第168話 スコアスクランブル その3
竹葉さんは堅実なアタッカー。ハンドガンで間を埋めつつ剣で仕掛けるスタイル。特に突きが鋭い。
あの右手に持った黄金の剣は恐らく『当たったら即死』。あの鋭い突きを掠りもさせず避けるのは至難。
部長さんは堅実とは程遠い感覚派の人で、リスクは承知で突っ込んできて相手をかき乱し、隙を作る。
身に着けているどのアイテムの効果かわからないけど、瞬間移動を可能にしている。発動条件は何かを蹴ることで間違いない。他人も同時に瞬間移動させることが可能で、その際には竹葉さんを掴んでいたから、同時移動の条件は接触と見て間違いないはず。
分析は終わった。倒す。
「とっととコイツを倒して百桜を狩りに行くぞ! 佳澄!」
「うん! 初ちゃん!」
部長さんが竹葉さんを掴む。瞬間移動がくる。
(視線……体の向き……僕の死角……ベストな間合い――座標特定)
2人の姿が消えたと同時に僕は背後を振り返る。
目の前に、2人が現れる。
「「なっ!?」」
僕はスナイパーライフルの銃身を持ち横に薙ぐ。
2人の顔をライフルのグリップで殴り飛ばす。不意打ちで攻撃をもらった2人は背中から倒れ、道路を転がる。
僕はスナイパーライフルを持ち替え、部長さんの後ろ髪を撃ち抜く。
「な、なんのつもりだ……!」
チート&不意打ちで取った勝ち星なんて価値も意味も無い。けれど、この人は恥ずかしげもなく『月上星架を倒した』という武勇伝を誇るだろう。その武勇伝をかき消すためにはどうすればいいか。答えは簡単。
その武勇伝が霞む程の敗北を渡せばいい。
「これから先、僕は1撃も貰わない」
僕は初期武装のハンドガンをアイテムリストから取り出し、左手に持って部長さんに見せる。
「逆にあなたは、100発喰らわせて倒す」
チートを舐めプで倒す。
それが、僕が導き出した答え。
「とりあえず、竹葉さんは退場してください」
僕が右手に持ったライフルの銃口を竹葉さんに向けると、竹葉さんは尻もちついた状態から起き上がり、僕との間を詰めてきた。
僕はハンドガンをホルスターにしまい、ライフルの銃身を持つ。ライフルを剣に見立てて竹葉さんと斬り合いする。
「私の土俵で勝負する気……古式さん!」
「竹葉さん……いま、楽しいですか?」
竹葉さんの突きは完璧に躱し、僕は竹葉さんの首に打撃を重ねる。
「つっ!?」
「今までの時間を、努力を、コケにするようなことして……ゲームを楽しめてますか?」
「楽しさなんていらない! ただ勝つために!」
「ダメですよ。それじゃ勝てません」
「お喋りしてんじゃ」
僕の背後に部長さんが瞬間移動してくる。
でも問題ない。きっちり『追えている』。
「ないっての!」
「……あなたは後です」
僕は部長さんの踵落としをノールックで躱し、部長さんの背広を引っ張って怪獣の集まっている場所に投げ込む。部長さんが怪獣に襲われている隙に竹葉さんに集中する。
「こんなやり方じゃ絶対に上にはいけない……! 唇を噛んでゲームをする人間は、笑顔でゲームをする人間には勝てません!」
「そんなこと……!」
竹葉さんの動きが鈍る。僕はその隙を見逃さない。
「退屈は、才能を鈍らせる」
竹葉さんの右手首をライフルで撃ち破壊。黄金の剣を落とさせ、僕が拾う。
「剣を……!」
「この剣、軽すぎますね。そのせいですか? 突きが僅かに浮くのは……」
「!?」
「使い慣れてない武器じゃなければ、もっといい勝負ができました……!」
僕はライフルを道路に落とし、バズーカを取り出す。
「バズーカ!? 今更、そんな低ランクの武器なんて……!」
竹葉さんはすぐに全速で後退する。黄金の剣の間合いに居るより、中距離の方が安全だと判断したのだろう。レベル30を超えた竹葉さんに僕の持つ武器じゃまともにダメージを与えられない。一撃必殺の間合いから逃げたのは良い判断と言える……僕が相手じゃ無ければ。
「読み通りです」
僕は右手に持った黄金の剣を投げる。
「こんな使い方……!」
竹葉さんは横に飛んだ。
このままなら数センチ、竹葉さんに剣は届かない。だから僕は剣を投げてすぐ左肩に背負ったバズーカからミサイルを発射した。ミサイルで狙うのは竹葉さんじゃない。道路だ。いま竹葉さんが居る場所から左に5m逸れた地面だ。
ミサイルは道路に着弾。爆発を起こす。爆発によって発生した爆風が剣の軌道を変える。
「~~~~~~っっ!!?」
――寸分狂いなし。直撃コースだ。
「ありえない……!」
黄金の剣の刃が、竹葉さんの体を斬る。竹葉さんのHPバーは一瞬で消滅した。
「爆風で剣の軌道を変えた……!? こんなことが、可能なの……?」
竹葉さんと、視線が合う。
僕は目を細め、
「僕は……本気の竹葉さんと戦いたかったです」
「古式さん――」
竹葉さんが消滅する。
「さて」
道路に転がった黄金の剣。そのすぐ傍に、部長さんが瞬間移動で現れる。部長さんは剣を拾い、構える。
「最初から1人でこれらを使ってればよかった。瞬間移動+一撃必殺の剣……最強の組み合わせだ。これでお前を倒す」
僕は全ての武器をデータ化し、初期装備のハンドガンを構える。
「僕から見れば鈍足で、鈍です」
「言ってろ地味っカスが!」
部長さんの姿が消える。僕はハンドガンの銃口を道端の自販機の上に向け、引き金を引く。部長さんは自販機の上に現れ、僕の弾丸に当たる。
「はぁ!?」
もちろん、初期装備ゆえに弱く、HPは1%程しか削れていない。だけどこれでいい。
弱い威力だからこそ、プライドに強く響く。刀を構えた侍の鼻を、ネコジャラシで撫でたようなものだ。
僕は部長さんに銃口を向ける。
「痒い所はありませんか?」
「ちくしょう……一体どんなズル使って当ててやがるんだ……!」
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レイから離れること200m地点。
千尋はeスポーツ部1年の篠岡那留を追い詰めていた。
すでに篠岡のチートアイテム・『無限連装バズーカ』は破壊し、篠岡のHPも半分以上削った。
千尋はいつでも倒せる。なのに、わざと篠岡を生かし、ダラダラと追いかけっこを続けていた。
「ど、どういうつもりですか」
篠岡は学校の屋上で動きを止め、千尋に問う。千尋は笑顔を崩さぬまま、
「なにが?」
「……私を倒すチャンスは何度もありましたよね? なぜ倒さないんですか……」
千尋は篠岡から視線を外し、
「うーん、だって君を倒したらレイちゃんの応援に行かなくちゃいけないでしょ?」
「えーっと……?」
「面白い所なんだよ。あんなに怒ってるレイちゃん、見たこと無いんだ」
千尋は屋上からレイと木藤の戦いを見下ろす。
「好きな子の喜怒哀楽はぜーんぶ見ておきたいじゃない?」
「……何の話です?」
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