第137話 トライアド
「緋威、『炎纏』」
緋縅が灼熱の流動エネルギーを纏う。
さらに、
(バレットピース展開)
6基のバレットピースを射出。
(チェーンソーと炎纏の破壊力はどっちが上かわからない。体感的にはややチェーンソーが優勢かな)
ぶつかり合えばきっとチェーンソーの刃が緋威を絶つ。チェーンソーの1撃は受けてはならない。
僕は駆け出し、ロゼッタさんとの距離を詰める。
近接戦への誘いにロゼッタさんが乗らないはずもなし。ロゼッタさんも距離を詰めてくる。
僕はG-AGEのリロードを済ませ、接近戦を始める。
チェーンソーの激しい振りを躱し、G-AGEで反撃しつつ、緋威を翻してマントによる攻撃をする。ロゼッタさんも僕の攻撃には当たらない。弾丸もマントも軽く躱された。
「知ってるよ。接近戦に集中させてからの――」
ロゼッタさんの背後10mに設置したバレットピースからレーザー弾を射出。
ロゼッタさんの背中を狙う。
「バレットピースによる攻撃、だろ?」
ロゼッタさんは飛びあがってレーザー弾を躱す。
レーザー弾は僕に向かってくる。
「当たり。でもその回避では赤点です」
僕は炎纏モードの緋威で、レーザー弾を『受ける』。
(炎纏時の緋威は高密度のエネルギーをマントの表面に流動させて、レーザーを『弾く』。つまり)
マントの表面で跳弾させることができる。
緋威とバレットピースは同期済み。バレットピースのレーザー弾は炎纏時の緋威にぶつかることで強く跳弾するようになっている。
僕のマントに触れたレーザー弾6発は跳ね返り、空に飛びあがったロゼッタさんに全弾命中する。
「!? ……自分の体で跳弾だと!!」
強いダメージは与えられずとも、弾の衝撃で小さく仰け反らせることができた。
(ワンオフ式サーベル)
左手に握っていたサーベル端末から、勢いよく高出力サーベルを伸ばし、ロゼッタさんの顔面に突き刺す。通常のスペースガールなら間違いなく顔面を破壊できたけど、残念ながら強化されたロゼッタさんの装甲は貫けなかった。けれど、大きく仰け反らせることはできた。
(G-AGE!!)
G-AGEを発砲。
ロゼッタさんは反応するも避けきれず、右肩に弾丸が命中。
右肩が破壊され、右腕が落ちる。
「……面が不安定なマントで、ここまで正確に跳弾とはね……!」
ロゼッタさんは後方に飛び、着地。僕は狙撃銃を構える。
(右腕が落ちたと同時にチェーンソーを手放した。いま、ロゼッタさんが展開している武装は仕込み銃とシールドピースのみ)
ここで殺る。
「Butterfly-Mode」
金銀のエネルギーが、ロゼッタさんのスラスターから放出される。
(あれは、シラホシ・コピーと同じ……!)
金銀のエネルギー体がロゼッタさんの右腕を形作り、ロゼッタさんの右腕となる。
「Butterfly-Modeはスラスターの出力を上げ、失った部位を補完するモード。案ずることはない。20秒程度で終わる儚いシステムだ」
なら、20秒耐えれば……。
「――もっとも、コイツを解放すれば話は別だがね」
ロゼッタさんの胸部から、琥珀色の眩い光が放たれる。
「まさか……!!」
轟音が、ロゼッタさんを中心に響き渡る。
この巨大な基地が揺れるほどの、大気が振動するほどのエネルギーの衝撃波が放たれる。巨大な鼓動の音が聞こえる。
「認めようシキ君。否、すでに脅威だと認めていたが、六仙よりも上ランクとは思わなかった。どうやらこれを使うべきは六仙ではなく君らしい」
「いいんですか! ∞アーツに対抗できる武装を失いますよ!!」
「奥の手は1つではない。もっとも、これを解放することでアシア攻略の確率は99%から55%に落ちるが、仕方あるまい」
ロゼッタさんの背中から出る金銀の光がロゼッタさんの片翼となり、その手に大剣サイズのサーベル端末が握られる。
『Ωアーツ、Tri-Add起動』
無機質な女性の声、システム音が響いた。
思わず、身が竦む。
それだけの圧力がある。
「トライアドには3種の武装が内蔵されている。まず1つ目がこれだ」
ロゼッタさんから球形に広がるオーラが展開される。
オーラは僕を包み、このUFO全体を包み込む。
オーラの表面の部分には様々な音符が浮かんでいる。
「女王の我儘。このフィールド内に存在する全てのスペースガールのデスペナルティを吾輩の自由に変更できる」
システムに干渉する武装なんて――!
「デスぺナを……そんなこと、できるはずがない!」
「信じないならいっぺん死んでみるといいさ。ちなみに、君のデスぺナは『全アイテムの没収』と『1週間に及ぶログイン不可』にしておいた。本当はこの能力で∞アーツを奪うつもりだったんだけどねぇ、君の秘蔵の銃で我慢しよう。ソレはソレで悪用できそうだ。さらに……」
次々と空から小型の機械が舞い降りてくる。ルーピックキューブのような6面体の機械だ。
「民衆の怒り」
ロゼッタさんが指を鳴らす。
すると、ウルグスと呼ばれた機械およそ50基は、ロゼッタさんの姿に変わった。
「見ての通り、使用者の幻像を生み出す脳波武装だ」
(ラビちゃんが使っていた変身武装に似たものだろうね。ホログラムで姿を作っているんだ)
50人のロゼッタさんの幻像。これは鬱陶しい。
「そして、そのサーベルで3つ目ですか」
「その通りだ。――革命家の剣という名だよ」
サーベル端末から幅のあるレーザーサーベルが展開される。全長3m程。大剣というか巨大剣だ。
「ただ大きなだけの剣さ。無論、その切れ味は如何なるサーベルを凌駕する」
基礎ステータス大幅上昇に加え常時強化形態。
さらに50の分身、プラスさっきまで使っていたチェーンソーより遥かに切れ味のある大剣。システムに干渉するフィールド……!
これが∞アーツに匹敵するアイテム、トライアドの力か……!
「せっかくお披露目したんだ。簡単に果ててくれるなよ」
僕はベルトに差していたEN瓶を手に取り、口に入れ、瓶を捨てる。
「ふぅ……」
EN満タン。
(見なくとも、聞かずとも、周囲の景色が頭に浮かぶ。指先の感覚が尖り、口角に僅かに涎が溜まる。体が瞬きを忘れて、遥か先が目の前に見える)
自身の脈拍が、体調が、全てわかる。
今の僕――パーフェクトに調子いい。
「行きます!!」
多数の分身が僕を囲い込む。
僕はアサルトライフルで分身を撃つけど、当たった感触はなく、弾丸は分身をすり抜ける。
(映像を出している核の場所がわからない。体の中心では無いのか)
適当に弾をばらけて分身を撃つ。
頭に手応えのある分身もいれば、腕に手応えがある分身もあった。
(頭に核を置いていたり、腕に核を置いていたりと一定では無いんだ。しかもアサルトライフルの威力じゃ急所を撃つか数を重ねないと壊せない!!)
背後から殺気。
僕は後ろを振り返り、突進してきたロゼッタさんの横薙ぎを上に飛んで躱す。
(分身に気を取られるな。邪魔だけど所詮は幻だ。本体さえ追えれば)
1体の分身が僕に体当たりしてくる。
「無視でいい――」
「おしまいだね」
硬いキューブの感触が右肘に当たる。
瞬間、ビリィ!!! と、全身に電流が走った。
体が――痺れる。
「~~~~~~っっっ!!?」
どういうことだ。なんで!!
「ウルグスは高圧電流を纏っていてね。ウルグスに触れたスペースガールは全身に電撃を浴び、一時的に機能停止に追い込まれる。如何なる装甲、防御手段を貫通する。∞アーツ使用者ですら、そのキューブに触れれば10秒は動けない」
膝から、崩れ落ちる。
「この勝利を誇ることは無いよ。戦車で歩兵を轢いたようなものだからね。どんな英傑であっても、生身でミサイルには勝てないんだよ」
う、動けない……!
体が完全に麻痺している。手を体の下に敷いて寝ると、起きた瞬間手が痺れて動かなくなったりするけど……アレと同じ感覚が全身を支配している!
「勝負になるって本気で思ってた? ざーんねん。さすがに無理だよ」
跪き、両手をついて、頭を垂れる。
ロゼッタさんは処刑人のように僕の横に立ち、大剣を構える。首を斬るつもりだ。
「君はこの敗北を誇るべきだ。トライアドをこんな所で消費させることができたのだからね」
誇るべき……敗北?
そんなものはない。でも、
(絶対的な戦力差……これは、単独でなんとかなるもんじゃない……!!)
無理だ。勝てない。
絶望が、脳を侵食する。




