第134話 ツバサvs99
片膝をつくツバサ。
99は両手にアサルトライフルを装備。
ツバサに向けてではなく、金結晶の壁や天井に向けて撃つ。
金結晶はレーザー弾を反射する性質を持つ。レーザー弾は金結晶でバウンドし、四方八方からツバサに向かって飛んでくる。
ツバサはギリギリ大盾でレーザー弾を防ぐ。
「ちょっとこのステージはせこいんじゃない?」
ツバサは肩を竦めて言う。
「……どうした。ガードナー最強格なんだろう?」
ボソボソと99は言う。
「……この程度で音を上げないでよ。もっと粘れ。相手が強くないとゲームはつまらない」
「口わるぅ。こんな自分有利の場所に陣取ってる癖に戦闘狂気取り。――笑わせるね」
「……この程度の逆境、はねのけてみなよ。アンタが真に強者なら」
ツバサはアイギスを1枚握り、盾のスラスターを使って後ろに飛ぶ。
再びレーザーの包囲網がツバサに迫る。
「……さっきよりも角度を付けた全方位からの攻撃、防げるものなら」
「防ぐよ、もちろん」
150m先のボソボソ声にそう答え、ツバサはアイギスを展開する。
ツバサは6枚のアイギスで、的確に、完璧に、全ての弾を弾いた。
「?」
99の胸に、違和感が生まれる。
「うーん。段々と掴めてきたかなぁ~」
「……なら、これならどう?」
99はバレットピース6基も使い、さらに手数を増やす。
アサルトライフル二丁とバレットピースによる跳弾の嵐。ツバサはアイギスとシールドピースを動かし、全てジャストガードする。
「ふむふむ。こんな感じかな。空気がレーザーで灼ける音、ようやく拾えるようになっていた」
ツバサはアイドルスマイルを浮かべ、
「そういえば、君って99のゲームで最上位のランクになったんだっけ? あれでしょ。ほとんどのゲームじゃマスターランクって呼ばれてるとこだよね。凄いねぇ」
と、棒読み気味にツバサは言う。
「……まぁね。どいつもこいつも弱すぎる。安心したよ。お前は少しはやるみたいだな」
「はあ。嘘でしょ。マジで気づいてない?」
「? なにがだ」
99はツバサを凝視する。ツバサの瞳を良く観察する。
「まさか……お前……!」
99は気づく。ツバサの瞳に光が無いことに。
「目が見えていない……いや、敢えて切っているのか!」
「なんだ、大きな声も出るじゃん。そうだよ~。視覚情報を切ってます」
シキやシラホシにすら無いツバサだけの特性、絶対音感を上回る超人的な聞き分け能力。
これにより、ツバサは視認せずとも弾の位置を把握することに成功した。レーザーが結晶に当たり、反射する音。銃声。レーザーが大気を突き進む音。それらの音で着弾位置を完璧に予測し、ガードした。
「なぜ、そんなことを……」
ツバサは前屈みになり、指を唇に押し当てセクシーポーズを取る。
「決まってるでしょ。舐・め・プ♡」
舐めプは舐めプだが、目的はあった。それは自身の聞き分け能力の強化だ。
ツバサの大きな目標。それはシーナとシキ、2人の難敵を倒すこと。ツバサはシキと似たタイプの99を相手に、シキ戦の予習をしていたのだ。
ツバサはシステムメニューを開き、自身の設定をいじる。
「視覚情報――ON」
ツバサに視力が戻る。
もちろん、聴覚だけに頼るより、視覚も加えた今の方が格段にガード能力は向上する。
「つかさ、確か君ってマスターランクになれただけで……別にどのゲームでのチャンピオンになれたわけじゃないんでしょ?」
「あぁ? なにが言いたい?」
「なんつーかさぁ、中途半端だよね。君って」
ツバサは加速し、99に迫る。
99が跳弾を使ってツバサを狙うも、弾は完全に見切られ雑に払われる。
「まんまシキちゃんの下位互換だねぇ。もういいよ君」
「この……! ヒューマノイド達、出ろ! 出ろぉ!!」
部屋の至る所に扉が出現し、そこから大量のヒューマノイドが現れる。
「やっぱりねぇ。君は戦闘狂なんかじゃないよ。ただ他人を見下ろすのが好きなだけ。アイドルとか向いてるかもよ?」
「……う、うるさい。初心者なんだから、これぐらいのハンデがあってもいいだろ!」
「はぁ~。呆れた。ごめん、前言撤回。君はシキちゃんの下位互換ですらない」
ツバサは無の表情で99を見る。
「あの子は初心者であることを一切言い訳しなかった。君はただの、雑魚だわ」
酷く、つまらなそうに、そう吐き捨てた
総勢22機の一斉射撃。そこにさらに99の跳弾が混ざる。
無数の弾丸。しかし、今のツバサには通じない。
「謳え。C:Aegis」
アイギスの盾とシールドピースが全てを防ぐ。
「そんな……! 硬すぎる!!」
「そりゃそうさ。装甲値極振りで、守護神で10%の装甲値渡してるんだから。元の盾の装甲値と守護神で加算された装甲値の合計はエッグいよぉ。そんな豆鉄砲じゃ耐久値は1ずつしか減らないって」
ツバサは全てのアイギスの先にレーザーの刃を出す。
「踊れ。C:Aegis」
アイギスは全て高速回転を始める。
「ホントはデュエットしたかったけど、君の歌声はツバサの曲にはいらない。――ここから先は独壇場だ」
ブーメランのように回転するアイギスが、次々とヒューマノイドを斬り裂いていく。99は丸腰になったツバサを狙うも、シールドピースに弾は弾かれる。
まさに鉄壁。ガードナー最強の名は伊達じゃない。
99は決して弱くない。なのに、ツバサには99の一切が通用しなかった。
ヒューマノイドはあっという間に全滅する。
シキに敗北を喫し、彼女は努力した。シキと戦った時にあった僅かな隙はもう無い。
今のツバサはまさに、完全無欠。
「嫌だ……負け、負けたくないっ……!」
涙目で逃走する99。
ツバサは99の進行方向をアイギスで塞ぎ足を止めた後、正面・背後・左右の四方からアイギスをぶつける。
「むっ!? むぐぐ……!?」
99は四方からプレスされ、ミシミシと全身から音を立てる。
「フィナーレ。もう2度と会うことはないだろうね」
腕がもげ、体がぐしゃぐしゃに壊されていく。
顔面に盾を押し込まれ、視界は暗黒に染まり、自分の体が壊れる音だけが耳をつんざく。システムを起動させ、ログアウトする暇すらない。
痛みは無いが、精神に響く。99は2度と、このゲームにログインすることは無いだろう。それだけのトラウマが染みついていく。
「お客様は出禁でございます。ばいばーい」
ツバサが指をパチンと鳴らす。すると、アイギスは圧力を強めた。
「がああああああああああああっっっ!!!?」
ゴッ!!! と音を立て、99はポリゴンになって散った。
ツバサvs99。勝者、ツバサ。
「さてと、気を取り直して捜索を――」
ガコン。
「は?」
ツバサは、落下を始めた。
正確には、ツバサのいた部屋が、落下を始めた。
ツバサのいた部屋は丸ごと、UFO型基地から切り離され、空中に投げ出されたのだ。
「ちょっ!? 部屋ごと投げ出したっての!? ――そんなにツバサちゃんが怖いかぁ!!」
遠ざかる基地、大空。近づく地面。猶予はそこまでない。
「やっば!? 脱出しないと……!!」
99の仕業ではない。
こんなことができるのは当然、この基地の製作者である――
「っ!?」
ツバサは聞いた。リモコン爆弾が信号を受信した音を。
次の瞬間、金結晶の部屋は爆散した。
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