第133話 シキとロゼッタ
現れた本命、白衣のテロリスト。
――バン!!!
僕は最高速でG-AGEを抜き、その右眼を撃ち抜いた。けれど、
「ざーんねん」
ロゼッタさんの右眼に穴が空くが、デリートはされない。
「……本体じゃない」
「そういうことさ」
ロゼッタさんの容姿を模したロボットか。ロゼッタさん本人が遠隔操作しているのだろう。
「ついてきたまえ。相応しい戦場を決めよう」
ロゼッタさんは1人で歩き出す。
今は本体を探すべきだけど、僕は一旦ロゼッタさん(の人形)についていくことにした。無論、トラップは最大限警戒する。
「安心しなよ。手は出さない」
「信用できません」
「そりゃそうだ」
ロゼッタさんは厳重なロックの掛かった扉に近づき、慣れた手つきで次々とロックを外していく。
「入りな」
開いた扉。
僕はロゼッタさんの後ろについて、部屋に入る。奥へは進まず、扉のすぐそば、すぐに部屋から出られる位置を取る。
部屋には多数のモニターがあり、ロゼッタさんはモニターの前にある椅子に座った。
「さて、では選んでくれ」
モニターには色々な部屋が映っている。
市街地を模した部屋や、障害物0のただ広いだけの部屋。ともすれば、学校の教室ぐらいしかない狭い部屋もある。
「ど、どういうつもりですか?」
「わからないかい? ステージを選択させてあげると言っているんだ。1番戦いやすい場所を選んでくれたまえ」
なんだろう。何らかの心理戦だろうか……。
「君の全力と戦いたいと言っても信用できないかな」
「で、できませんよ! さっきは僕のことはできるだけ遠ざけたいと言っていたじゃないですか!」
「気が変わったんだよ。どうやら君は、あの領域に辿り着く素質があるみたいだからね。吾輩の研究対象として申し分ないと判断した」
「あの領域……?」
「∞バーストだよ。知っているだろう?」
ロゼッタさんも∞バーストについて知っているんだ。
月上さんが言ったとは思えないけど……。
「ぜひ観測してみたいものだね。人の脳の限界というものを」
「……な、なんにせよ、ステージを選ぶのは嫌です」
嫌な予感しかしない。
「施しを受けるのは癪かな? では賭けをしよう」
モニターの映像がとある部屋の映像で統一される。
金色の結晶で構築された広い部屋だ。
「アレは……金の惑星にあった、レーザー反射結晶!?」
部屋には1人、『99』と書かれたマスクをした女の子がいる。黒髪のツインテールで、綺麗な人だ。だけどその表情は暗く、どこか僕と似た雰囲気を感じる。
「彼女は99。これまで99のゲームでトップランクになったことがある最高峰のゲーマーだ。特にFPSでは無類の強さを発揮する」
「その名前、聞いたことあります。たしか、ゲームを極める度に名前の数字を1つ足していってる人……」
「そう。そして彼女が100個目の攻略対象として選んだのが、このゲームというわけだ」
ロゼッタさんは配膳ロボットに持ってこさせたコーヒーカップを持って、
「君も要るかい?」
「いえ」
「そっか。まだブラックの味はわからないかな」
ロゼッタさんは笑みを浮かべ、コーヒーを口にする。
(……うっ、なに考えてるかわからないし、2人きりで緊張する……)
「ゲストはまだ来ずか。賭けは一旦保留だな。では暇つぶしに、吾輩の展望について教えようか。ゲームクリアまでの道筋……知りたくはないかな?」
「……」
なぜそんなことを僕に……本当に読めないなこの人。
クリアまでの展望、正直気になるところではある。
「気になるって顔だ。正直者だね」
やばい……僕、顔に出し過ぎだなぁ。
「吾輩はね、クリアの鍵は月にあると考える」
「なぜ、そう思うのですか?」
「白い流星がこのゲームの製作者である月上白星の娘だからだ」
それは知っている。
月上さんは言っていた、このゲームは月上さんのお父さんが月上さんのために作ったゲームだと。
(白星……か)
月上さんのプレイヤーネームと同じだ。お父さんの名前から取ったのかな?
「製作者の娘が意味もなくあそこにいるはずがない。なにかは必ずある」
さらに。とロゼッタさんは話を続ける。
「白い流星が珍しく月を長く留守にしている時期があった。その時に、あるスペースガールが月面に着陸した。彼女は月を探索し、そしてついぞ見つけたのさ。『LAST MISSION』と書かれた扉をね」
「え……」
「その子は扉を見つけたと同時に謎の1撃でデリートされた。彼女はすぐさま色んな人に流布したけど、捏造だの売名行為だの色々と言われ、結局ゲームを辞めてしまってね。だが吾輩は信じた。彼女が残した視覚データには何の捏造の跡も無かったからね」
製作者の娘がいる場所。
そこにあった『LAST MISSION』の扉。
クリアの鍵があるかどうかはわからないけど、月が特別な場所であることはまず間違いない。
「あの扉の先には……一体なにがあるんだろうね」
ロゼッタさんは試すような目つきでこっちを見る。
「ところでシキ君。もしこの世界にラストダンジョンがあるとしたら、どんなところだと思う?」
「それはもちろん……ひび割れた地面、暗雲立ち込める空、人を襲う龍がいる暗黒の世界……!」
「あっはっは! 実にファンタスティックだが、恐らく違う。吾輩はね、みんなが良く知っているアレだと思っている」
「アレ?」
ロゼッタさんは人差し指を上に向け、
「シキ君、君は月に行ったことはあるかな?」
「あります」
「その時、あるはずの物が無いことに気づかなかったか?」
「えっとぉ……」
「月からは見えるはずのものがあるだろう。吾輩も、君も、とてもお世話になっている物体が」
背筋に鳥肌が走る。
そうだ。僕が月に行った時も、色んなサイトで見た月面の画像にも、アレが無かった。月から見えるはずの惑星が無かった。
――地球。
「吾輩は扉の先にそれがあると思っている。もしくは、それがある場所を示す何かがね。推測に推測を重ねているが、わりとイイ線いってると思わないかい?」
地球、月、扉。
地球と月の関係を考えるに、何かしらリンクがあってもおかしくはない。扉の先に地球に関係する何かがあっても不思議じゃない。
あくまで考察の範疇は出ないけど、探る価値はある。
「あの月の裏側に全ての謎の答えがある。だからまずは月を攻略するのが必須だ」
「無理ですよ」
「白い流星がいるからだろう? あの番人は簡単には崩せない。流星の如き速さを捉えるのは至難だ。だがな、如何に超高速を持っていても、避けきれないだけの範囲攻撃をぶつけてやればいい」
「……爆撃でもするつもりですか?」
「正解だ。だが、使うのはただの爆弾じゃない。超巨大の爆弾さ」
ロゼッタさんは両腕を広げ、ウットリとした表情をする。
「このコロニーを、月に落とす」
今度は、全身に鳥肌が立った。
「コロニーを!?」
「そうさ。まずトライアドを用いて六仙を打倒し、コロニーを掌握する。その上でコロニーを月面に投下する。コロニーによる突撃を避けきれるはずもない。もし白い流星を仕留められなくても、月面を剥がすことには成功するだろう。もしクリアに繋がるモノが何も無くとも、面白いモノは見れるはずだ。実に心が躍るね」
な、なんてこと考えるんだこの人……!!
「なぜ数あるコロニーの中で、このコロニーを攻略対象に選んだと思う? ――ここが月に最も近いからさ。『コロニー崩し』を成し、そして『コロニー落とし』を完遂する」
「コロニー落としは古今東西失敗するものです」
「どうかな。成否はこの戦いの結末次第さ。コロニー→白い流星→月→地球と攻略し、ゲームクリア。これが吾輩の考えるクリアまでのルートだよ」
「なぜそうまでして、クリアにこだわるのですか」
ゲームのクリアを目指すのはプレイヤーとして当然の心理。だけど、こんな正攻法とは呼び難いやり方でクリアを目指すのは、純粋にクリアを求めるプレイヤーの心理とは程遠い。
「片思い中の相手が居てね。私は……ただあの人に会いたいだけなのさ」
片思い?
僕がさらにロゼッタさんに質問しようとした時だった。
モニターに映る部屋に、来客。
「ようやくゲストのご到着だ」
無敵のガードナー、ツバサさんだ。
「さぁ賭けの時間だシキ君。この勝負、99が勝ったら吾輩がステージを選ぶ。逆に、ツバサ君が勝ったら君がステージを選ぶ。どうかな?」
「いいですよ。ただし、その前に――本体をここに寄越してください」
「ほう」
「安全圏からギャンブルをするなんて、ダサいですよ」
この程度の挑発に乗るか、と思うかもしれない。
むしろ逆だ。この程度の挑発だから乗る。
少ししか話していないけど、この人はそういうタイプだ。好奇心が強く、見え見えの罠ほど触れたくなる。
「そう来たか。いいだろう」
目の前のロゼッタさんは糸の切れた人形のようにだらんとなった。待つこと数秒で、部屋の転送装置を介してロゼッタさんが現れる。
僕はシステムメニューを起動し、ロゼッタさんに視線を合わせその情報を見る。
(プレイヤーネーム、レベル、ID。全部ある。本物のプレイヤー。さすがに影武者という線はない)
「警戒心が強いね君も。それじゃ観戦を再開しようか。――って、すでに佳境かな?」
「え?」
僕はモニターを見て、驚いた。
「ツバサさん……」
ツバサさんは片膝をつき、項垂れていた。
「どうしたシキ君。味方のあまりの弱さに呆れたかな?」
「ええ……呆れました」
まったくもって呆れる。
「なにを遊んでいるんですか……ツバサさん」
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