第183話 巨悪
六仙さんから代理戦争のルールブックを貰い、目を通す。
「……六仙さん。プログラムを見ると、代理戦争の最後に閉会式があるみたいですが」
「うん。それがどうかしたかい?」
「――いえ。ちなみにですけど、閉会式って大会に含まれますか?」
「質問の意図が良くわからないけど、大会のプログラムに入っているから含まれるだろうね。閉会式をもって大会は終わりだ」
なるほど。これは手を打っておく必要がある。
「わかりました。六仙さんが出られないなら、ネスさんが総指揮を執るのですか?」
「いや、ネス君は出ない。彼女が代理戦争に集中すると他の業務に大きな影響が出るからね。指揮官はミフネ君に任せる」
ミフネ……知らない人だ。
「階級は特一等……僕やネス君のような特殊階級を除けば1番上の階級だ。真面目で良い子だよ。戦闘力も指揮能力も申し分ないし、何よりポテンシャルがある……って、なんだいその不安そうな顔は」
「いえ、知らない人なので……」
「ははは! 相変わらず緊張には弱いか。顔合わせをしよう。これから時間はあるかい?」
「はい。大丈夫です……」
「ではミフネ君に会いに行こうか」
うぅ……知らない人に会いに行くのはいつだって緊張するぅ……。
いや、これも洗いっこのため……じゃない。月上さんのためだ! 踏ん張らなければ!
「ところでシキ君」
「はい?」
六仙さんは僕の戦艦のツギハギの部分を指さす。
「この戦艦、直さないの?」
互いに沈黙する。僕はただ目で訴えるのみ。
沈黙の後、六仙さんは頬を掻き、
「……前の大戦で壊れたのか。すまなかったね。後で整備班を手配する」
「……お願いします」
---
――オケアノス軍マザーベースにある格納庫。
「うわぁ……!」
僕は格納庫にある大型戦艦を見て驚いた。
「これが我が軍最強の戦艦……『スピカ・セーラス』。周りにある4隻の戦艦がアスター1~4だ。ここにある5隻を代理戦争では使うつもりだよ」
おっきぃ……! アニメとかで見る戦艦が、目の前にある……!
青白くて、いっぱい武装がついているのにスマートで、素晴らしいデザインだ。ぷ、プラモが欲しいぐらいだよ……!
「六仙様!」
軍帽・軍服を纏った人がワイバーンで飛んでくる。
「いたいた。彼女がミフネ君だよ」
軍帽の人、ミフネさんは近くにワイバーンを止め、六仙様の前に来ると、元気よく敬礼のポーズをした。
「ご足労いただきありがとうございます!」
「やぁミフネ君。整備は順調そうだね」
「はい! 六仙様の期待に応える機体です! このスピカ・セーラスがあれば、代理戦争で負けることはございません!」
それは頼もしい。
ミフネさんは黒髪のポニーテールで、瞳は薄紫。キリッとした目つきをしている。身長は僕より10cm程高い。
なんだろう……この人、刺々しいものを感じる。只者では無いプレッシャーだ。
しょ、初対面の人にこんなこと思うのは失礼だけど。
(こ、怖い……)
一言も交わさず、こんなに『感じる』のは初めてだ。
彼女の背後には、蠅の王……ベルゼブブの如きオーラを感じる。
「紹介するよ。彼女が前に話していたシキ君だ」
六仙さんの紹介でミフネさんが僕を見る。
ほんの一瞬睨まれた気がしたけど……すぐに穏やかな顔になる。
「君がシキか。噂は良く聞くよ。凄い狙撃技術だとね」
「は、はい……恐縮です」
「彼女も代理戦争に参加する。彼女をどう起用するかが勝負を分けるだろう。しっかり頼むよ」
「はい六仙様」
ミフネさんは僕に右手を差し出す。
「よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
握手をする。
ミフネさんはギュッと、力強く握ってきた。もちろん痛みは無いけど、代わりに強い敵意を感じた。
顔を上げて、ミフネさんを見る。
「っ!?」
ミフネさんは、歯を見せて笑っていた。
笑って、見下していた。
と……鳥肌が立つ。
六仙さんは角度的にミフネさんの顔が見えていない。
「六仙様。彼女に戦艦内部を案内してもよろしいですか?」
「構わないよ。じゃあ僕はここで失礼しようかな」
「え!?」
「悪いね。仕事があるんだ。シキ君は好きなタイミングで帰ってくれていいよ。今日はありがとね。代理戦争に参加してくれること、心の底から感謝している」
六仙さんがいなくなる。
「こっちだ」
ミフネさんがスピカ・セーラスの方へ僕を誘導する。
(うっ……初対面の人と2人きり……て、手が震えて首が回らなくなるぅ……!)
でも、戦艦に入れるのは嬉しい。
ミフネさんは液晶パネルにパスワードを入力して、戦艦の扉を開く。
「こっちだ」
ただその言葉だけを繰り返し、僕を案内していく。
「あ、あの」
僕が話を切り出そうとすると、
「黙れ。発言は許可していない」
「ひゃ、ひゃい!?」
強い声色で言われてしまった。
(ずっと、首を掴まれているような嫌な気分だ……この人の間合いから、早く離れたい)
両者無言のまま、連れて来られたのは何もない無機質な部屋。
窓もなく、機器の類もない。コンセントがあるだけの部屋だ。
「代理戦争中、お前がここから出ることを許可しない」
「え。うわ!?」
ミフネさんが右手を出してきた。僕は横に飛んで躱すけど、
「つっ!?」
ミフネさんはすぐさま追尾してきて、僕の胸倉を掴み上げた。
「こざかしい」
(手の振りが速い……!?)
ミフネさんはそのまま壁に僕を押し付けた。
「あああああ、あの、あの……!」
「六仙に気に入られているらしいが……調子に乗るなよ。私は軍外部の人間を決して信用しない……ムカつくんだよ。貴様のように、普段は軍に従事せず、努力せず、大舞台の時だけしゃしゃり出てくる人間はな……」
「すす、すみまっ……すみっ……!」
口が震えて上手く喋れない。
「いいな? 代理戦争中、ここから出たらフロアごと爆破する。余計なマネはするなよ。――私の覇道の、邪魔をするな」
ようやく手が離れる。僕はその場に尻もちをついた。
「フン、つまらねぇ女だ」
勝ち誇ったような笑顔で、ミフネさんは部屋から去る。
「……こ、怖いぃ……!」
1人になり、堪えていた涙が零れる。
思い知らされる。
少しは、コミュニケーション能力が改善したと思っていた。
けど違う。これまで僕が上手くコミュニケーション出来ていたのは、周りの人間の優しさがあってこそだ。
舞い上がっていた心を、一刀両断された。
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