巡り合わせか」
「あ~りゃりゃ。シキっちょはともかく、カムイっちも一緒かぁ」
なんと、この牢屋に飛ばされたのは僕とカムイさんだけでなく、メカニックのチャチャさんもだった。
そういえばチャチャさんって正式な軍人ではなく、あくまで技術協力者って立場だったっけ。きっとここへ来た経緯は僕らとそう違いないだろう。一応聞いてみるかな。
「チャチャさんもミフネさんに?」
「そだよ~。『軍属でない者はいらん!』ってね。もう~、今日はスケジュールきつい中わざわざ来たのにさぁ~」
チャチャさんは肩を竦め、気怠そうに座り込んだ。
「お疲れみたいですね……」
「なにをしていた?」
「午前中にね、U20チームマッチトーナメントの選考会があったのだ。ましゅまろスマイルも参加するからさ、オペレーターと言えども行くしか無かった。怠かったぁ」
「U20!? は、初耳ですね」
「ってことは、シキっちょは出ないんだ」
「は、はい。もう選考会が終わってるなら物理的に出られないですね」
それにチームメイトもいないし。
「こんなの次からはぜ~ったい参加しないっと。U20もランクマッチも忙しいし」
「あはは……」
「頭下げられたから来たのにこんなのってないよねぇ~。さすがのチャチャさんもプンプン丸だよ!」
チャチャさんは頬を膨らませ、可愛らしく怒りを主張する。
「それで、どうする? ミフネの言う通り、ここで指を咥えて待機しているか?」
「そうですね……どうしましょう」
「とりま外の様子を見ようよ。待ってて」
チャチャさんはスペース・ウォッチを起動させ、電磁キーボードを展開する。チャチャさんがキーボードに色々と打ち込むと、電磁スクリーンが7つ程展開した。それぞれに別の場所の映像が映し出される。
「これは……」
「直前まで整備には参加してたからね~。コソッと戦艦とかワイバーンにカメラを仕込んでいたわけよ。これで前線の様子も戦艦周りの様子も見えるよん」
「今は待機……でいいのだな?」
カムイさんは僕に指示を乞う。
本当に言う通りに動いてくれるようだ。
「カムイさんはどうしたいのですか?」
「その質問を待っていた。知っているかシキ。この真上5階層上には、ブリッジがある」
「それが……どうしました?」
「我の武装なら10秒もかからず、ブリッジまで突撃できる」
まさか、この人……。
「我らでこの戦艦をジャックしよう。バトルシップ・ジャックだ。ブリッジさえ押さえれば何とかなる」
お、恐ろしいことを考える人だ……。
「うっはぁ! おもろいわぁソレ」
野蛮ではあるけど、選択肢の1つとして悪くないか。
「でも、指揮系統は少なくない時間麻痺するねん」
「そうですね……ひとまずは戦局を見守りましょう。もしも僕ら抜きで勝てるのなら、それでいいです」
でも、
「もしも、敗色濃厚になったら……」
手段は選んでられない。
「チャチャさん。この艦に搭載された戦術兵器のデータはありますか?」
「あるよん。送っとく」
「お願いします」
さて、戦局はどう動くか。
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オケアノスメインシップ・スピカ・セーラス。
ブリッジにて、ミフネは指示を出す。
「索敵班配置急げ! マップの情報はまだか!? アスター1は東に、アスター2は西に飛べ! スピカの前後はアスター3とアスター4で守らせる!」
「ミフネ隊長! 近くに巨大な水場があります!」
「湖か……!」
ミフネはモニターに映し出された巨大湖を見て、ニヤリと笑う。
「面積水深十分……よし。この勝負はもらった。――左旋回45度! 湖に艦を沈める! ……さすれば、相手はメインシップに手を出せなくなる。我々はキングを守れるのだ」
ミフネは手を振り、更に指示を出す。
「スピカに戦闘員は30残せばいい! 残りはアスターに送れ! アスター3とアスター4は潜水時に本艦から離脱し、森の上に陣を作れ!」
指示を出し終えたミフネは艦長席に座る。
(ククク……最高の出だしだな。この代理戦争で活躍すれば更に六仙の支持を受け、レアアイテムと多額のチップを入手できる。いや……新惑星に同行できれば新アイテムも大量に入手できるぞ。このままトッププレイヤーになって、配信業でも始めれば現実でもゲームでも金儲けができる。称賛も、金も、全部手に入る……!)
欲しいのはひたすらに実利。
しかし地位を向上させることが目的ならば、むしろ有力なプレイヤーは囲うべきだ。利益を最優先するならば、シキやカムイはどんな形でも起用するべきである。そうしないのは、彼女の心の内に利益よりも優先する何かがあるからだ。
「そういえば……隊長。六仙様より預けられた特A戦闘員2名はどちらへ?」
副長が問う。
「奴らは私の管轄下にない。居場所は知らん」
ミフネは口元を歪ませる。
「……プロゲーマーに凄腕メカニック、それに英雄様か。ああいう奴らを日陰に沈めるのは……堪らないねぇ……!」
栄光を浴びる者を奈落へ叩き落す。
それが、ミフネにとって最高で最大の『快感』。
この世界で栄光を浴びるのは自分だけでいいという、酷く自己中心的な願望が彼女の原動力だ。
「ミフネ様! 着水ポイントです!」
「よし! ――潜水開始!!!」
スピカ・セーラスは湖へと身を隠す。
「……よし。この水深でストップだ。後は地上が――」
「敵部隊接近!」
「来たか。どうせ索敵目的の小隊だろう? 数は」
「数130! 湖を囲まれています!!」
「なに!?」
ミフネは立ち上がる。
「130だと!? ……メインシップとサブシップを動かすのに80人は必要だ。残りの220分の130をここで投入だと!? 早すぎる!!! しかも奴らは――」
モニターに大量のワイバーン乗りスペースガールが映る。
スペースガールは全員獣耳&巫女服。あの恰好こそ、狐倶里軍の証。さらに彼女達は火花のような赤いエネルギーを纏っていた。
「敵部隊、火花を……狐火を纏っております!!!」
「ステータスバフを掛ける狐倶里のΩアーツか……!」
火花を纏ったスペースガールはワイバーンを操り、同じくワイバーンを操るオケアノス兵を倒していく。
兵士の技量は互角。装備も互角。ならば勝負を分けるのはステータスと陣形だ。そのステータスと陣形で負けているオケアノス兵は当然の如く押されていく。
「ダメです! 地上部隊、手も足も出ません!」
「隊長! 本艦を浮上させましょう! 本艦の援護無しでは戦線がもちません!」
「馬鹿を言うな! それでは私のやったことが失策みたいではないか!」
ミフネは唇を噛む。
「相手のサブシップは出てきてないんだ! アスター3とアスター4を軸に陣形を立て直せ! 東西に散らしたアスター1と2も呼び戻せ! 包囲網を外から叩かせろ!!!」
オケアノスのやっていることは言ってしまえば籠城戦だ。
時間は稼げるかもしれない。だが攻勢には出られず、ジワジワと削られていくのみ。
「なにをしている!? 迅速に動け!! 手遅れになったらお前らのせいだぞ!!!」
相手の手のひらの上で、ただ丸まることしかできない。
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