第163話 月上星架のお願い その2
2学期が始まって4日目。
さすがに千尋ちゃんの周りも静かになり、僕の席にも平穏が訪れた。千尋ちゃんはあまり目立ちたくないという僕の気持ちを汲んでか、あまり話しかけてはこない。けれど、隙を見ては頬っぺたを後ろから突いてきたり、頬っぺたを掴んできたりするのは正直鬱陶しい。
なにはともあれ落ち着いた。このまま静かでボッチな学園生活を謳歌しよう――と思った時だった。
ピンポンパンポーン。と、学校中に放送を知らせる音が鳴った。
『2年A組古式レイさん。至急生徒会室まで来るように』
口から魂が飛び出る。
「2年A組って、このクラスだよね?」
「生徒会室に呼び出しって、なんかやらかし?」
飛び出た魂を慌てて吸い込む。
(月上さんの声だ。月上さんの呼び出しだ。なんで!?)
用があるにしても、わざわざ放送で呼ばなくてもいいはず! スマホという便利な連絡ツールがあるというのに!!
「古式……? 誰??」
「いや、誰は無いでしょ。ほら、あの子だって……」
グサグサグサ。と視線が突き刺さってくる。
あばばばばば……!? や、やばい。足が震えて立てない……!
「よ、呼ばれてるよ……? 古式さん」
学級委員長の竹葉さんが声を掛けてきた。
「は、はぁい!!」
僕は跳ねるように立ち上がり、「……間違いかなぁ? きっとなにかの間違いだろうなぁ~」とブツブツと言いながら教室を出た。
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生徒会室を扉をノックする。
「どうぞ」
「し、失礼します」
生徒会室に入る。月上さんは窓際の席にいつものクールフェイスで座っている。
「待ってた」
良かった。部屋には月上さんだけだ。
「つ、月上さん……なぜ放送で呼んだのでしょうか……スマホで連絡して頂けた方が僕としては楽に……」
「釣るため」
「つ、釣るぅ?」
「放送であなたを呼び出せば、彼女も釣れると踏んだ。――出てきたら? 百桜千尋」
「え!?」
振り返る。が、誰もいない。
僕は部屋の中の気配を探る。生徒会室のロッカーに、僅かな気配を感じた。
僕はロッカーを開ける。すると、そこにはなんと女の子がいた。毛先がピンクの女の子だ。
「千尋ちゃん……いつの間に」
「あっれぇ。なんでバレちゃったかなぁ」
僕と同じタイミングで入ってきたのかな。でも、ロッカーの開閉する音なんて聞こえなかった。そもそも月上さんの視界の中に存在するロッカーに入るなんて無理だ。
まさか、月上さんが放送室から生徒会室に移動するまでの間にロッカーの中まで移動したのかな。だとしたらなんという俊敏性!
「百桜千尋。あなたを大胆に呼ぶのは躊躇われた」
「私と星架ちゃんが会うってなったら余計な野次馬が湧く可能性大だもんね~」
え? もしかして僕、千尋ちゃんを呼び出すための餌にされた?
「2人に頼み事がある」
良かった。どうやらちゃんと僕にも用があるらしい。
「今日の朝のこと――」
月上さんは今日の早朝にあった出来事を語ってくれた。
eスポーツ部の部長とゲームで勝負する約束をしたこと。バトル形式が3対3であること。
勝負に使用するゲームタイトルや日程についても教えてくれた。
つまるところ、月上さんの頼み事とは、
「私とチームを組んでeスポーツ部と戦ってほしい」
月上さんとチーム!?
そ、それは……面白そう。
「相手はゲーマーでしょ。そのゲーマーがきっと何年もやり込んだゲームに、たった数日の練習で挑めって? なにそれ」
千尋ちゃんは乗り気じゃない感じかな。
「ちょー面白いじゃん!」
あれ。
「私は乗ったー! あ、でもなにかご褒美は用意してね」
「わかった。勝った暁には2人に報酬を用意する。なにが欲しいの?」
「星架ちゃんの水着写真!」
「えぇ!?」
月上さんは少し考えた後、
「スクール水着でいいのなら」
「うえぇ!!?」
「オーケーオーケー! むしろ興奮するってもんよ!」
ず、ズルい。
僕も……いや、僕は後で千尋ちゃんに写真をコピーして貰えばいいか。
「あなたは?」
「協力はしますけど、報酬については……まだ思いつきません」
「わかった。考えておいて」
月上さんに何を着てもらうか、時間をいっぱい使って考えよう。
「ソフトのお金は後で払うから領収書はとっておいて。今日は個々で練習して、明日合同で練習。それで明後日が本番。問題はない?」
「いいよん♪」
「問題ないです」
それにしても練習時間がたった2日とは。しかも学校のある平日。月上さんも千尋ちゃんも忙しい身だけど、大丈夫かなぁ。
こ、これは僕が率先していっぱいやって先導しないと。今日は徹夜だ……!
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