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【2/20第一巻発売】スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
コロニー崩し編

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第139話 ∞の世界



 シキのギアが目に見えて上がる。



「ウルグス!!」


 ロゼッタは幻像子機(ウルグス)を展開。

 多数の分身がシキに向かって飛んでいく。


「吾輩に見せてくれ……! ∞の世界を!!」

「……」


 分身はシキに斬りかかったり、掴みかかったりするが、シキは体に触れさせることなく回避する。


 光翼状態での回転(ローリング)、急上昇からの急降下によるΛ曲がり(ラムダカット)推進剤節約術(スライドステップ)。カムイの『明鏡脚』を参考にしたノーモーションの回避法『転身(てんしん)』。


 あらゆる技で分身を()く。


 結果的に見ている者を『魅せる』動きをしているが、シキはその場その場で最適な手段を取っているに過ぎない。特に転身は強力で、カムイのノーモーションの歩法を回避に組み込んだその技は、如何なる体勢でも攻撃を躱す。直立したシキの背中を捉えた――と思ったら突然姿が消え、背後に周られるのだ。捕まえようがない。


「すんばぁらしいぃ!!」


 ロゼッタは拍手と共に心からの称賛を送る。


「それを観測しようと、吾輩がどれだけ苦労したことか……! 君に最大の感謝を送ろう、シキ君! 惜しいものだな。トライアドが、吾輩が相手で無ければ、君はその力で他者を蹂躙できたものを!!」


 ロゼッタもギアを上げる。

 高い脳波数値を活かし、高速でウルグスを動かす。しかしそれでも、シキのことは捉えきれない。


「ちぃ……!」 

 

 機体(ボディ)の性能が上がったわけではないのに、ロゼッタはシキの速度が倍ほどに上昇しているように感じた。シラホシの∞バースト時と同じで、シキも極限まで無駄を省き、最短の道を行くことで、最効率に体を動かすことで速度を上げている。


 シキは急速でロゼッタから離れつつ、狙撃銃(スターク)で的確にウルグスを撃ち抜いていく。

 ウルグスの陣形が乱れた所でシキは小さく口元を笑わせ、シンプル且つ最強の一手を打つ。


「バレットピース」


 シキはバレットピースを射出。

 バレットピースは一瞬でロゼッタの視界から消えた。


「ピースが消失……!?」


 否、ロゼッタの目で追い切れなくなったのだ。

 ∞バースト時は脳波数値にもブーストが掛かる。増加量は個人差があるが、シキの場合は脳波強度・脳波感度を共に2.5倍まで押し上げる。


 シキは脳波強度が882、脳波感度が890。合計値で言えばシーナの知る限りで最高値。それがさらに2.5倍で2205と2225。平均値の約22倍の数値に化ける。しかも現在のシキは脳波操作の練度も上昇しているため、バレットピースの速度は最早そこから射出されるレーザー弾よりも速く、ロゼッタの優れた動体視力すら置き去りにする。



――神速の射手が、戦場に解き放たれた。



「くっ!!」


 成す術無く、ロゼッタはバレットピース6基による射撃でウルグス6基を失った。


「これほどの……!!」


 バレットピースは充電のためにシキの元へ1度戻るが、その速度も当然速く、神速で戻り充電を終えて神速でまた飛び立つ。

 シキ自身も(みずか)らウルグスの大群の中に突っ込み、片っ端からウルグスを撃ち抜く。


「――と、捉えきれん……! まるで次元が違う!!」


 ウルグスはシキを襲うが、シキは幻像に惑わされることなく全てを躱し、紫の光翼で飛び上がる。


 太陽を背に、狙撃手は白衣の侵略者を見下ろす。


「……」

「おいおい、勘弁してくれよ……!」


 ロゼッタは思わず苦笑いした。


「……アレが博士が追及した人間の脳の限界、∞バーストか……! 成程、それだけの価値はある」


 シキは大幅に強化された。しかし、機体の性能差は1ミリ足りとも縮んでなどいない。


 ロゼッタはトライアドによるスラスター強化と無制限のButterfly-Modeによって最高峰の加速力を得ている。シキとの最高速の差はゆうに12倍。普通に考えて負けるはずがない。


 ロゼッタは幻像で惑わしつつ、全速力でシキへ突撃する。


 ロゼッタによる連続剣戟。シキはその全てを、劣る機体性能で完璧に躱す。反射で反応していたら躱すのは不可能だ。シキは、まるでロゼッタの動きを予知しているかのように躱していた。シキの回避の初動は、ロゼッタの攻撃の初動よりも早かった。


「なぜだ……なぜ吾輩の動きが読まれている……!?」

「視えているから避けているだけですよ」


 シキはロゼッタの顔に自身の顔を近づけ、不敵に笑う。


「僕はいま、あなたよりもあなたが視えている」

「っ!?」


 ロゼッタは距離を取る。今のシキ相手に、G-AGEの間合いで戦うのは厳しいと考えたからだ。

 しかし距離を取った所で時間稼ぎにしかならない。超高速で動くバレットピースに、ウルグスは数を減らされていく。


 圧倒的性能差があるはずなのに、追い込まれる矛盾。状況はロゼッタの劣勢だ。


 しかしここで、1つの誤算がシキの進撃を止める。


「!?」


 バレットピースの1基が()()したのだ。

 ロゼッタがなにかしたわけではない。だがロゼッタにとっては想定内の現象だった。

 バレットピースは煙を吹かして地に落ちた。故障の原因は過剰運動(オーバーワーク)と空気摩擦による部品の破損である。


 シキのバレットピースは高級品とはいえ最初の街スペース・ステーションで買ったものだ。シーナの六花と違い、高い脳波に対応したものではない。2205という常軌を逸した脳波強度で全開で動かせば当然ガタが出る。


「結局は武装の差が勝負を分けるか。残りの5基も限界が近いだろう?」


 シキの武装の中で1番厄介だったのは目で追い切れないバレットピースだった。それが使えないとなれば、怖いものは防御不可のG-AGEだけ。


「さぁ、チェックといこうか!!」


 ロゼッタは残り20基のウルグスを全速で動かす。バレットピースで対処せざるを得ない連携を仕掛ける。


 シキは精悍な顔つきのまま、ウルグスの突進を回避。

 脳波強度700程度の出力でバレットピースを運用する。


「ちっ」


 それでもバレットピースは()を上げる。自分の感覚についてこれない武装に対し、思わず舌打ちが出る。

 バレットピースは1基、また1基と故障し撃墜。弾幕を抜けたウルグス4基がシキに迫る。内3基はスタークで撃ち抜くも、1基の接近は許してしまう。


 シキはシールドピースでウルグスをガードするも、ウルグスは止められず、シールドピース10枚が一気に割られる。それでもシールドピースのおかげで速度は減衰した。シキはG-AGEの早撃ちでウルグスを撃墜。


 ロゼッタの口元が歪む。


 ウルグスを囮に、ロゼッタはシキの背後に行くことに成功していた。


 今度こそ大剣で、シキの首を落としにかかる。


「視えてると言ったでしょう?」


 シキはノールックで大剣の1振りを屈んで躱し、ロゼッタに背中を向けたままバックステップ。ロゼッタの体に背中を当て、零距離でG-AGEを発砲。ロゼッタの左肩を破壊し左腕を落とした。


「月並みなセリフだが、言わせてもらおう。この、化物が……!!」


 ロゼッタはすぐさま膝蹴りでシキの背中を蹴り飛ばし、ベストな間合いを作った後で大剣を振り回す。シキは依然背中を向けたまま剣閃を躱し、ロゼッタの方を向いた後で大きく飛び退いた。ロゼッタはシキを追うことはせず、金銀のエネルギーで左腕を作ることを優先した。


 結果、バレットピース2基を犠牲にウルグスは全て撃墜できた。バレットピースは残り3基。


(バレットピースはどれも、全開で動かせるのはあと1度か2度が限度)


 壊れかけだ。


「緋威」


 1分30秒のリロードを終え、緋威が再びシキを覆う。


「限界が近いのはあなたもですよね? ロゼッタさん」


 シキにはトライアドの限界時間も視えていた。

 シキの的確な指摘に対し、ロゼッタはもう驚きもしない。


「そうだね。この島に居る敵残存戦力を消すことも考えれば、君にかけられる時間はそうない。そろそろ決着といこうか」

「賛成です」


 互いの集中力が、極限まで高まる。

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― 新着の感想 ―
武装が更新途中で店売り多めって、シキの明確な弱点の一つですよねえ。 個数制限装備やユニーク装備とまでは行かずとも、ハイエンドモデル辺りはそろそろ入手したいところ。
VR世界だけど超光速が実現してる!
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