第178話 コナもん
イヴさんの護衛を終えて、戦艦に帰ると、
(ひぃ!?)
「……」
甲板に女の子が立っていた。茶髪でおかっぱの子だ。僕は梯子を下り、顔だけを出して女の子を観察する。
見た目中学生程で、犬(?)の耳を頭から生やした女の子。服装は巫女服をベースにしたものだ。腕時計型端末を起動させ、名前を確認する。名前は――『コナもん』。知らない。
敵意は……無さそう。武装していないし。さすがに手ぶらの相手を不意打ちで撃つのはまずいか。単独だし、いざとなれば倒せる。甲板に上がろう。
(武器を見せたら撃つ。武器を見せたら撃つ……)
甲板に上がった僕を見ると、その子は歩み寄ってきた――ので、僕は後ずさって距離を取った。女の子は僕の行動にきょとんとした後、納得したように笑った。
「せやな。初対面の相手が近づいてきたら、そう動くのがスナイパーの定石や。さすがですね」
訛りだ! 関西弁だ!
関西人=陽キャだ!!
「……うぅ……3回回ってワンと言えばいいのでしょうかぁ……!」
「なにを言うてますの? ……じゃない。なにを言ってるんですか? ウチはあなたとお話に来ただけですよ。シキさん」
やっぱり敵意は見えない。僕は1歩、歩み寄る。
「ウチ……その、大ファンなんです。シキさんの。ウチも狙撃手をやっていて、だからシキさんの凄さがよりわかるんです。他の人よりずっと。だから、えっと……」
「ふぁ、ファン!? 僕の!?」
つい頬が緩む。
僕にファン!? この僕に!?
「え、ええ。ランクマッチ見てました。それと、グリーンアイスとの決闘も見てました。気づいとる……じゃない。気づいている人少ないけど、凄い才能です。ウチの理想形です」
「えへ、えへへ……!」
僕は艦内に繋がる扉を開く。
「お、お茶飲む? おお、お菓子もあるよ?」
「あ、はい。失礼します。あの、ちなみに」
コナもんちゃんはハリボテの甲板を見て聞いてくる。
「この戦艦、なんでこんなボロボロなんですか?」
「それは……」
敵の基地に突っ込んだり巨大人型ロボットと戦ったりしたからです。とは言えない。
「突発的な嵐に巻き込まれて……こんな感じに」
「それは災難ですね」
ホント災難だよ!
ていうかチャチャさんか六仙さん直してよ! 絶対忘れてるよあの2人!
「中は無事だから安心して」
食堂にコナもんちゃんを案内し、食卓にケーキとジュースを並べる。
「す、すんません。こんな気使わせて」
「いいんだよ。いっぱい食べて」
声の感じからして、やっぱり中学生ぐらいかな。
真面目なんだろうね、椅子の座り方が行儀良い。犬耳も相まって、忠犬って感じだ。
「申し遅れました。ウチ、コナもんって言います。狐倶里っていうコロニーから来ました」
「コクリから来たんだ。よろしくね」
コクリ。初めて聞くなぁ……。
「あの……ちなみに、サインとかねだっても、いいですかね……?」
「え?? サイン?」
僕は本で習った軍隊式ハンドサインをやってみる。
「そういうのでは無いです。色紙とかにペンで書くやつです」
「あ、そっちね……え!? そっち!? も、物好きだね……」
「……いきなりハンドサイン求める方が物好きやと……物好きだと、思いますけど」
コナもんちゃんはなぜか顔を赤くさせる。
「すんま……すみません。言葉詰まり詰まりで。まだ標準語練習中でして」
「そうなんだ……でもなんで標準語を?」
「このゲーム……というか、どのゲームもですけど、関西弁だと翻訳が暴力的になりがちで、矯正しと……してるんです」
そんなことが。初めて知った。
まぁ耳に届いた海外の言葉を自動的に自国語に翻訳するだけでも凄い技術なんだ。多少の難点はあって当然か。
「話、戻りますけど」
コナもんちゃんは色紙とペンを実体化させる。
「もちろん、良ければですが」
「書く! 書くよもちろん!」
僕は色紙とペンを受け取り、サインに挑戦する。
(サインなんて書いたことない……)
とりあえず勢いよくペンを走らせてみる。
(さ、サインなんて勢いがあればいいよね。あとアレだ。言葉を添えたりもするよね。『寸分狂いなし』って入れよう。それになんかマーク的なものを入れるよね。ロックオンマークとか入れようか。あと忘れちゃいけないのが相手の名前……カキカキ~……と、アレ。いつの間にか、スペースが足りな……)
完成した。けど、
「ど、どうぞ」
「ありがとうございます」
最終的にぐっちゃぐちゃになっちゃった……ブラックホールみたいだ。
「前衛的ですね! シキさんらしいです!」
「あはは……ありがとう。世界で1枚だけだよ」
この先もずっとね。なぜなら僕はそれと同じサインを2度と書けない。
「それで、今日ここへ来た用件なんですけど……サイン貰いに来ただけでは無くてですね」
「は、はい!」
「コロニー代理戦争、やっぱり出るんですか?」
色んな人に聞かれるなぁ……。
「えっとね……要請はあったけど、断っちゃった」
「そう、ですか……残念やな。戦うの、楽しみやったんですけど」
犬耳がしなしな~と垂れる。あの耳、感情に反応してるのかな?
「コナもんちゃんは出るんだ」
「コナでいいですよ。ウチは狐倶里のエースとして出ます。狐倶里は他のエース級がみんなランクマッチを理由に出撃を断ったので、なし崩し的にエースになれました。オケアノスのエースとしてシキさんが出てくれるなら、面白いと思ったんですけどね。残念です……」
「ご、ごめんなさい」
「すみません。責めと……責めてるわけじゃないんです。断っている人多いですし。そんなら、アンリミテッドシリーズには出るんですか?」
「あんりみてっどしりーず?」
なんですかソレ?
「え? ランクマッチやってるのにアンリミテッドシリーズを知らないんですか?」
「恥ずかしながら……」
「そういえば、あのC級ランクマッチ以降、ランクマッチに出てませんもんね。1度限りの助っ人とか?」
「そ、そんな感じかな」
そういえば全然、チーム編成できてないな。ましゅまろスマイルの皆さんにはチームを組むって言ったのに。
「アンリミテッドシリーズはA級だけが参加できる運営主導の大会です。予選をクリアした上位200グループが1つのステージで戦い、順位を決めるんです。この時決まった順位が『世界ランキング』として記録に残ります。頂上を決める戦いですね」
「ランクマッチの中で最大の大会……って考えていいのかな」
「それで間違いないです。報酬も凄いですよ。なんせ」
コナちゃんの耳がピンと立つ。
「去年の大会では……∞アーツが優勝賞品として出ましたから」
「え」
僕はつい、立ち上がってしまった。
「∞アーツが……優勝賞品!?」
「は、はい。そうですよ。∞アーツLegion……去年優勝したユグドラシルはLegionを入手し、六仙さんはそれを手土産にコロニーの王を継いだのです」
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