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【書籍化決定】スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
スナイパーズレスト編

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168/202

第167話 スコアスクランブル その2

 残り時間15分。

 eスポーツ部の3人は路地裏に身を潜め、話し合っていた。


「ぶ、部長……このままじゃ負けますよ」


 すでにスコア差は倍近くついており、レベル差も大きくついた。

 このままでは勝機は無い。降参するか、タイムアップまで蹂躙され続けるかの二択だ。


「わかってる!」


 木藤は爪を噛み、答えを出す。


「仕方ない……MOD(モッド)を使う」

「え!?」


 MODとはゲームに新しい要素を入れること、新しいデータを入れることを示す。

 つまり、ゲームを……この試合のシステムを弄るということだ。


(うい)ちゃん……まさか最初から……!」

「ああ。このスコアスクランブルの部屋を作ったのは私だからね。MODを入れるなんて簡単。このゲームはフレンドマッチではMODを許可してるし、問題は無い」

「あるって! MODなんて言葉で誤魔化してるけど、それってチート――」

「うるさい!」


 木藤は竹葉の胸倉を掴む。


「インフェニティ・スペースでの、あの敗北を忘れたのか!」

「!?」

「……トップチームとはいえ、ユグドラシルのエース1人にチーム全員やられたんだ! あの雪辱を晴らすためにも金が要るんだ。デバイスを最新にして、もっと色んな人と試合を組んで……絶対に奴を倒す。綺麗ごとにこだわってる場合じゃない!」

「っ!?」

「負けたら部費がどんだけ減ると思ってるんだ! 下手したら6分の1……ふざけるな! ゲーム機数台で赤字だぞ! ――大丈夫だ。チートを使っちゃダメなんてルールは無いし。負けの記録さえ無ければ、最悪ノーゲーム。無効試合で手打ちにできる」


 竹葉は目を瞑り、「わかった……」と承諾する。


「オプションコード『2286』! 来い……『三種の神器(ゴッドウェポン)』!」


 3人の傍に段ボールが現れる。段ボールを開くと、中には3種の武器が入っていた。


 無限連装ミサイルランチャー。

 一撃必殺の聖剣。

 テレポートブーツ。


「ほれ。よりどりみどりだ。どれにする?」



 ---



 勝負は決した。

 月上さんはレベル30。僕は24で千尋ちゃんが25。

 一方で相手はようやくレベル20を越した頃だ。次の大怪獣をたとえ取られてもレベル差は埋まらない。 


 しかも、


「ようやく見つけたね。スナイパーライフル」

「うん!」


 レアアイテムのスナイパーライフルも見つけた。もう怖いものはない。


「次の大怪獣を取ればスコア的にも決定的だね~」

「次を取ってこの戦いを終わらせる。まだ油断をしてはダメ……相手の心を折り、粉々に踏み砕くまで、最善手を打ち続ける」


 月上さんは冷徹な瞳をしている。


 こ、怖い……でも同時にゾクっとする。


 白い流星はそうでなくてはならない。誰が相手でも圧倒的でないとね。それでこそ僕の最高のターゲットだ。


「大怪獣出たよ!!」


 巨大なイカ。って感じの大怪獣が距離400m地点に現れた。名前はキングクラーケン。

 触手の数が多く、手数が凄まじい。


「弱点は目玉です! 僕が撃ち抜きます! 2人は触手のガードを削ってください!」

「「了解!」」


 前衛の2人が触手を斬り、僕が目玉を撃つ。

 順調だ。順調に削れている。問題は相手チームの姿が見えないこと。


 また漁夫の利を狙ってるのかな? たとえ横取りできても、今の僕らの前に出てくれば殲滅されるだけ。もう詰んでいるけど……どうでるか。


「!?」


 背中に、ぞわっと悪寒を感じた。

 僕は背後の空を見上げる。


「なっ!?」


――無数のミサイルが空を飛んでいた。


 数は10や20じゃない。100……135!! ありえない。3人でロケットランチャーを使ってもここまでの数は出せない!


 僕はライフルで片っ端から撃ち抜いていくけど、ダメだ。半分も削れない! 70発以上は落ちる!


「爆撃来ます!!」

『そんな多少の爆撃ぐらい……ってうわぁ!? なにあの数!!』

『これは……』


 爆撃がキングクラーケンに着弾する。キングクラーケンはあっという間に体力を削られキルされる。

 それで爆撃は終わらない。絶え間ない爆撃が前線の月上さんと千尋ちゃんを襲う。


「月上さん! 千尋ちゃん!!」


 爆撃の嵐。

 爆撃によって発生した黒煙のせいで月上さんは見失った(ロスト)。千尋ちゃんはロケットの嵐を避け、こっちに近づいてきている。流石だ。


『よっ! ほっ! 怪盗舐めるなっての!』


 僕は近くのビルを駆け上がり、屋上から爆撃が飛んできている方角を見る。


(あそこか)


 遠くの博物館の上に1年生ちゃんを発見。僕はスナイパーライフルで1年生ちゃんを狙う。1年生ちゃんはギリギリで反応するけど避けきれない。右肩を撃ち抜き右腕は壊せた。


 1年生ちゃんは右肩に背負っていたロケットランチャーを落とした。けど、もう1つは左肩に背負ったまま。1年生ちゃんは爆撃をやめ、逃走を始めた。僕は落ちたロケットランチャーを念のため狙撃し、破壊する。


(多連装ロケットランチャーはあるけど、このゲームであの形は見たことがない。まさか……)


 ()()に、手を染めたの……? eスポーツ部に所属する人たちが……!


「そうだ。2人は……!」


 黒煙から2人が姿を現す。月上さんも千尋ちゃんも無事だ。

 千尋ちゃんは僕のいるマンションから100m離れた所を走っている。月上さんは160m地点だ。もうすぐチームで合流できる。


「良かっ――」


――あり得ない。


 突如として、月上さんの背後に部長さんと竹葉さんが現れた。

 あの挙動……速いとかじゃない。まるで瞬間移動……!


「後ろです!!」


 月上さんは奇襲を察知し、背後を振り返った。


(凄い! あの奇襲に反応するなんて……!)


 ただ反応できただけで体勢は不十分。ゆえに敵チームの攻撃全てを完璧に回避することはできず、竹葉さんの持つ黄金の剣の突きを、月上さんは頬に掠めてしまった。


 そう、掠めただけ。なのに、


「!?」


 月上さんのHPは0になり、月上さんは消滅した。

 ほとんど触れただけの攻撃で、一瞬で全快だったHPが消滅した。


「よし! 月上星架を倒したぞ! 私たちの力でさ!! やったねぇ!! みんなに自慢できる!!!」


 高笑いする部長さん。苦い顔をする竹葉さん。


 僕は、確信する。相手のしたことを確信する。


 ビルから飛び降り、竹葉さんと部長さんの前に着地する。高所を捨て敵の前に立つなんて、狙撃手失格だ。それでも、抑えられない感情があった。


「古式さん……」

「竹葉さん。僕は、今日……楽しくゲームをするつもりで来ました」


 千尋ちゃんが僕の横に立つ。千尋ちゃんは僕の意図を汲んだのか、何も言わずに後ろ――1年生ちゃんの方へ走っていった。


「何を賭けているかはともかく、ゲームをやるのだから、楽しみにしていたんです。なのに……なんで、こんなことをするんですか?」

「はっ! なにが言いたいのかよくわからないね。私達はたまたま、強い武器を拾っただけ。それだけの話だ」


 罪悪感も、なにもない顔。それよりも月上さんを倒せたことで笑みを抑えきれない様子だ。


(ダメだ……月上さんがチートで倒されたことが、僕の中で……僕の想像以上に……怒りで羞恥心を忘れる程に、気に入らない。そっか。こういう感情を)


 キレてるって言うんだ。


「…………ごめんね古式さん。勝つために、必要なことだから……!」


 2人は武器を構える。


「わかりました。もう結構です」


 僕はいま、酷く、つまらなそうな顔をしていることだろう。

 愛想笑いを浮かべる気すら起きない。


 容赦はしない。たとえ目の前の2人に嫌われても、



――圧倒する。



「つまらないゲームを始めましょうか」

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― 新着の感想 ―
多分ですけれど、これ、決定権のある部長の人間性が腐ってるからですよね…… そもそも勝負を仕掛けたのも、賭け勝負を持ちかけて非常識な額の部費を求めたのも、部長。 生徒会長に(どんな手段を使ってでも)勝て…
はぁ…… 何がeスポーツ部だ
なんだろう、勝ったら勝ったで、チートだろうと言われそう ひとまずやっちゃえ
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