第131話 コンバート
「ソルニャーとか言ったか。ただの人形だと見くびって悪かった。我も、少しばかり本気を出そう」
カムイの両手首に腕輪が装備される。
「なんにゃ?」
腕輪から鎖が展開される。チェーンの先には刃が付いており、カムイの脳波に応じて刃は動く。
チャチャとイヴはカムイの新武装に興味深い視線を向ける。
「お。アレは」
「……ブレードチェーンか。ウェイブアームは両手に武器を持てないからな。手首のスナップと脳波で使えるブレードチェーンは相性が良い」
腕輪→鎖→刃の順番に繋がった武装ブレードチェーン。
チェーンは1m~6mまで伸縮可能。ブレード部分を脳波で操作することができるため、小回りも利く。射程の長い攻撃法が波動撃ちしか無かったカムイにとって、ブレードチェーンは隙を埋めるベストな選択だ。
「そぅら!!」
カムイはチェーンを振り回し、シキ・コピーを刃先で捕まえる。
「容易い」
シキ・コピーを引き寄せ、右手で頭を掴んで破壊する。
「あと7つ」
「にゃにゃにゃ……!」
ソルニャーが襲い掛かるも、カムイは足技で軽くいなし、ソルニャーの背中を足場に跳躍。さらにもう2機、シキ・コピーをブレードチェーンで斬り裂く。
「とんだ贋作だな。あの戦士とは似ても似つかない」
「……」
シキ・コピーの製作者であるチャチャは、僅かに眉を揺らした。
シキ・コピーはシキの技量の45%を再現している。しかし主武装はライフルのみで、しかもナドラ研究所攻略時のシキのコピーで止まっているため、カムイと戦った時のシキよりレベルは格段に落ちる。
「やはり……奴だ……奴が要る。貴様らを血祭りにあげれば、シキはここへ来るかな?」
カムイは手足のようにチェーンを操り、他を圧倒する。
「シキの報告にあの武装は無かった。つまりたった10日でブレードチェーンを使いこなしたということ。さすがは世界チャンピオンだな……」
だが。とイヴは笑う。
「ソルニャーだって、まだまだこれからだ」
ソルニャーはレーザーの爪を、カムイは波動を纏った両手を互いに突き出す。
ソルニャーは爪の攻撃を避けられても、口から銃口を出してレーザー弾で追撃。さらに足先からレーザーサーベルを出して追撃。さらに腹部からバルカン砲を出して追撃する。
カムイは全てを避けきることはできず、バルカン砲のレーザー弾は喰らった。頬と脇腹に傷ができる。
「プレイヤーは武器を内蔵する場合、武装として装備する必要があるがソルニャーにはその縛りがない。全身が武器だ」
「ただまずいんじゃないの? もうリミット近いでしょ?」
「……まぁな」
無尽蔵に動ける通常時と違い、萌っ子モードには時間制限がある。
――3分。
たったの3分でソルニャーは活動エネルギーを使い尽くし、機能停止する。
残った時間は僅か30秒程。
「時間制限があるのはわかっているさ」
カムイは両手の波動を強める。
「だが安心しろ。そんなつまらん幕切れは選ばん」
カムイは真っすぐソルニャーに突っ込む。
ソルニャーは全身が武器な『無形』の戦闘スタイルを持つ。ソルニャーの全ての攻撃を凌ぐことは不可能に近い。
だからカムイは初手の衝突で、勝負を決することに決めた。
「幻道千手」
カムイは実と虚を織り交ぜ、両拳による連続突きを繰り出す。
真に迫ったフェイントと高速の拳が織り交ざり、ソルニャーにはカムイの手が無数に分裂したように見えた。
「うにゃ!?」
避ける道も、防ぐ道も見つからない。
仕方なくソルニャーはカムイを一直線に攻撃するも、出した右腕をカムイの左手に掴まれる。
――黒い波動が迸る。
「ソルニャー!!」
ソルニャーの右腕が弾け飛ぶ。
さらにソルニャーは左手を出すも、その手も途中で掴まれ、破壊される。
両腕を失ったソルニャーに、カムイは終の一手を繰り出す。
「終局だ」
カムイの右手がソルニャーの胸に当てられる。
ソルニャーは胸に波動をぶち込まれ、20m先の壁まで弾き飛ばされた。
「ふにゃ~……」
ソルニャーは猫型に戻り、グルグルの目で戦闘不能となった。
「良い余興だった」
カムイはそのまま残ったシキ・コピーも全て破壊し尽くす。
「偽物はいらん。シキを呼べシキを!!」
万事休す――残ったのはイヴとチャチャだけだ。
「ちっ」
イヴはハンドガンを出すも、引き金を引く前に距離を詰められ、頭部を波動で飛ばされた。
残りは――1人。
「後は貴様だけだ」
カムイは……最大のミスを犯した。
「あーらら。イヴりんったら、リスポーン地点を戦艦の中にしてなかったのかな。随分遠くまでアイコンがぶっ飛んだねぇ」
イヴは戦艦内のベッドをリスポーン地点に設定していたが、そのベッドが着陸の際に破壊されたため、リスポーン地点がマイハウスになっていた。つまり、イヴはもうこの基地内にはいない。
この場には、チャチャ1人。
目撃者は、カムイ1人。
「あちゃちゃ、運が悪いね」
「ああ、まったくだな。我と出会ったのが貴様らの運の尽きだ」
「ん? あ、違うよ。運が悪いのは君♪」
チャチャはため息をつく。
「イヴりんを倒す前にチャチャさんを倒していれば負けることもなかったのに。チャチャさんを最後に残さなければ、気持ちよく終われたのにね。二択を間違えちゃったね~。ド~ンマイ♪」
「……何が言いたい?」
チャチャは怠そうに頭を掻き、
「イヴりんの前じゃほら、本気は出せないからさ……だってねぇ? 戦闘員として期待されるのは本望じゃないから」
チャチャは口に咥えた飴玉を吐き捨て、その視線を尖らせる。
「特別サービスだよ。――細胞1つまで解剖したげる」
「!?」
カムイは大きく飛びのき、全身に気合を入れた。
「本当は見せたくないんだ。バトルは好きじゃないからさ」
チャチャの纏う雰囲気、オーラが、異質なモノに変わっていく。
「でもオールザウェイを壊されるのは嫌だし、仕方ないよね」
「……なんだ、この闘気は……!?」
「ここから先のことは、2人だけの内緒だよ?」
チャチャは機械の剣を2本出し、それを逆手に持つ。
「この子は、君と気が合うかもね」
チャチャの瞳の色が、変わる。
「人格変換――『ニコ』」
【読者の皆様へ】
この小説を読んで、わずかでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと頑張ってほしい!」
と思われましたらブックマークとページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです! ポイント一つ一つが執筆モチベーションに繋がります!
よろしくお願いしますっ!!




