第179話 指南
し、知らなかったぁ!!!
「ふふ、はははっ! ……面白い人ですね、シキさんは。表情めっちゃうっさいわ」
「表情がうるさい!?」
初めて言われた……。
「でも戦闘の時は凛としてますよね。おもろいなぁ」
僕は顔を熱くさせながらまた席につく。
それにしても∞アーツが賞品か。ほ、欲しい! でもチームメイトが居ないぃ~! 今更ましゅまろスマイルに戻るなんて言えないしなぁ……。
「あ、今年も∞アーツが出るとは限りませんからね。2年前の優勝賞品は超大型戦艦でした」
それはそれで凄い。
「それに、去年が狙撃特化の∞アーツでしたから、今年∞アーツが出てもアタッカーに寄りそうですしね。しかし残念です。アンリミテッドシリーズにも出ないなら、シキさんと戦う機会は無さそうです」
「えっと……じゃあ今から模擬戦でも……」
「真剣勝負がしたかったんです。お互い、負けられない戦いを」
コナちゃんは残念そうな瞳を向けてくる。そしてまた耳がしなしなだ。
「でもそうですね。もしわがままを聞いてくれるなら、狙撃の指導して欲しいです。ウチ、ターゲットまでの距離が1km圏内なら誰にも負けない自信あるんですけど、1.5kmを超えると精度がかなり落ちるんです」
「そ、狙撃の指導……」
狙撃の指導なんて梓羽ちゃんに1度やったっきりだ。しかもその時、呆れ気味に『お姉ちゃんは自分ができることを全員ができると思わない方がいいよ』って言われて、軽くトラウマ……。
で、でも、このまま帰すのはせっかく訪ねてきたコナちゃんに悪い。やれるだけやってみよう。
「わかった。いいよ。甲板に出て」
---
甲板に出た僕は大海原を指さし、
「ここから2.2km先、魚が飛び跳ねているのが見える?」
コナちゃんはスナイパーライフルを実体化させて、スコープを覗く。
「いますね。トビウオですか」
ごめんコナちゃん。いま、それどころじゃない。
コナちゃんが出したライフル……それって、それって!
「マクミランTAC-338!?」
「うわ、よくわかりますね」
「そりゃわかる! わかるよ! 精密射撃に向いたザ・狙撃銃じゃん! なんでこれにしてるの!」
「おじいちゃんと一緒に観た洋画の主人公が使ってたんです。一目見ただけで惚れて、レーザー銃をカスタマイズして外見を似せたんです」
「さ、触っていい?」
「教えてくれたら、貸します」
そ、そうだった。今は指導の途中だった。ごくり。
「こほん。あのトビウオに向けて撃ってみて」
「はい」
僕は双眼鏡を出して、トビウオの群れを見る。
「ここのトビウオは現実のトビウオと違って時速200kmは出るよ。頑張って」
「はい。撃ちます」
コナちゃんはレーザー弾を飛ばすも、トビウオの20cm横を通過させた。
「……速いし小さいから、ムズイですね」
「もう何発か撃ってみて」
コナちゃんはさらに6発撃つも、1発しか当たらなかった。その1発も、コナちゃんの反応を見るにまぐれ当たりっぽい。
精度は確かに甘いけど、狙いをつけるのが速い。それでいてあのトビウオに対して30cm以上は外さない。
「ちょっとお手本……」
僕はペイント弾を装填した店売りライフルを出し、狙いをつけて撃つ。
「凄い……!」
僕は連続で3発、同じトビウオに弾を命中させる。
「命中補正がほとんどないペイント弾でここまで……! ど、どうやったんですか!? し、姿勢が違いますかね。それとも指の抜き方……?」
「えっとね。姿勢もいいし、指も良い感じだよ。でもね、未来をもう少し見ないと、かな」
「未来を、見る?」
「相手の現在ではなく、未来を撃つんだよ。あと環境演算も甘いかな。見ててね」
僕は狙撃銃を構える。
「狙撃を成功させるコツは、如何に不確定要素を排除するか、だよ。まず肌で風速を計測します。――7.68m/sだね。レーザー弾とはいえ風の影響は僅かに受けるから、しっかり肌で風速を計測してね。もちろん、風速に合わせて弾道を調整……ここまでを頭じゃなく、感覚で出来るようにする」
お、我ながら良い感じに説明できてる……!
「空気抵抗によって弾道や有効射程が変わることがあるから、慣れてきたら空気抵抗にも注意。空気抵抗は気温と湿度で変わるから、これも肌で計測……は最初は難しいかな。特に湿度は読みづらいからね。スコープに湿度計と温度計のオプションを入れてもいいかも」
あと忘れちゃいけないのが足場か。
「船だと足場が揺れるからね、波のリズムを体に入れて」
この戦艦はあまり揺れないけど、気付きづらい微妙な揺れだからこそ厄介。この微妙な揺れを無視すると軸がズレて弾が0.1mmはズレる。
「着弾地点までの時間も瞬時に計算。集中すれば相手の数秒先の未来が見えるから、着弾までが1秒なら1秒後に相手がいる場所に狙いを定めて撃つの。見てて。トビウオの目に当ててあげる」
僕はお手本射撃を披露。見事にトビウオの眼球にヒット。
「ど、どうかな……?」
自己採点100点満点の説明だったのですが……!
「……肌で風を計測する……集中すれば未来が見える……」
あれ? なんか期待していた反応と違う。
「え~っと……」
コナちゃんはなぜか、眉間に皺を寄せてしまっている。
わかりやすく説明したつもりだけど……理解できなかったかな。僕、そもそも言葉選びが下手だから……。
「実践してみて! な、なにか違うところがあったらアドバイスするから!」
「じ、実践ですか……!? その、あの」
コナちゃんは頭を下げる。
「いえ、すんません! ……持ち帰ります! いま教えてもらったこと、持ち帰って練習します! ご教授いただき、ありがとうございました」
「あ、うん。少しでも身になったのなら良かったよ……」
「ホント、わかりやすい説明でした! お、お上手ですね。人に教えるの……」
「ほ、ホント……? 良かったぁ……!」
フッフッフ……! 見たか梓羽ちゃん。お姉ちゃんだってやろうと思えばわかりやすく説明できるんだから。
今度また梓羽ちゃんにご教授してあげよう。次は満足してもらえるはずだ。
「それでは、ウチはこれで失礼します!」
コナちゃんはまた丁寧にお辞儀し、帰ってしまった。
「良い子だなぁ……なんで犬耳してるか、結局聞けなかったなぁ。それに銃も触らせてもらえなかったなぁ」
それにしても、∞アーツが年末のランクマッチで入手できる可能性があるとはね。
チームメンバー……A級だと4人だっけ? 5人だっけ? 最低が4で最大が5だっけ? ボッチじゃ出れないよね。
スペースウォッチで検索してみる。A級……最低4人で最大で5人でした(オペレーター抜きで)。
僕以外にあと3人か。
チームメンバーの条件としては『特定の分野で僕以上の能力を持っていること』。そうでないとチームを組むことがマイナスにしかならない。それでいて『1度倒した相手』が望ましい。なぜなら、倒した事の無い相手で強い人は僕が戦いたくなってしまうから。
「……候補は居るけどなぁ」
色々な面で不可能。どうしたものか……。
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