第19話 悪足掻き
(死ぬな。コレ)
直感とか諦めとかじゃない。漠然とした事実。
状況を見るに間違いない。僕が助かる道はない。
(だけど、このまま大人しく落ちるのは癪だ!!)
上半身を逸らした僕に、大剣の振り下ろしが迫る。
「終わりだスナイパー!」
「まだぁ!!」
僕は両手のハンドガンを捨て、大剣の実体部分を両手で挟みこむ。
「白刃取り!?」
「……まだ、まだぁ!!」
「コイツやっぱりヤバい!」
クレナイさんの右足がピクリと動く。
(足サーベルか!)
僕は両脚でクレナイさんの胴体を挟み込む。
「しっつけぇって!」
「まだぁ……まだ終わりませんよぉ……!!」
体の構造上、これで足ブレードは僕には届かない。こうなったお互い取れる術は1つ。
「「スラスター!」」
互いにスラスターに背中を押させる。だけど、
(馬力が全然違う!!)
僕はあっという間に押し込まれ、落下防止の柵を壊し、屋上から外へ。空中へ投げ出される。
---
――20秒前。
シキとクレナイの交戦地点より708m。電塔・地上250m、鉄骨の上。
『紅蓮の翼』スナイパー・レンはそこで静かに狙撃体勢を取り、スコープ越しに2人の戦いを見ていた。
「こんなちょこまか動かれると援護しづらいのう。それに撃つと他の奴らに位置がバレる。そこまで削ったならおぬしが1人で仕留めろい」
『……いや、レン、狙撃しろ。オレに誤射してもいい』
「えぇ~? そんなリスク取る必要あるかぁ? もう後少しで詰めじゃろう。いつもなら手を出すなと言うクセ――」
『いいからやれ! コイツは残しておくとやばい!』
「ぬおっ!? ……まったく、何を焦っておるのやら」
そこまで言うなら。と『紅蓮の翼』狙撃手レンはプレイヤーネーム・シキに狙いを定める。
「ここじゃな」
ヘッドショットを狙った狙撃。しかしそれは躱されてしまう。
(避けられた!? 発光を見られたか。レーザー式はこの発光が余計じゃのう。それにしても目の前にクレナイがいて良くこの狙撃に反応できた。敵ながら天晴じゃ)
体勢を崩されたシキはクレナイにしがみつくも、そのままクレナイに押し込まれ、屋上から空へ投げ出される。同時にシキとクレナイは密着状態を解除。クレナイは離れ際、フットサーベルでシキの左腕を斬った。
スペースガールは体を損傷しても血は出さない。血管は電線で血液は電気、骨は金属、その切断面はケーブルの切断面に似ている。
「ほな、さよならじゃ」
レンの狙撃。スラスターを切らしているシキは避けようがなく、胴体に着弾。上半身と下半身が両断される。
「真っ二つ。間違いなく装甲0振りじゃな。装甲値は30はあった方が何かと楽じゃと言うのに……」
左腕を失い、下半身も失った相手。レンがスコープから目を逸らしてしまうのも無理はない。
しかし――相手は他ゲームとはいえレイドボスにまでなった狙撃手。引き金を引く指がある限り、目を離してはいけない。
『油断するな! レン!!』
「!?」
クレナイの怒号にも似た忠告で、レンは意識を尖らせた。
射撃時の発光が、殺したはずの獲物から発せられた。
(光!?)
レンはスラスターを起動して移動する。そして、先ほどまでレンの頭部があった所をレーザー弾が通った。
「あやつ!?」
レンはスコープで再びシキを見る。
シキは右腕1本でライフルを構えていた。
「き、肝が冷えたわ」
クレナイの忠告が無ければ、確実に頭を撃たれていた。
『今デリートを確認した。少し暴れ過ぎたな。お互い移動するぞ』
「了解じゃ」
レンは小さく舌打ちする。
勝利したものの、スナイパーとして敗北感を感じずにはいられなかった。
「空中片手撃ちの精度じゃないじゃろう。業腹じゃが……狙撃の腕だけで言えばワシより上かもしれん。覚えておくぞ、『シキ』」
結果として、シキは個人94位でリタイアとなった。
この時のシキとクレナイはザクとガンダムぐらい性能差があります。クレナイも薄々そのことに気づいていてガチ焦りしてます。
前もどこかで書いたような気がしますが、両手持ち前提の武器を片手で扱うとマイナス補正がかかります。大剣を片手で扱うと威力の減衰(多少)と精密性(片手の範囲のみ)の低下が発生します。スナイパーライフルだと命中補正が消えます。
基本的にレーザー兵器は風の影響を受けず、発射の瞬間に脳波で多少軌道を修正できます。これらの要素を命中補正と呼びます。精密射撃においては重要な要素で、これが消えると脳波修正できず、さらに実弾より風の影響を大きく受けるため、かな~り狙撃は難しくなります。ゆえに片手撃ちでヘッドショット(未遂)を狙ってきたシキに対し、同業者のレンはかなり驚いてます。
ワンハンドペナルティはどれも技術次第で克服できるものなので、片手で両手持ち武器を上手く扱えているプレイヤーは突出した技術を持っていると思ってください。




