第186話 夜道の戦い
帰り道。
街灯を頼りに住宅街を歩く。
「すっかり遅くなっちゃったね~」
「うん。もう夜だ」
梓羽ちゃんにはちゃんと遅くなることをメッセージで伝えてある。問題なし。
「ところで、気付いてるかなレイちゃん」
「あ、うん……気配するよね。千尋ちゃんのファンかな?」
「だろうねきっと。この変装を見破ったんなら大したファンだ」
ショッピングモールを出た辺りで気づいた。いま、誰かに尾行されてる。
「さっきチラッと影が見えたけど小柄だった。多分女の子」
「ど、どうする?」
「女の子相手なら私負けないよ。捕まえちゃお」
千尋ちゃんはサバットを使える。それでも直接対峙するのは危ないとは思うけど……放置するのも怖いか。相手が女の子なら大丈夫かな。
「いま15m後ろの電柱に隠れてるね。レイちゃん、そこ右に曲がるよ」
千尋ちゃんが先に十字路を右に曲がる。
「レイちゃん、そこでストップ」
いま千尋ちゃんは塀の影にいる。不審者の居る場所からは見えない位置だ。
一方で僕は道を曲がる途中。不審者からは僕の横顔だけが見えているだろう。
「そのまま私と話しているフリしてて。ここ一周してアイツの背後取ってくるから」
「わ、わかった」
千尋ちゃんは足早に去っていく。
僕は適当に喋っているフリをする。
(そろそろかな)
僕は横目で不審者のいる電柱を見る。ちょうど千尋ちゃんが到着した所で、千尋ちゃんは電柱の影にいる不審者に襲い掛かっていた。襲い掛かると言っても攻撃というよりは捕縛、無力化を狙った動きだ。
驚いたのは相手の不審者の動きだ。千尋ちゃんが掴みにいくと、不審者は手提げ袋で変わり身し手提げ袋を千尋ちゃんに掴ませた。千尋ちゃんが蹴りで追撃すると不審者は屈んで躱した。
千尋ちゃんの機敏な動きに完璧に反応している。
「やるねぇ!」
千尋ちゃんはそのまま連撃を繰り出すけど、不審者は全て躱し、大きくバックステップを踏んで千尋ちゃんから距離を取った。千尋ちゃんは奪った手提げ袋を丸めて投げる。顔面に向かってきた手提げ袋を不審者は最小限の動きで躱し、距離を詰めてきた千尋ちゃんに反応。不審者が千尋ちゃんの右手首を掴む。
千尋ちゃんは手首を捻って掴みを拒否。なにか危険を悟ったのか、今度は千尋ちゃんが大きく飛び退いた。
「って、あれ?」
街灯の下に不審者が入ったことで、姿がハッキリ見える。
見慣れた私服。見慣れた後ろ姿!?
「なになに、君何者~? 只者じゃないよねぇ」
「その声……女? どういうこと?」
間違いない。あの子は、
「梓羽ちゃん!?」
見慣れた顔がこっちを振り返る。
「……お姉ちゃん」
「え!? レイちゃんの妹!?」
走って2人の間に割り込む。
「な、なんで梓羽ちゃん、僕達のこと尾行してたの!?」
「お姉ちゃんが男と一緒に居たから心配だったの。友達すらロクに作れないお姉ちゃんに彼氏なんてできるはずないし、100%詐欺られているなって」
「……心配は嬉しいけど二言ぐらい多いよ!」
瞬間、影が僕の傍を走り抜けた。
「妹ちゃあん!」
「ぐあっ」
千尋ちゃんが梓羽ちゃんに抱き着き、そのまま梓羽ちゃんの顔を胸に埋める。
「えー! やっばぁ! レイちゃんの妹、超かわいいじゃん! ほっぺもプニプニ!」
「えへへ……自慢の妹です」
「レイちゃんに負けず劣らずの美少女! かっわいい~! ちょっと無気力な感じもキュート! これは……姉妹丼もアリさね!」
梓羽ちゃんは体を捻って千尋ちゃんの抱擁から脱出する。
「ぷはぁ! ――胸あるし、やっぱり女性。お姉ちゃん、この人何? なんで男装してるの?」
「男装してるのは有名人だからだよ。知ってるかわからないけど、その子、百桜千尋っていう女優さんなの」
「百桜千尋!?」
千尋ちゃんはカツラを脱いでウィンクする。
「どうも~。千尋ちゃんでーす」
「……お、お姉ちゃん、この人と友達なの?」
反応的に梓羽ちゃんは千尋ちゃんのことを知っているみたいだ。
「うん。同じクラスなんだ」
「す、凄いね。お姉ちゃんの高校に転校してきたって噂はウチの中学にも流れていたけど、まさか本当だったとは……」
「千尋ちゃんのこと知ってるの?」
「地上波のバラエティにも出てるし、この前もメインでは無いけど月9に出てたじゃん」
バラエティもドラマもたまにしか見ないからなぁ……。
「ごめんね妹ちゃん。いきなり襲っちゃって」
「いえ。こちらこそ、あとをつけてすみません」
「お姉ちゃんが心配だったんでしょ? わかるよ~。私もレイちゃんが見知らぬ男と歩いてたら同じことするもん」
「乗せられやすい姉なので心配で」
「凄い! レイちゃんの妹なのに、初対面の私と普通に会話が成立している!?」
「2人共僕のこと舐め過ぎだよ!」
梓羽ちゃんは改めて千尋ちゃんに頭を下げ、先に家に帰っていった。
「一人っ子だから羨ましいなぁ~、妹。もう、私に妹がいたらお風呂も一緒に入るし同じベッドで寝るし休みの日はお買い物でしょ~。それから耳掃除もしてあげるのに!」
「あはは……」
多分、梓羽ちゃんはそういうの嫌がるだろうなぁ。
「妹ちゃん、星架ちゃんにちょっと似てるよね」
「雰囲気はね」
内面は結構違う。
月上さんは他人に対して強い興味を持てないのがコンプレックスみたいだけど、梓羽ちゃんはむしろ他人に向ける感情が重いから……。
「ありがと千尋ちゃん。ここで大丈夫だよ……って、千尋ちゃんはここから歩きで帰るの? 危なくない?」
なんか流れで千尋ちゃんにマンション前まで送ってもらったけど、普通逆だよね。相手女優さんだもん。本来なら僕が家まで送るべきだ。1人の千尋ちゃんを狙う人はいても、1人の僕を狙う物好きは居ないだろうし。
「大丈夫。今は恰好がこんなだし、タクシー呼ぶし」
確かに、男装してるから大丈夫か。パッと見て見破れる人なんて絶対居ないもんね。
「迷いは消えた?」
「うん! ……ミフネさんと上手くできるかはわからない。けど……」
僕は千尋ちゃんの目を見て言う。
「あの人を倒してでも、我を通す覚悟はできた」
「はははっ! やったね。また新しい楽しみが出来たよ。牢屋の中で、君の活躍を見させてもらうよ――シキちゃん」
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