第147話 百桜千尋の正体!
始業式が終わり、現実に意識が戻る。
先生が必要事項を20分程述べるとクラスは解散となった。だけど誰も帰ろうとしない。理由はもちろん、彼女が居るからだ。
「は、はじめまして。あの、竹葉って言います! が、学級委員長やらせてもらってます! わからないことがあったら気軽に聞いてくださいませ!」
「ありがと。でも敬語やめて~。同学年なんだから気軽にね」
「千尋ちゃん! 今日この後カラオケ行くんだけど、良かったら一緒にどう?」
「ごめんね。今日はちょっと予定があるんだ」
「そうだよね~。撮影とか色々あるし、忙しいよね。ほら、この前もラジオ番組始まったしさ!」
「あ! それ私毎週聞いてるよ!」
「ありがとね~。ハガキ出してくれたら読むよ~」
す、すごいな。もうかれこれ10分間会話がノンストップだ。僕だったら失神してるよ……。
帰りたいけど、僕の机含めて囲まれているから出れない。立つことすらできない。百桜さんの机と僕の椅子の間に人が立っていて、椅子が引けない。
『ごめんなさい。通してください』と言うだけでいいのにできない! ARの中じゃ多少コミュニケーション能力マシになったけど、現実じゃまだまだダメだ。この会話の流れを一瞬でも止めることが我慢できない……。
(仕方ない。動かざること漬物石の如く――)
僕は瞼を下ろし、人が散るのを待つことにした。しかし、
「ねぇ。どいてくれる?」
その一言が騒ぎを止め、集団を切り裂いた。
僕はすぐに声の主がわかった。百桜さんに匹敵する学校の人気者、無敵の生徒会長――そう、月上星架さんだ。
月上さんが人の波を裂き、僕の机の横まで歩いてきた。
「……やっぱり生徒会長も千尋ちゃん目当て?」
「……そりゃそうでしょ。今を生きる女子高生で千尋ちゃんに興味ない人なんていないって」
すみません。ここに居ます。
「私に何か用かな~?」
と、どこか敵意の感じる声色で百桜さんが言う。
「いえ。あなたに用はない」
そうバッサリ切り捨て、月上さんは僕の右手を掴んだ。
「え?」
「出るよ」
「は、はいぃ!?」
僕は引っ張られ、半ば強引に教室から連れ出される。すれ違う全員に『コイツ誰?』的な視線を向けられたことは言うまでもない。
月上さんはそのまま下駄箱を通過し、人気の少ない住宅街まで僕を引っ張った。
「あ、あの、月上さん? なにか僕に御用ですか?」
「別に」
月上さんは手を放す。
「一緒に帰りたかっただけ」
「一緒に……」
なんで?
なんの利益もなく僕と帰る必要なんてないはず……相変わらずよくわからない人だ。
(うっ……なんか、直視できない)
あの夢のせいだ。月上さんと唇を重ねた夢……あれのせいで、月上さんの顔を見ると恥ずかしくなる。
ちらっ。と逸らしていた目を月上さんの目と合わせる。
すると――なぜか月上さんが目を逸らした。
「え!?」
「……」
仄かに、頬も赤くなっているような……。
「えっ、あの……月上さん……?」
「……」
うんともすんとも言わない。
大人びたいつもの月上さんじゃない。むしろ、子供のような顔だ。理解できない物を前にした子供。初めて行った水族館や動物園で人間より巨大な生物を目の当たりにした子供のように、戸惑っている顔だ。
これはまさか――
(僕、嫌われた!?)
月上さんが人見知りするはずない。いやでも僕が何かやらかした記憶も無い。
さっき助けてくれたんだし、嫌われては無い――か? 待て待て。見方を変えるとアレは嫌がらせともとれる。なぜなら月上さんが乱入したことで僕はえげつない程に視線を浴びたのだから。
また月上さんの顔を見る。今度はしっかり目を合わせてきた。
「あなたは……私と同じ世界に立った」
「えっとぉ……はい?」
「だけどまだ、私との距離は離れている。∞バースト……アレを自在に操り、手中に収めることができなければ、私とは戦えない」
あ、なんだ。インフェニティ・スペースの話か。
「わかってます。僕はあの力を意識的に使えない。まだまだ発展途上です。それに、月上さんを倒すためにはアレも手に入れないといけません……」
「そう。∞バーストと同様に、∞アーツも必須。けど、今のあなたじゃ∞アーツに辿り着くことは不可能。私でも、武装を揃えないと∞アーツを手に入れるための試練をクリアできなかった。前の戦いを経て自覚したはず。あなたの武装はまだまだ未熟」
月上さんの冷たい左手が、僕の右の頬に添えられる。
「私は手を貸さない。あなたなら必ず、自分の力で∞アーツにも辿り着けると信じてる」
「は、はい! 頑張ります!」
やっぱり違う。
夏祭りの時の月上さんとは違う。
僕を確実に――『意識』している。
「……」
「月上、さん――」
顔と顔が、近づく。
何をする気だろう。僕が月上さんの一挙手一投足に集中していると、
「ピー!! 不純同性交遊はんたーい!!!」
と、僕は首根っこを引っ張られた。
「ぐえっ!?」
バランスを崩し、後ろに倒れ込む僕を誰かが受け止め、その両腕で包み込んできた。
「え! え!? 誰!?」
上を向く。すると、彼女――転校生の百桜千尋さんの顔がそこにはあった。
「大丈夫? レイちゃん」
と言いつつ、モミモミと、僕の胸をまさぐってくる百桜さん。
「うわ――みゃあああっ!!?」
「ぶべふ!?」
僕はつい、百桜さんの顔に張り手し、押しのけてしまった。
僕は立ち上がり、距離を取りつつ頭を下げる。
「ご、ごごごごめんなさい! 女優さんの顔に……ぼ、僕はなんてことを……」
「いいってことよ。スケベからの張り手! これぞ定番の流れなり」
「て、定番?」
「さてと」
百桜さんは月上さんの方を向き、
「怪盗の恋人を盗もうなんて、良い度胸じゃないの。生徒会長さん」
怪盗……!?
「あ!!?」
そこで、ようやくずっと百桜さんに抱いていた既視感の正体に気付く。
千尋という名前、この声、そして自称怪盗。さらにこのスケベな性格。
まさかこの子は……!!
「ち、千尋ちゃん!?」
僕の幼馴染であり、インフェニティ・スペースにて大怪盗ラビリンスを演じる女の子――
「……言わせてもらうねレイちゃん。気づくのおっっっっっそい!!!」
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