第148話 激闘! 怪盗vs天才!!
「私、すっごく傷ついたよ……」
その場に座り込み、膝を抱えて丸まってしまう千尋ちゃん。
「ご、ごめん千尋ちゃん。だって、リアルの姿で会うの初めてだしさ……」
「名前が千尋で! この特徴的なかわかわボイスで! なんで気づかないのさ! 愛が足りないよ! 愛が!!」
「……う、うん。それは確かに足りてないかも」
まさか転校生が千尋ちゃんだったなんて……!
う、嬉しい。素直に嬉しいよ。ゲームの中だけじゃなく、リアルでも友達になれるなんて。
ていうか千尋ちゃん、ゲームのアバターと同じぐらい可愛いって凄いなぁ。
「それにしてもなんで月永女子に?」
「いやぁ、元々通ってた高校が出席日数に厳しくてね~。女優業でサボりまくった結果、留年危機に陥ってしまったんだよ~」
女優かぁ。千尋ちゃんが女優になったことに関してはあまり驚きはない。
ラビちゃんを見てれば千尋ちゃんの演技力の高さはわかるからね。昔から器用だったし。凄く腑に落ちる。
「女子校で出席日数を誤魔化してくれるとこを探したら、あの学校に行き着いたってわけ」
女子校にこだわるのは男性ファンに言い寄られたり男性と変な噂が立つのを避けるためなのか。それとも単に女の子と遊びたいだけなのか……。
「まさかレイちゃんがいるとは驚きだったよ。これからは毎日イチャイチャできるね」
「え……」
「学校も同じ。クラスも同じ。それでいて前後の席! これはもう運命としか言えなくない? 私と一線越えちまおうぜセニョリータ♪」
千尋ちゃんは流れるような手つきで僕の顎をくいっと上げてくる。
僕はつい反射的に彼女の手と肩を押さえて関節技をかけてしまった。
「いててててて何で関節極めてるのレイちゃん……!」
「ごめんね。千尋ちゃんは前科があるから……」
バーチャル世界でファーストキスを奪ってきた前科がね。
「……」
はっ! 殺気!?
殺気の出所は……僕の正面。月上さんからだ。
「す、すみません月上さん! こっちで話し込んでしまって……えっと、この子は僕の幼馴染というか何というか……」
「どうも百桜千尋でぇす! って、もちろん生徒会長さんなら知ってるよね~」
「うん。知ってる」
「それにしても生徒会長さんも可愛いね~。でもなんでかなぁ、君を口説く気にはなれない」
な、なぜだろう。2人の間に険悪なムードが……。
「それじゃ生徒会長さん。レイちゃんは、私と帰るから♪」
「うわっ!?」
千尋ちゃんに腕を絡まれる。
「ばいばーい」
そのまま千尋ちゃんに引っ張られ、体を反転させる。すると、今度は月上さんに背後から肩を掴まれた。月上さんと千尋ちゃん、2人に前後から力を掛けられ、体が伸びる。
「うぎゃっ!?」
「レイは私と帰る。あなたは1人で帰って」
「ほほーう?」
険悪なムードが灼熱のムードに変わる。
あの、3人で帰るという選択肢は無いのでしょうか?
「それじゃ勝負しよっか。勝った方がレイちゃんと帰るってことで」
「望むところ」
「えぇ~……」
よくわからない展開だけど、月上さんvs千尋ちゃんのカードは熱いなぁ。
真っ向勝負無敗の月上さんと、卑怯卑劣・搦め手・奇策なんでもアリな千尋ちゃん。どっちが強いのか。
「勝負方法はレイちゃん決めてよ」
「ぼ、僕が!?」
「うん。それが公平」
「そうですね……」
運動や勉強で争っても仕方ない。
ここはやはり――
---
「ゲーセンで決めましょう!」
僕らは街のゲームセンターへと足を運んだ。
「へぇ、いいじゃん。ゲーム得意だよ私。あ! ひょっとしてレイちゃん、私と帰りたいから私有利の勝負を選んで……」
友達と帰りにゲームセンタ―! なんか、リア充っぽい!
「っていうわけじゃ無さそうだね~」
「……ゲームセンター。はじめて」
月上さんはキョロキョロとゲーセンを見回す。
無表情だけど、せわしなく歩いているあたり興奮している気がする。
「さすがに月上さんが不利すぎますかね……」
「それ以前に、生徒会長様が制服でゲーセンで遊んでいいの?」
校則的にはどうだっただろうか。
帰りに娯楽施設に寄るのは基本グレーだった気もするけど……。
「全部問題ない。不利はすぐに返せるし、この程度のことで揺らぐ程柔い地位にいない」
有無を言わせぬ迫力。
「ここは会長様の気概を買いましょうぜ」
グッと親指を立てる千尋ちゃん。僕は「そうだね」と頷く。
「それでレイちゃん、どれで勝負するの?」
「色々やろうよ。最終的にどっちの勝ち星が多いかで勝敗を決めよう」
「OKハニー!」
「わかった」
さてと、
「それではまずは……」
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