第174話 一矢
ピーさん。突如現れた綺麗だけど怖いお姉さん。どうやら彼女はクイーンらしい。どこの国のクイーンかは知らない。
「え、えぇっと……ぼ、僕になにか御用ですか……?」
「ああ。お前を勧誘に来た」
ピーさんは僕に右手を差し伸べる。
「私のコロニーに来い、シキ。お前の才能を活かせるのは六仙ではない。この私だ」
えっと? いまいち状況が理解できないけど、住むコロニーを変えろってことかな。
「おっと、言い忘れていた。私はコロニー『火緋色金』の王だ」
「コロニーの王様!?」
「いや、間違えた。王ではない。クイーンだ」
???
なにか違いがあるのかな……。
「オリオンとの戦いを見ていたぞ。まだまだ未熟な部分はあるが、狙撃手として一級品の才能がある。優秀な狙撃手は稀でいて、戦術価値は高い。私はお前が欲しい!」
コロニーの王様ってやっぱりカリスマ性みたいなのがある。
六仙さんもだけど、言葉1つ1つが心に響く。だけど、
「す、すみません。コロニーを変える気はないです」
「報酬は十分なものを用意するぞ。金も、武装もな。部隊を持つこともできる。今の待遇より必ず上の待遇を用意しよう」
「そ、そういう問題ではないです。お金も武装も、自分の力で手に入れたいですし、部隊なんて恐れ多い……でも、違くて」
「まさか、六仙のことを気に入っているのか?」
「いえ、特には」
「特にはなのか」
「僕はあの場所が気に入ってるんです。なので、コロニーは移れません」
というか、今から新しい環境に行くのはこのコミュ障にはきつすぎる!
「そうか。ならば仕方ない」
ピーさんは僕にサーベルを向ける。
「我々は敵同士だ。デリートされても文句はないな?」
「ピーさん。確かにあなたの武装は強力です。ですが……」
僕は右手を腰に回す。
「この武器の間合いに入るべきではなかった」
僕は腰のホルスターからG-AGEを抜き、即座に射撃する。
「!?」
距離は10m。有効射程範囲。G-AGEは実弾。アンチエネルギーの羽は貫通できる。
ピーさんは仕方なくシールドピースで弾を受ける。だけどG-AGEは実体のある盾を貫通できる。弾丸がシールドピースを破り、ピーさんの右耳を撃ち抜いた。
「~~~~っ!?」
(浅い! ギリギリで反応された!)
さすがに一筋縄ではいかない。
(緋威!)
紅いマントを羽織る。
(仕留める!!)
僕が駆け出すと、ピーさんは急速に後ろへ飛んだ。
(次の動きはわかる。先手を打たなきゃ終わりだ)
僕は緋威を脱ぎ、両手に持つ。緋威の下でスタークを実体化させ、両手で握る。
(炎纏)
炎纏でこの厄介な羽を弾き、スタークに羽が接触しないようにする。
(1度データ化したから麻痺は取れてる。条件はクリア)
ピーさんは後ろへ飛びながらライフルを構え、僕に照準に合わせる。
(羽に当たれば威力が削がれやがて消滅。ならば、この羽全てを躱せるコースを狙うまで)
舞い落ちる大量の羽。隙間は僅かだがある。
羽を避け、ピーさんに届くまでのルートを確定。そして、撃つ。
緋縅を脱いでから射撃に至るまで0.8秒。ピーさんがライフルを撃つ前に、そのライフルをスタークで撃ち抜き壊した。
「……破壊力があるのも考えモノですね。ターゲットから一定距離離れるまで引き金を引けない」
相手の規格外ライフルはもう一丁ある。僕はスタークで牽制しながら距離を取る。
(このオーラフィールドはピーさんを中心に展開されている。まずはピーさんから離れてフィールドから脱出する)
フィールドから脱出。スラスターとライトウィングを展開する。
(追ってこないよね)
ピーさんから離れる程、羽避け射撃の難易度は跳ね上がる。僕とピーさんの間の羽の量が増えるためだ。
フィールド外から狙撃する場合、ルートはかなり限定的。あの砲撃を避けながら狙撃するのは物理的に不可能。この距離で僕にできることは無い。
「……僕にはね」
冷静に考えてこの武装の性能差じゃ勝てない。だからここは退く。
でも何もせず逃げるのは嫌だ。
――一矢報いて終わりだ。
「見えた」
ピーさんとは反対方向に銃口を向け、引き金を引く。
---
PPPはシキの行動に疑問を持っていた。
「どこを撃っている?」
シキは自分とは反対方向を向き、弾丸を放った。なにか意図があるのは確実。
「それにしても……面白いメスだな」
PPPは右耳の抉れた部分を撫でる。
「距離にして100mぐらいか? あの羽を避けて狙撃するなど常軌を逸している。腹が立つな……ああ腹が立つ。六仙より先に、あのメスを見つけられなかった自分になぁ……!」
不意に、シキの後方に光の柱が出現した。
「なんだ?」
PPPはシキの後方に出現したある存在を見て目を細める。
「アレは……」
機世天使オリオン。
圧倒的な破壊力の弓矢を持つ機世獣。PPPはオリオンを見て、シキが撃った物の正体を理解する。
「光る小型機……オリオンの呼び鈴を撃ち抜いたのか!」
だが、それでどうする。とPPPは笑う。
「オリオンを陽動に使うか? もしくはオリオンを交えて乱戦狙いか……」
シキが次に何を仕掛けてくるかPPPは愉しみにしていた。
この相手は『ただの強者ではない』と、PPPは全身で感じ取っていた。
シキは空を飛び、位置を調整する。オリオンはシキを目掛けて矢を放つ。シキは矢を避け、冷徹な瞳でPPPを見た。
「!?」
空振りした矢はカイザー・フェーダーの範囲内に突入する。
「そういうことか!」
カイザー・フェーダーを突破するにはカイザー・フェーダーが削り切れない程の質量を用意するしかない。オリオンの矢は破壊力の塊。条件を満たしている。シキはオリオンの矢をPPPに当たるように誘導したのだ。
「テクニシャンめ!」
PPPはライフルでオリオンの矢を狙いレーザーを放つ。破壊と破壊、強力な質量同士はぶつかり、巨大な爆発を空中で発生させた。結果は相殺。しかし、
「くっ!?」
黒いレーザーがPPPの右の翼に着弾。耐久値の3分の1を削られる。
ヘルシャフトとオリオンの矢の激突。それにより巻き起こった爆発によって、カイザー・フェーダーの領域内に大きな空白が生まれた。
その空白を通れば、狙撃ができる。
「不敬だな! この私を、ノーマル装備で制すつもりか!!」
続く狙撃をシールドピースで防ぐ。
シキは手を緩めず、先ほど入手したアステリズム12基を射出。アステリズムは空白を通り、PPPに迫る。
PPPはオリオンとアステリズムを直線で狙える位置に飛び、ヘルシャフトの1撃でアステリズム5基とオリオンを撃破。レアドロップのアステリズムが手に入るが、PPPの視界には入っていない。
残るアステリズム7基は復活した無数の羽を器用に避け、PPPのウィングに集中砲火。右の翼を完全に破壊することに成功する。
「ピースをここまで器用に運用できるとはなぁ! 少なくとも脳波のキレは、最上位クラスか!」
PPPはサーベルを手に取り、残りのアステリズムに迫る。
「……羽を避けられるルートは限られている」
PPPはアステリズムの軌道を読み、サーベルで7基全てを撃破する。
だがアステリズムを処理した頃にはシキはPPPの索敵範囲から消えていた。
たとえ見つけても、片翼を失った今じゃ追い切れない。
「なんっっっって面白いメスだ! ははははははははっ!!!」
屈辱よりも、素晴らしいプレイヤーを見つけた悦びが勝る。
「オリオンを弄び、無数の羽を避け狙撃し、この私の耳と片翼を奪った……その潜在能力、実にいい。私の横に立つに相応しい女だ! いいだろう! シキ!!」
PPPは誰もいない虚空に手を伸ばす。
「お前を……我が妃にしてやる。プリンセス・シキだ!!」
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