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【書籍化決定】スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
代理戦争編

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182/202

第181話 あの月の下に

「きょ、今日はコンビニ弁当じゃないんですね」


 初めて月上さんに会ったあの時、月上さんはコンビニ弁当を食べていた。けれど、今日の月上さんは布の包みを持っている。


「あの日は……甘えた」

「甘え?」

「普通の物を食べてみたかった」


 月上さんは僕の横に座ると、包みを解き、中の物を出した。布から出てきたのは黒い木製の弁当箱だ。


(や、やっぱり、キャビアとか、シャトーブリアンとか入ってるのかな……!)


 ゴクリと唾を飲み込み、月上さんが弁当箱を開くのを待つ。

 僕は弁当箱に入っていた予想外のモノを見て、驚いた。


 まず、弁当箱の中は仕切りで9分割にされていた。その9区画の内、4区画に詰まっていたのはゼリーだ。ブロック状のゼリーが大量に入っている。リンゴの果肉のような鮮やかな白いゼリーもあれば、出汁を煮詰めたような渋い色のゼリーもある。他の区画にはベリー類、サプリメント(錠剤)、淡白なお肉(ささみ?)、きのこ類、ヨーグルトが入っている。


 キャビアとかとは別ベクトルでお金が掛かってそうではある。

 月上さんはスプーンで弁当を食べていく。


「慣れてる」

「え?」


 月上さんはつまらなそうに弁当箱を眺める。


「私のお弁当、変なのは自覚ある。月1の健康診断に合わせて作られているの。美容や健康を最大限考え抜いたメニュー。おかげで、生まれてからずっと、風邪すら引いたことが無い」


 アスリートみたいでカッコいい。


「す、凄いですね。3食、同じような感じなんですか?」

「朝と昼だけ。夜は多様な料理を食べる。味覚を鍛えることも大切だから」


 お、お金持ちって凄いなぁ……。 


「あなたのお弁当も栄養バランスを考えてある」

「あ、コレですか。えへへ……これは妹の梓羽ちゃんが作ってくれたんです」


 でも栄養面に気を遣っているメニューとは知らなかった。


「この前、あなたの妹に会った」

「ええ!?」


 街中で偶然会ったのかな。

 月上さんと梓羽ちゃんって、どんな会話するんだろう。想像できない……似たタイプだからなぁ。向かい合って無言、なんてこともあり得る。


「なにか失礼なことしませんでした……?」


 梓羽ちゃんに限って変なことはしないと思うけど。

 月上さんは首を横に振り、


「あなたは機械のような精密性を持っているけど、あの子は逆……野生味に溢れた、不規則な動きをする。内に秘めた『狂暴性』は、侮りがたい」

「きょ、狂暴!?」


 梓羽ちゃーん! 月上さんに一体なにをしたの!?


「それはなに?」


 月上さんは僕が箸につまんだ花の形の人参を指さす。


「人参です」

「なんで花の形をしているの?」

「なんで……と問われると難しいですが」

「味が変わるの?」

「食感は変わりますが、味が変わるわけでは無いですね。単純に……き、綺麗だからです。見栄えが良くなります」

「そう」


 月上さんはスプーンをまた動かし始めた。

 今の質問なんだったんだろう? どうでもいい質問に見えて、なにか、月上さんの内面に関わる重要な質問だったような気もする。


「eスポーツ部を倒した報酬、もう決めた?」


 そ、それは……いっぱい考えてはいるけど、


「まだ決まって無いです……」


 コスプレ強要はハードルが高いしね。


「撮影会する?」


 つい、箸を弁当箱に落としてしまった。


 意外や意外、月上さんから提案してくるとは!

 これは好機!


「さ、撮影会ですかぁ! どどど、どうしよっかなぁ……月上さんがそれがいいなら、いいですけど?」


 と、自分は別に月上さんのコスプレに興味ない風を装う。


「なにを着て欲しい?」

「えっと、それは……それはぁ……!」


 バニー、ナース服、それともアニメキャラのコスプレとか!

 う~……無理だ。この場で決めるなんて無理だ!


「あなたが望むなら、服が無くてもいいよ」


 ……。

 ……………。

 …………………………はひ?


「この食事メニューのおかげで……私、体には自信がある」


 無表情で、淡々と告げる月上さん。こんな爆弾発言をしたのに、何事も無かったかのように食事に戻った。

 多分、いける。押せば、本当に。この人は。しかし、


(僕に……)


 僕にそんな勇気はない!!!


「ままままま、またまたぁ! 月上さんは冗談が上手いなぁ、まったく! 僕はそういうのには興味ないですよぉ。千尋ちゃんじゃないんですからぁ!」

「そう」


 これほどまでに自分のコミュ障を呪ったことはない……! 僕のバカ!


「最近、ゲームの方はどう?」


 あ、話が変わってしまった。


「この前、使っている狙撃銃が進化しまして……あと、新しい武装もちょこちょこ……あ、そうだ。月上さんは知っていますか? 代理戦争のこと」

「?」


 知らないみたいだ。


「実はですね。六仙さんが新しい惑星を見つけたんですよ」

「新しい惑星……」

「すんごく大きい惑星で、オケアノスの倍はあるそうです。それで、その惑星の調査権を賭けてコロニー同士で戦うらしいんです。僕は断ったんですけど、僕のふぁ、ファンの子が……」


 がっ! と、肩を掴まれた。


「え」


 月上さんは僕の肩を引っ張って、僕の体の向きを月上さんに向けさせた。


「月上――」


 月上さんの顔が、近づく。


「え、あの……」


 鼻先が当たりそうだ。息は、当たってる。月上さんの冷たい息が当たる。


「もしもその惑星の近くに、蒼い月があるのなら……レイ、お願い」


 月上さんは僕の首筋を指で撫で、僕の顎を人差し指で下からくいっとあげる。


「私の代わりに……回収して欲しい。父さんの、遺産を」

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― 新着の感想 ―
一定の大きさの惑星にある衛星(月)に何かあるのかな?並々ならない圧を出す程の
なんでこの生徒会長様は言葉が足りないのか……() ゲーム内の月で出会ったとちゃんと伝えれば……妹にウザ絡みしてバトりたがるなこのオープン戦闘狂は。 うん、結果的に良かったかも。妹の方も戦闘狂なのにあっ…
欲望には正直になっちゃっていいのに… 参戦するきっかけが他ならぬ角度から迫って来た?
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