第190話 出陣!!
「……溶けてなくなりたい……」
アスター3のどこぞの廊下の隅で丸くなる。
オケアノス軍の人はみんな『よくやった』と褒めてくれたけど、他のコロニーの人達は『なんだテメェ』って感じだろう。絶対注目されている。プレッシャーが半端じゃない。
「あれだけ大見得切った人間とは思えんな」
と、声を掛けてきたのはカムイさんだ。
「元はと言えば……元はと言えばぁ……!!」
僕はカムイさんの服を掴み、涙を流す。
「……泣くな……これでも悪かったと思っている」
「うぅ……ううううぅぅぅ~~~~~~!!!」
「代わりと言ってはなんだが、試合中はお前の言うことに全面的に従おう。我を自由に起用できるのだ。悪い話ではないだろう」
それは……悪い話じゃない。
「……はぁ。もう切り替えます……切り替えますとも。もうすぐ試合が始まってしまいますからね。切り替えなきゃ……ううぅ! やっぱりまだ無理ぃ!!」
「――おい」
「ひゃあ!?」
こんな時に、聞きたくない声が聞こえた。
僕とカムイさんのもとへ、軍服を着た3人組がやってくる。先頭はあの人、今回の代理戦争でオケアノス軍を率いるミフネさんだ。僕はカムイさんの背中に隠れる。
「これはこれは総指揮官殿。メインシップを離れてこんな所に……一体なんの用かな?」
カムイさんはミフネさんが嫌いなのか、語気が強い。
「シキにカムイ、貴様らは余計なことをするなよ」
そう言ってミフネさんは指を鳴らす。すると後ろに控えていた2人が僕とカムイさんの手首にリストバンドを巻き付けた。赤のリストバンドだ。ランクマッチで装備させられたモノに似ている。リストバンドには数字が書かれている。多分、この数字は座標……かな?
「そのリストバンドを装備していれば、貴様らは対戦開始の時刻になった瞬間、メインシップの牢に飛ばされる」
あの真っ白な部屋か。
「我らを飼い殺しにするつもりか」
「軍属でない者や元テロリストを信用するはずが無いだろう」
ミフネさんはカムイさんに顔を近づける。
「……お前らは指咥えて私の活躍を見てりゃいいんだよ」
裂けんばかりに口角を広げて、目を思いっきり開いて、下から覗き込むようにしてカムイさんを睨む……すっごい、見事なまでの悪役顔だ。迫力ある。
一方でカムイさんはずっと薄く笑っていた。カムイさんは常にミフネさんを小馬鹿にしたような態度を取っている。
「ではな。指令を無視すれば、貴様らのいるフロアは爆破する。重ねて言うが、余計なマネはするなよ」
ミフネさんが去っていく。
結局、何も言えなかった……。
「幸運だな。敵が向こうだけでなく、こっちにもいるとは」
カムイさんは指をゴキゴキと鳴らす。一応機械の体という設定だからか、音がごつい。
「そろそろ時間ですね」
「ああ。どうやら我とお前は同じスタート地点らしい。これもまた幸運だな」
青い雷が僕らの全身に走る。
体の感覚が無くなっていく。
「転送が始まったか」
今回の代理戦争もランクマッチ同様、特設ステージ(ややこしいけど、このゲーム世界における仮想空間)にて行う。時間になれば参加者は特設ステージに飛ぶ。特設ステージには事前に申請した大型戦艦1隻と中型戦艦4隻のコピーが存在しており、スペースガールは必ず戦艦の中からスタートする。
ステージの構成は始まるまで不明。敵戦艦との距離は最低7km以上は空いているそうだ。
(状況は最悪。カムイさんと同位置でスタートできることは不幸中の幸いか。さて、どう動いたものかな……)
視界が一変する。
――真っ白な無機質な部屋。
そこに居たのは、僕を含めて3人。
『ステージ名・樹海21。戦闘開始します』
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