第15話 黄金時代②
転送されたのはタバコ臭い薄暗い部屋。
目の前には椅子に座り、豪奢なテーブルに肘を乗せたザ・イタリアンマフィアのボスのようなグラサン男。僕を囲うように黒服が立ち並んでいる。
コミュ障極まれり僕だがNPC相手にきょどりはしない。さすがにね。
「シキ。お前の腕を見込んで頼みがある」
グラサン男が指で合図すると、黒服の1人がアタッシュケースをテーブルに乗せた。
「コイツを例の場所へ持っていってくれ」
MAPにその『例の場所』が赤アイコンで記される。距離にして2.5km程。
「中身はなんですか?」
「それを聞くのは野暮ってもんだぜ」
ククク……と葉巻を揺らすグラサン男。
なるほど。このスペシャルミッションで僕は『運び屋』をやるわけか。
「この街のあらゆるマフィアがそれを求めている。一瞬の油断が命取りだ」
「はい」
「頼んだぞ。お前だけが頼りだ」
「ラジャ、ボス」
世界観に合わせて敬礼する。
僕はアタッシュケースを受け取る。するとアタッシュケースはデータ化し、アイテムポーチに収納された。
廊下に出る。正面を暫く行ったところに階段が見えた。あそこを目指そう。
建物の外に出たら本格的にミッションスタートかな。
赤絨毯の上を歩きつつ持ち物を確認。武装にM1911のみしか入ってない。アイテムボックスには――マガジンが20(140発)。他には何もない。
ステータスも確認しておこう。
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PN:シキ
LV:1
ROLE:ガンナー
TIP:0
装甲:0
スラスター出力:0
スラスター容量:0
精密性:100
レーダー:100
ステルス性:0
EN容量:0
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レベルが下がるだけでなく、ステータスも大幅に減少している。
だけどレーダーは生きてるね。MAPに敵のアイコンが映っている。
「えぇ……」
半径250m以内に敵アイコンが72。
「これはやば――」
ガン!!
と、脳髄を衝撃が貫いた。
「なっ……!?」
廊下の窓の前を通っている時だった。
窓を突き破って弾丸が右こめかみに突き刺さった。
敵アイコンの配置からして右からの狙撃はまずないと思っていたけど、とんだ勘違い。250mより外からの狙撃をなぜ警戒しなかった?
(これは僕のミスだ。迂闊に窓の前を通るなんて……!)
視界が暗闇に落ち、ゲームオーバー。リトライするか否かをシステムメッセージで聞かれる。
当然YES。
「……!」
廊下に出たところからリスタートだ。
今度は窓に気をつけ、階段を降り、裏口に向かう。
(狙撃手の居る場所は当たりが付いている。射線に気をつけて動こう)
僕が外に出ても敵アイコンは動かない。
僕が誰かに見つかるまでは僕に寄ってくることは無いのだろう。1度発砲すれば間違いなくすべての敵が僕に集まる。
狙撃を警戒しつつ、窓から外の景色を見る。
1900年代のイタリアを意識した市街地。この事務所の前には大通りがあって、その大通りにある建物の屋根上に多数のアイコンがある。大通りを通れば間違いなく蜂の巣。
敵に気を付けつつ、裏口扉に付いた窓から外を確認する。
裏通りは陽当たりが無く全て影になっている。敵アイコンも少ない。こっちから行くのが吉か?
(ダメだ。裏は裏で遮蔽物が無い。これ、見つからずに行くのは無理だ)
ならば、裏通りから強行突破だ!
(3、2、1)
裏口から飛び出る。
反応したアイコンは――7。建物の上、建物の影、ゴミ箱の裏、場所は全て把握できる。これは僕の大きなアドバンテージ。
顔を出したそばからM1911でヘッドショットを決めていく。
7人撃破。マガジンの入れ替え完了。
「こっちだ!!」
「逃がすなァ!!」
敵アイコンが前後に現れる。僕は建物の影に隠れ、窓のフチやタンクなどを足場に屋根の上にのぼる。
(屋根上、狙撃は怖いけどここが1番やりやすい)
案の定、狙撃が飛んでくるが、それは首を振って躱せた。
(スペースガールの反射速度なら、視界に入ってさえいれば狙撃に反応できる)
屋根から屋根へ移動しつつ、敵を撃破していく。
「うっそ……!」
表通りを挟んで反対側の屋根上に、ガトリング砲を構えた男がいた。
「だっはっは! ここまでだぜぇ!」
射撃――間に合わないっ!!
「死に晒せ!!」
迫りくるガトリングの弾、狙撃の弾、裏通りからの射撃。これらを全て躱すには屋根を転がるしかなかった。
(こんなの……!)
屋根を転がり、表通りに落下する。
ピピ。と、落下した地面から音がした。
「え」
次の瞬間、僕の体は爆散した。
――地雷。
この時代の火力じゃない。建物1つ吹き飛ばせる爆風だ。こんなの予見するのは無理、完全に初見殺しだ。
殺意高すぎるでしょ、このミッション。
あれだけして進めたのはたったの200m。後2.3km。
「こ、この感じは……『スト発テージ』だ。間違いない」
スト発テージとは、ストレス発散ステージの略。
製作者が『バランスとか色々めんどくせーっ!』とヤケになり、作ったステージだ。製作者のストレスはけ口。ゆえに、プレイヤーを楽しませる気など一切なく、むしろプレイヤーを苦しませて愉悦に浸るためのステージ……!
「や、やってくれる……!」
リトライし、また廊下からスタートする。
インフェニティ・スペース。神ゲーと聞いていたけどとんだ鬼畜クソゲーだ。面白いじゃないか。
「絶対、攻略してやる」
シキは過疎ゲーが好きなので、クソゲーとも縁があります。過疎とクソはそれなりにイコールなのでね。
だからヤバい難易度のゲームやバグ塗れゲームも幾つもクリアしています。これぐらいの理不尽さじゃ全然めげません。