第167話 スコアスクランブル その2
残り時間15分。
eスポーツ部の3人は路地裏に身を潜め、話し合っていた。
「ぶ、部長……このままじゃ負けますよ」
すでにスコア差は倍近くついており、レベル差も大きくついた。
このままでは勝機は無い。降参するか、タイムアップまで蹂躙され続けるかの二択だ。
「わかってる!」
木藤は爪を噛み、答えを出す。
「仕方ない……MODを使う」
「え!?」
MODとはゲームに新しい要素を入れること、新しいデータを入れることを示す。
つまり、ゲームを……この試合のシステムを弄るということだ。
「初ちゃん……まさか最初から……!」
「ああ。このスコアスクランブルの部屋を作ったのは私だからね。MODを入れるなんて簡単。このゲームはフレンドマッチではMODを許可してるし、問題は無い」
「あるって! MODなんて言葉で誤魔化してるけど、それってチート――」
「うるさい!」
木藤は竹葉の胸倉を掴む。
「インフェニティ・スペースでの、あの敗北を忘れたのか!」
「!?」
「……トップチームとはいえ、ユグドラシルのエース1人にチーム全員やられたんだ! あの雪辱を晴らすためにも金が要るんだ。デバイスを最新にして、もっと色んな人と試合を組んで……絶対に奴を倒す。綺麗ごとにこだわってる場合じゃない!」
「っ!?」
「負けたら部費がどんだけ減ると思ってるんだ! 下手したら6分の1……ふざけるな! ゲーム機数台で赤字だぞ! ――大丈夫だ。チートを使っちゃダメなんてルールは無いし。負けの記録さえ無ければ、最悪ノーゲーム。無効試合で手打ちにできる」
竹葉は目を瞑り、「わかった……」と承諾する。
「オプションコード『2286』! 来い……『三種の神器』!」
3人の傍に段ボールが現れる。段ボールを開くと、中には3種の武器が入っていた。
無限連装ミサイルランチャー。
一撃必殺の聖剣。
テレポートブーツ。
「ほれ。よりどりみどりだ。どれにする?」
---
勝負は決した。
月上さんはレベル30。僕は24で千尋ちゃんが25。
一方で相手はようやくレベル20を越した頃だ。次の大怪獣をたとえ取られてもレベル差は埋まらない。
しかも、
「ようやく見つけたね。スナイパーライフル」
「うん!」
レアアイテムのスナイパーライフルも見つけた。もう怖いものはない。
「次の大怪獣を取ればスコア的にも決定的だね~」
「次を取ってこの戦いを終わらせる。まだ油断をしてはダメ……相手の心を折り、粉々に踏み砕くまで、最善手を打ち続ける」
月上さんは冷徹な瞳をしている。
こ、怖い……でも同時にゾクっとする。
白い流星はそうでなくてはならない。誰が相手でも圧倒的でないとね。それでこそ僕の最高のターゲットだ。
「大怪獣出たよ!!」
巨大なイカ。って感じの大怪獣が距離400m地点に現れた。名前はキングクラーケン。
触手の数が多く、手数が凄まじい。
「弱点は目玉です! 僕が撃ち抜きます! 2人は触手のガードを削ってください!」
「「了解!」」
前衛の2人が触手を斬り、僕が目玉を撃つ。
順調だ。順調に削れている。問題は相手チームの姿が見えないこと。
また漁夫の利を狙ってるのかな? たとえ横取りできても、今の僕らの前に出てくれば殲滅されるだけ。もう詰んでいるけど……どうでるか。
「!?」
背中に、ぞわっと悪寒を感じた。
僕は背後の空を見上げる。
「なっ!?」
――無数のミサイルが空を飛んでいた。
数は10や20じゃない。100……135!! ありえない。3人でロケットランチャーを使ってもここまでの数は出せない!
僕はライフルで片っ端から撃ち抜いていくけど、ダメだ。半分も削れない! 70発以上は落ちる!
「爆撃来ます!!」
『そんな多少の爆撃ぐらい……ってうわぁ!? なにあの数!!』
『これは……』
爆撃がキングクラーケンに着弾する。キングクラーケンはあっという間に体力を削られキルされる。
それで爆撃は終わらない。絶え間ない爆撃が前線の月上さんと千尋ちゃんを襲う。
「月上さん! 千尋ちゃん!!」
爆撃の嵐。
爆撃によって発生した黒煙のせいで月上さんは見失った。千尋ちゃんはロケットの嵐を避け、こっちに近づいてきている。流石だ。
『よっ! ほっ! 怪盗舐めるなっての!』
僕は近くのビルを駆け上がり、屋上から爆撃が飛んできている方角を見る。
(あそこか)
遠くの博物館の上に1年生ちゃんを発見。僕はスナイパーライフルで1年生ちゃんを狙う。1年生ちゃんはギリギリで反応するけど避けきれない。右肩を撃ち抜き右腕は壊せた。
1年生ちゃんは右肩に背負っていたロケットランチャーを落とした。けど、もう1つは左肩に背負ったまま。1年生ちゃんは爆撃をやめ、逃走を始めた。僕は落ちたロケットランチャーを念のため狙撃し、破壊する。
(多連装ロケットランチャーはあるけど、このゲームであの形は見たことがない。まさか……)
アレに、手を染めたの……? eスポーツ部に所属する人たちが……!
「そうだ。2人は……!」
黒煙から2人が姿を現す。月上さんも千尋ちゃんも無事だ。
千尋ちゃんは僕のいるマンションから100m離れた所を走っている。月上さんは160m地点だ。もうすぐチームで合流できる。
「良かっ――」
――あり得ない。
突如として、月上さんの背後に部長さんと竹葉さんが現れた。
あの挙動……速いとかじゃない。まるで瞬間移動……!
「後ろです!!」
月上さんは奇襲を察知し、背後を振り返った。
(凄い! あの奇襲に反応するなんて……!)
ただ反応できただけで体勢は不十分。ゆえに敵チームの攻撃全てを完璧に回避することはできず、竹葉さんの持つ黄金の剣の突きを、月上さんは頬に掠めてしまった。
そう、掠めただけ。なのに、
「!?」
月上さんのHPは0になり、月上さんは消滅した。
ほとんど触れただけの攻撃で、一瞬で全快だったHPが消滅した。
「よし! 月上星架を倒したぞ! 私たちの力でさ!! やったねぇ!! みんなに自慢できる!!!」
高笑いする部長さん。苦い顔をする竹葉さん。
僕は、確信する。相手のしたことを確信する。
ビルから飛び降り、竹葉さんと部長さんの前に着地する。高所を捨て敵の前に立つなんて、狙撃手失格だ。それでも、抑えられない感情があった。
「古式さん……」
「竹葉さん。僕は、今日……楽しくゲームをするつもりで来ました」
千尋ちゃんが僕の横に立つ。千尋ちゃんは僕の意図を汲んだのか、何も言わずに後ろ――1年生ちゃんの方へ走っていった。
「何を賭けているかはともかく、ゲームをやるのだから、楽しみにしていたんです。なのに……なんで、こんなことをするんですか?」
「はっ! なにが言いたいのかよくわからないね。私達はたまたま、強い武器を拾っただけ。それだけの話だ」
罪悪感も、なにもない顔。それよりも月上さんを倒せたことで笑みを抑えきれない様子だ。
(ダメだ……月上さんがチートで倒されたことが、僕の中で……僕の想像以上に……怒りで羞恥心を忘れる程に、気に入らない。そっか。こういう感情を)
キレてるって言うんだ。
「…………ごめんね古式さん。勝つために、必要なことだから……!」
2人は武器を構える。
「わかりました。もう結構です」
僕はいま、酷く、つまらなそうな顔をしていることだろう。
愛想笑いを浮かべる気すら起きない。
容赦はしない。たとえ目の前の2人に嫌われても、
――圧倒する。
「つまらないゲームを始めましょうか」
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