第165話 月上星架のお願い その4
迎えた勝負の日。
決戦の会場となったのは休日の学校、eスポーツ部の部室。新校舎にある最新設備の大部屋だ。
ギャラリーはいない。いるのは僕ら3人とeスポーツ部の代表3人だ。
月上さん曰くこの勝負は学校側には内密らしい。部費を賭けて戦うなんて普通に考えて大問題だから仕方ない。必要最低限の人数しか居ないのはこの一件が外に漏れないようにするため……だと思う。もしかしたら僕を気遣って月上さんが手配したのかもしれないけど……さすがに無いか。
「逃げずによく来てくれました。生徒会長サン」
おでこの出た女の子が前に出る。
この子がeスポーツ部の部長……名前は木藤さん。
「こっちが勝ったら部費倍額。しっかり守ってくださいよ」
「もちろん」
同学年の月上さんに対して敬語だ。いや、僕も月上さんには敬語だけど……この人のはなんか違う。なんというか、小馬鹿にした感じの敬語だ。
「それで……お仲間が……」
相手チームの視線が千尋ちゃんに集中する。
「これはこれは……す、すっごいの連れてきましたね」
「やっほー! 今日はよろしくね~」
女優・百桜千尋を前にして、eスポーツ部の人達は驚いている様子。
一方で、
「……逆に3人目は誰だアレ。お前の学年じゃないのか?」
部長さんは1年生の子に聞く。
「し、知らないですよ。1年にあんなのいないですって……」
うっ……わかる。わかるよ。
生徒会長と女優ときて、ただの陰キャが来たらそら不気味ですよね……。
「古式レイさん。私と同じクラスの子だよ」
「え!?」
おさげで大人しい雰囲気の人が僕の名前を口にした。
あの人は……僕のクラスの学級委員、竹葉さんだ。
「よろしくね古式さん」
「あ、は、はい……委員長」
「ちゃんと話したこと無かったけど、ゲーム得意だったんだ。言ってくれれば良かったのに」
「す、すみません……!」
「そんなかしこまった喋り方しなくていいよ。今日は敵みたいだけど、同じクラスなんだしさ」
竹葉さんは良い人だ。体育の授業とか、家庭科の授業とかでグループを作るってなった時、いつもあぶれた僕をグループに誘ってくれた。
eスポーツ部だったのは知らなかった。けど、僕と同じでゲームが好きみたいで嬉しい……。
「きょ、今日は! た、楽しもうねっ!」
僕が言うと、竹葉さんは柔らかい笑顔で、
「うん! 楽しもうね!」
「えへ、えへへ……」
2チームは別れ、それぞれフルダイブ用のゲーミングチェアに座る。
この椅子はフルダイブ中に圧力や電流で体をほぐしてくれる。仮想世界から戻ってきた時、体に痺れやコリを残さない優れ物だ。結構高いのにこれが6つもあるなんて、さすが全国レベルのeスポーツ部だ。
「教室の前には部員を待機させてるんで、ダイブ中の安全についても心配はいりません」
「わかった」
月上さんがここに来る前に言っていたけど、この教室には隠しカメラを仕掛けており、今は生徒会のメンバーが監視しているらしい。もしも、ダイブ中の僕らにeスポーツ部の人間が何かしたら録画することもできるし、生徒会の人が助けに入ることもできる。警戒し過ぎとも言えるけど、抜かりない……という評価の方が正しいか。
僕らはヘッドギアを装着し、ガーディアンズ・ユナイトにログインする。
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eスポーツ部チーム・ブリーフィングルーム。
ガーディアンズ・ユナイトのスコアスクランブルは開始前に会議の時間が与えられる。eスポーツ部の面々はブリーフィングルームで最後の打ち合わせをしていた。
「それで佳澄。あの古式ってやつはなんなんだ? 強いのか?」
竹葉は首を横に振り、
「仮想体テストの成績はクラスでワースト3だったよ。月上生徒会長や百桜さんみたいに何か特別なモノを持ってるタイプじゃない……と、思いたいけど」
竹葉は考え込む素振りを見せる。
「? どうしました竹葉先輩?」
「いや……そう、仮想体テスト。アレってウチの場合クラス全員で種目を周るでしょ? 自分がテストに挑戦している時、クラスの視線が集中する」
「だからなにさ」
「古式さんはあがり症だから、本来の力を発揮できなかった可能性があるってこと」
「考えすぎじゃないですか?」
「そう思いたいけどね。でもさ、聴覚反応テストを始めとした個室でやる種目とか、人の目がない種目はさ……確か、全部満点だったはず」
竹葉の話を聞き、他2人は「いやいやいや」と肩を竦める。
「何かの間違いだろ。仮想体テストの種目はどれも最高点なんて出しようがないモンだ。私達eスポーツ部の人間でも何らかの種目で満点を取ったやつはいない」
「それか卑怯な手でも使ったんですよ。あの地味~な人が何かに秀でているとは思えません」
「うーん……見間違いだったかな。データ表には確かに満点の数値が並んでいたはず……」
「でも事実、ワースト3なんだろ。問題なし」
「そうです。警戒すべきは絶対、他2人ですよ」
「だな」
竹葉は改めて古式レイのことを考え、異常を覚えた。
竹葉は学級委員長としてクラスメイト全員を思い、観察してきた。全員のクラス内の交友関係や好きな物、嫌いな物はある程度把握している。1学期を終え、全員と思い出を築いてきた。
なのに、レイとの思い出がない。レイの情報が少ない。あがり症、という情報以上がない。何度も同じ班になったはずなのに。
担任にPCの調子を見て欲しいと頼まれ、その時偶然にレイの仮想体テストの成績を見たおかげでまだ印象に残ってる方だ。もしもあの件が無ければ……今よりもっと、古式レイという存在は希薄だっただろう。
思えば以前、生徒会長が放送でレイを呼び出した時、レイの名前を憶えてすらないクラスメイトもいた。それも1人ではなく複数人。1学期通して同じ教室で過ごしたクラスメイトの名前を、複数の人間が覚えてなかったのだ。レイの名前を憶えていないクラスメイトの中には1年時にレイと同じクラスだった者もいた。
意識して存在感を消していたのなら、意識して人の死角に入っていたのなら。
『地味』という言葉で片付けるにはあまりに異常過ぎる。
とは言え、現状それを他の部員に言った所で一笑に付されるだけだ。
「うん……数か月だけど同じクラスに居て、何か特別なものを感じたことは無い。月上さんや百桜さんを差し置いて何か手を打つ必要はない、か」
会議の残り時間が10秒になる。
「さ! アイツら全員倒して!」
「部費倍額! アーンド、月上星架と百桜千尋に勝利したという勲章をゲッツ!」
「行こうか。31人の部員のために」
参加メンバー全員が転送され、スコアスクランブルが始まった。
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