第184話 怪盗エスコート
1日が経っても、頭の中ではまだ昨日の出来事がグルグルしていた。
(はぁ~~~~。僕はダメダメ人間だ。毛虫以下。道端の雑草程の価値もない)
チーム戦……いや、団体戦か。
甘く見ていたわけじゃないけど、やっぱり人が増える程に難しいことも増える。どうしたものかな……。
「どったのレイちゃん。イライラの日?」
登校してすぐ机に伏した僕を千尋ちゃんが気に掛けてくれた。机の傍で屈んで、僕に視線を合わせてくれている。
千尋ちゃんに相談すればきっと、
『任せてレイちゃん! 私がちょちょいと脱獄して、その鬼軍曹を懲らしめてあげるよ!』
と言ってくれるし、実行するんだろうけど。それって根本的な解決にならないよね。
前に比べて頼れる人は増えた。けれど、だからってその人達に甘えてばかりじゃダメだ。
そんなんじゃ……いつまで経っても月上さんや千尋ちゃんに近づくことはできない。
「なんでもないよ」
笑顔でそう告げ、顔を上げる。
千尋ちゃんは「そっか」と言い、席についた。
「ねぇレイちゃん。放課後暇?」
「うーん……暇かな」
代理戦争に向けて今日はミーティングがあるらしいけど……呼ばれてはいない。
「じゃあさ、デートしようよ。今ね、私が出てる映画が公開されてるんだ」
す、すご! ……今更だけど、千尋ちゃんって凄い女優さんなんだよね。普段の態度からじゃ信じられないけど。
「主役じゃなくて、当て馬的な役だけどさ。上手く演技できたんだ」
「で、でも、騒ぎにならない? 出演している映画を見に行くなんてさ」
「私は怪盗だよ? 変装はお手の物さね」
それなら……。
「いいよ。行こっか」
いい気分転換になるかもしれないし。
「やったね~。それじゃ放課後、学校の近くにあるエアガンショップで待ち合わせね。ちょっと遅くなるからエアガン眺めて待っててよ」
「うん。わかった」
---
放課後。エアガンショップを虚ろな眼で周っていた。
いつもは輝いて見えるエアガン達も、今日は陰って見える。
「お待たせ」
千尋ちゃんの声だ。
僕はエアガンの箱から目を離し、声の主を見る。
「え」
そこに立っていたのは……カッコいい男性だった。
上下デニムの男性……髪色はピンクで、丸眼鏡を掛けている。
「ち、ちひ」
「オレのことは『桜坂くん』って呼んでね。レイちゃん」
凄い。
『お待たせ』の声は千尋ちゃんだったけど、その後の声は男性だ。少し高めの男性の声。
「……す、凄いね。さすが怪盗」
「まぁこれぐらいはね。カツラ&上げ底ブーツ&メイク! もちろん、眼鏡は伊達ね」
千尋ちゃんは腰を落とし、上目遣いで僕の手を掴む。
「ほら、エスコートしますよ。お姫様」
(い、イケボだーっ!)
そんなわけで、男装した千尋ちゃんと街道を歩き出したのだけど、
「……うわ、あの人……」
「……カッコいい……」
「……彼女持ちかぁ……」
「……芸能人?」
「……いや、芸能人がこんな堂々と彼女と出歩く?」
これはこれで注目を浴びてしまっている。
や、やばい。歩き方がぎこちなくなる。緊張する……。
「どうしたのレイちゃん。顔真っ赤だよ? イケメンのオレに緊張中?」
「……し、視線が……」
「そっかそっか。注目浴びるの苦手なんだっけ。仕方ない。マスクと帽子、着けようかな」
「い、いい!」
「レイちゃん?」
僕は、勇気が欲しい。人前でも、ちゃんと自分の意見を言える勇気が。
そのためにも、これはいいトレーニングだと思わないと。
「ほ、ほら、着いたよ! ショッピングモール『おおわしの森』! ここの最上階に映画館があるから!」
「OK。エレベーターで行こうか」
---
同時刻。彼女は見た。
「お、お姉ちゃん……?」
古式レイの妹、古式梓羽。
姉がイケメンの男とショッピングモールに入る姿を見て、梓羽は手に持った買い物用の手提げバッグを落とした。レイを良く知る彼女にとって、まさに驚天動地の出来事。
いつもは冷静な彼女も、驚きを隠せない。
「お姉ちゃんに、彼氏? 天地がひっくり返ってもあり得ない……まだ適当に買った宝くじで一等当たる方があり得る。そもそもお姉ちゃんに本当に彼氏ができた可能性より、詐欺に遭っている可能性の方が高い」
梓羽は想像する。エアガンに釣られ、姉がホテルに連れ込まれる姿を。ゲームを餌に、姉が家に連れ込まれる姿を。
瞳の中で、殺意の雷花が散る。
「……あの男、処分しなくちゃ」
梓羽は2人を追い、ショッピングモールに入った。
文武両道の天才児も、姉のことになると著しくIQを落とすのだった。
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