第169話 スコアスクランブル その4
瞬間移動を続ける部長さん。
僕は瞬間移動先を読み、弾丸を的中させていく。
(51、52、53)
「なんで……!」
何度も何度もテレポーテーションするが、何度も何度も弾をぶつける。
(89、90、91)
「なんで……なんでなんでなんでなんでなんでぇ!!!」
部長さんは悲痛な叫び声を上げる。
(無駄ですよ。何度やったって僕の目からは逃げられない)
このテレポートには明確な弱点が2つある。
弱点1つ目はテレポート後に0.1秒程の硬直があること。本来ない機能を使っているためデータ処理が間に合っていないのか、完全に停止する時間がある。
弱点2つ目は視線の先にしか飛べないこと。飛ぶ瞬間の相手の目を見ていれば移動先はある程度絞り込める。
相手の視線と他多数の情報(相手の状況や僕の状況・周囲の環境等)から移動先を限定。後は飛んだ後の隙を撃つだけ。普通に動き回れるより楽に狙いを定められる。
「オプションコード! 『4949』!!」
周辺にいる怪獣たちが一斉に僕に向かって走ってきた。
怪獣を操るチートかな。20はいる。この数は厄介――
「こっちは任せて」
怪獣たちが一刀両断される。
現れたのは白い双剣使い――月上さんだ。1分間の休憩をえて、復活したんだ。
「あなたは彼女を倒して」
「……いいんですか?」
僕よりも月上さんの方が強い屈辱を受けたはず――
「いい。あなたに任せる」
思わず、口元が緩む。
「はい! 任されました!」
僕は部長さんを追う。
「~~~~~~~~っ!!!!」
部長さんは唇を噛み、足を止めた。
「なんなんだよ……不公平だろこんなの!」
悲鳴に似た声だ。
「私達がどれだけこのゲームをやり込んだと思ってる! なのに、たった数日練習しただけの連中に……チートまで使って勝てないなんて、そんなのアリかよ!!! 天才だったら、なんだって出来ていいのかよ!!!」
胸に、ズシリと重い感情が溢れる。
ゲームに真剣に向き合ってきたからこそ、『あの眼』が出来上がる。プライドと公平性の間で揺れる、危うい瞳。
ゲームが好きだからこそ、勝ちが欲しくなる。ゲームに真剣だからこそ、理不尽を許容できない。だからと言って誤った手段で勝ちを取りに行くのは、理不尽を壊しに行くのはダメなことだ。
この人の過ちを正し、また前を向かせる……なんて器用なこと、僕にできるとは思えない。けれど、だからと言って、見捨てることが良しとも思わない。このままじゃ、この人はもっと大きな舞台で最悪な過ちをしてしまう気がする。
うぅ……こういうのは苦手だ。頑張れ僕。失敗したとしても、この挑戦自体が間違いだってことはない……!
「き、気持ちはわかります。月上さんや千尋ちゃんを相手にすれば、誰だって同じようなことを言いたくなると思います……」
「はぁ?」
「僕も2人のこと大好きですけど、でも、やっぱり2人と一緒にいると……自尊心がなくなります。別の世界の人間だって。敵いっこないって思っちゃいます。ズルをしてでも、肩を並べたい……そう思うことだってあります。天才ずるいです。ハイ」
「いや、お前も――」
「でも! そのぉ、だからって、チートとか、努力を無駄にすることはしちゃダメだと思います。天才に勝つためには、『楽しむ心』と、『頑張る気持ち』が、必要だと思うんです……ぼ、僕もいっぱい努力して、楽しんで、射撃という分野においては月上さんや千尋ちゃんと競えるぐらいにはなりました。だ、だからですね……! チートはよくない、です! あれ? 違うな……待ってください。もっといいセリフが思いつくはずなので……!」
うっ……ダメだ。漫画の主人公みたいに、かっこいい説得の言葉が思いつかない。
なんとか僕は、この人達にもう1度……ゲームを楽しんでほしいだけなのに。
「ぷっ――はははははははっ!!」
あ、あれぇ? なんか、部長さんが急に笑い出した。
「お前、変な奴だな……! まさか、ここまでした私が、同情されるとは……!」
か、完全に言葉のチョイスを間違えた……!
顔がゆでだこみたいに赤くなっているのが見なくてもわかる……。
「勘違い勘違い。お前は、月上星架とは違うらしい」
部長さんは呆れたように肩を竦ませる。
(うぅ~!! 僕はなんて恥ずかしいことを!)
羞恥心でめまいがする。
「あーあ、バカらしくなってきたな」
部長さんは靴を脱ぎ、黄金の剣を捨てる。
「どうやら瞬間移動も読まれてるみたいだし、使い慣れない武器じゃどうせ1発も掠りはしない。お前を倒すための最善は、これみたいだな」
部長さんはチートを使う前の装備に戻った。
部長さんの纏う空気が、変わる。
「今からでも……本気で相手してくれるか。古式レイ」
「は、はい! もちろんです!」
部長さんも月上さんと同じブレード2本持ち。
低姿勢で突っ込んできて、掬い上げるような斬撃を繰り出してくる。
僕はカウンターで射撃を当てるも、相手の攻撃を肩に掠らせてしまう。
(さっきまでと動きが段違いだ! 野性味のある、面白い動き!!)
僕はバックステップで攻撃を躱し、距離を取りつつライフルで撃つ。
バックステップとバック走で攻撃を回避し、撃つ。それを繰り返す。ただそれだけのシンプルな戦術。だけど、
「こんな見事な引き撃ちは初めてだよ……!」
残念だけど、部長さんにこれを崩す手段はない。
これを崩すには圧倒的な加速力か、あるいは僕を捉えられるだけの剣術or戦術が必要。部長さんにはそのどれもが無い。まだチームメイトがいれば何とかなっただろうけどね。
攻撃を受け続け、ついに部長さんは大きく体勢を崩す。
「これで」
「100発目、か」
僕は至近距離で部長さんの眉間をライフルで撃ち抜き、キルする。
同時に最後の極大怪獣が現れるけど、交戦する前に相手チームが降参した。
スコアスクランブル終了。
僕達の勝利だ。
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