第16話 黄金時代③
121回リトライして、ようやく光明が見えてきた。
敵の配置は完全に暗記。スナイパーの数は3人で、その全ての配置もわかった。地雷やワイヤーなどの罠の位置も完全把握。
だが1番僕にとって有益だった情報は敵の位置でも罠の位置でもない。1つの仕様だ。
――味方撃ち無効。
味方を傷つけることができないという仕様がこのミッション内にある。僕に味方はいないのだから関係ないかと思うかもしれないが、重要なのはこのフレンドリーファイア無効が敵チームに採用されているということ。
敵が放った弾丸が別の敵にヒットすると霧散する。地雷などの罠も同様で、敵ならば地雷を踏んでもノーダメージ、ただ爆風で吹っ飛ぶだけ。
この仕様を利用してミッションを攻略していく。
「いたぞ! こっちだ! ぐわあぁっ!?」
まず裏通りに出て、敵6人を撃破。1人は両肩を撃って無力化し、人質にする。
その人質を盾にしつつ、裏通りを突破する。相手の射撃はこの人質で全て弾ける。
「人質を取るなんてせけぇぞ!」
「鬼!」
「悪魔!」
「人間の風上にも置けねぇ!」
「外道野郎!!」
NPCから罵声が飛んでくるが無視。ある程度距離を稼いだら表通りに出る。
表通りには地雷が集中して存在する地点がある。そこに向かって人質を投げ、人質が地雷を起動させると同時に人質の背に飛び乗る。すると地雷の爆風を受けて空を飛ぶことができる。敵が設置した地雷なので人質は爆風で消えることなく、僕の足場であり続ける。人間サーフィンだ。エウ〇カを思い出すね。
スタートから1.5km地点の教会の上にスナイパーがいるので、空からそのスナイパーを撃つ。その後で教会の屋根上に人間サーフボードから飛び移る。人質は落下ダメージで死亡。僕は狙撃手からスナイパーライフル(モシンナガン)を奪い、弾の限り敵を狙撃。
ラストスパート。残った敵はM1911で排除していく。この終盤の畳みかけも半端ない。敵NPCの動きも良くなり、数も中々。跳弾とかも利用してくる鬼仕様。この終盤だけでもう30回は挑戦している。
終盤は完全な銃撃戦。純粋なプレイヤースキルによる突破しかない。跳弾のせいで人質盾は突破されるし、爆風ジャンプもこの辺りだとバズーカ砲で撃ち落とされるから利用できない。狙撃にもニュー〇イプの如く反応する。M1911で撃ち殺していくしかない。
唯一の救いは『湧き』が無いこと。NPCの増援はない。スタート時点でいた敵を殲滅すればクリア同然。罠さえかからなければね。
敵は1人1人動きが違う。ちゃんと別々の癖がある。早撃ちが得意な人、精密射撃が得意な人、跳弾が得意な人、様々だ。もう僕は全員の癖を看破している。1人1人きっちり処理していく。
(あと数14! よし、ここからは……)
敵からM1911を奪い、二丁拳銃で残敵を掃討する。
片手撃ちは装甲値0だと腕の耐久値が削られる。1発で10%。ゆえに二丁拳銃スタイルは使える回数が限られる。だから最後の、このクライマックスまで取っておいた。
7、6、5、4、3、2――1!!
「……お、終わった……!」
アイコンが全て消滅。か、勝った……!
敵から奪った弾薬も含めてほぼ全消費。残弾数たったの3。ギリギリだ……。人間サーフィンで弾薬節約しなかったら絶対途中で弾薬切れしていた。
「油断大敵……ここで地雷引っかかって死ぬのだけはごめんだよ……」
地雷が絶対ない屋根から目的地へ向かおう。
街はすっかり静まり返っている。さっきまでの騒がしさから一転してこの静けさ、ゾクゾクするね。
「はぁ。終盤までは結構バグ的に突破しちゃったな。いつか真っ向から全部クリアしたい」
このミッションがスタートしてから9時間、現実では3時間経過している。
そろそろ昼時、朝食をあまり食べてないから空腹アラートが怖い所だ。『空腹アラート』と『脳疲労アラート』は強制的にログアウトされちゃうからね、気を付けないと。まともに攻略しようと思ったらこの倍は時間がかかっただろうなぁ。
「ここか」
着いたのは――古臭い鉄工所。
「来たか!」
鉄工所の中から作業服を来たおじさんが出てくる。
帽子を被っていて、その帽子の陰のせいで目元は見えない。
「あの、これ」
「いやぁ、待ってたよ! これでようやく作れる。早く貸して!」
作業服のおじさんの頭の上にGOALと書いてある。この人にアタッシュケースを渡せばクリアだろう。
僕はアイテムポーチからアタッシュケースを実体化し、おじさんに渡す。
作業服のおじさんは鉄工所の中にアタッシュケースを持っていき、作業机でアタッシュケースを開く。僕はアタッシュケースの中をおじさんの背中から覗き見る。
「これ、M1911の部品、ですよね?」
「凄いね、この段階からわかるんだ。でもただの部品じゃないよ。それぞれの素材が1級品だ。象牙とかレアメタルとかが使われている」
おじさんは銃を組み立て始める。
「君が元居た世界では、M1911はすでに錆びついた古代遺物と化しているだろう」
「あなたは……」
この声、あのブラウン管テレビから聞こえた声と同じ……。
「だが僕が手を加えることで、M1911は蘇る」
おじさんは銃を組み立て、僕にその銃を渡す。
M1911――だけど、さっきまで僕が使っていたものと色が違う。黒じゃなくてシルバーだ。バレルには『G-AGE』と書かれている。
「『M1911 G-AGE』。ここまで来れた君ならきっと使いこなせるはずだ」
「ありがとう、ございます……」
これが報酬か。
ウェポンポーチに収納し、詳細を見る。
『説明文:黄金時代を生き抜いた者に与えられる最高にイカした銃。基礎性能は通常のM1911と変わらないが、装甲値を無視してダメージを与えることができる特殊効果を持つ。急所にさえ当たればどんなスペースガールも葬る恐ろしい性能。ただし反動や銃声は大きいためやはり通常版M1911と同じく他の武装より扱いづらい。弾速も遅いため遠距離だと反応されるだろう。さらに装甲値の無いレーザー兵器には効果が無いので注意。ターゲットを十分に引きつけ、レーザー兵器を避けつつ直撃を喰らわせる腕が必要。射程のある武器や軽い武器、利便性のある武器を使うのもいいが……ロマンに欠けるな』
やけに長い説明文。絶対開発者の私情が入ってるでしょこの説明。フ……その遊び心、嫌いじゃないけどね。
「それではな。君の活躍に期待している」
「はい! どうもありがとうございました!」
気づくと、元の森に戻っていた。
ブラウン管テレビは煙を上げており、画面は割れている。哀愁漂う姿だ。もう1度入ることはできなそう。
「クリアできて良かった良かった。面白い武器も手に入ったしね。もう11時過ぎだし、キリがいいからお昼ご飯食べに1回ログアウトしようっと」
宇宙船でスペース・ステーションに帰還し、カプセルベッドでログアウトする。
はて、何か忘れているような……?
人質盾は開発者も想定内でしたが、人質サーフィンは完全に予想外の攻略法です。
M1911 G-AGEは現在ゲーム内で1品のみであり、『黄金時代』の攻略報告が届いた時開発部はざわついたらしい。
ちなみに黄金時代をクリアしてゲットできる銃なので、開発部からは『黄金銃』と呼ばれている。元ネタ誰がわかるねん。
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