第129話 シキvsシラホシ・コピー
月の上(を模した空間)でシラホシ・コピーと鎬を削る。
僕はスナイパーライフル・スタークとバレットピースを主軸に、相手は双剣を主軸に交戦する。
(互いにまだクリーンヒットが1度もない)
かなり激しくやり合っているのに……。
(この調子じゃ長引くな。良くない展開だ……)
2枚の紫の光羽、WH-2(ライトウィング)を全開で起動させる。
ご存知スラスターの性能を強化する武装だ。光翼型の中では燃費は良いものの、容赦なく僕のENを持っていく。
機動性を上げ、回避に余裕を作り、こっちの攻撃にゆとりを持たせる。
「……これでどうかな」
相手は機動性を重視するためか、武装は最小限で双剣しかない。防御の手は0なので、1度守りに入らせれば一気に崩せる。
ライフルを撃ち空に回避させ、バレットピースで包囲し一斉射撃する。
さすがは月上さんのコピーだ。弾道を見切られ数センチで躱された。
「でもやっぱりコピーはコピー……あの人と比べたら全然だ」
本物と何度も戦っておいてよかった。良く見える。
シラホシ・コピーは双剣の先からレーザー弾を発射する。初めて見るパターンだけど、シールドピースで上手く処理できた。
(月上さんに無い動きは逆に読みやすい。動きがぎこちないからね)
シラホシ・コピーは当然ながら通常時の月上さんのコピーに過ぎず、しかも『スロースターター』の特性が無い。
尻上がりに強くなるのが月上さんの怖い所だった。苦戦はしているけど、負ける気は一切しない。
(試してみよう……)
特性――『神眼』発動。
視点を頭上に持っていくイメージをする。
「……自覚するだけでこうも違うんだ。確かに見える」
頭上5mから見下ろした景色が見える。俯瞰の視点だ。
ボッチセンサーはこの力を相手からの視線を引き金に起こしていたものだったんだ。
(見える)
背後に周られても、速度で揺さぶられても、見える。
上からの視点とこの両目からの視点、多角的に相手を見ることで動きを完璧に把握できる。
シラホシ・コピーからの双剣による連撃。
僕はシラホシ・コピーの攻撃を完璧に避けきり、ワンオフ式サーベルを逆手に持って、高出力モードで下から上に斬り上げる。シラホシ・コピーの右腕を切断することに成功する。
シラホシ・コピーは大きく距離を取るけど、僕はすかさずスタークによる狙撃で追撃。右脚を破壊する。
(右腕・右脚破壊。終わり、かな)
『Butterfly-Mode』
機械的な音声がシラホシ・コピーから響くと共に、シラホシ・コピーの背中から金のエネルギーと銀のエネルギーを織り交ぜた見るからに高密度なエネルギーが放出された。
「……綺麗」
宝石のような輝きに思わず目を奪われる。
金銀のエネルギーは失われた右腕・右脚を補完した。シラホシ・コピーはエネルギー体で構築された右手で剣を持ち、同じようにエネルギー体で構築された右足で地を蹴る。
「それが奥の手ですか」
僕とシラホシ・コピーは同時に飛びあがる。
(僕ももう、エネルギー残量が少ない。一気に決める)
高速戦闘が始まる。
息つく間もない。撃って避けて撃って避ける。
(はっやい!!)
あの金銀のエネルギーのせいか、速度が上昇している!!
「出し惜しみは無しだ……!」
50を超えるやり取りをした後、僕は緋威を右腕に巻いた。
スラスターが切れ、僕は4mの高さから落下を始める。
(この隙、逃す手はないでしょう?)
僕が着地すると同時に、シラホシ・コピーが背中側に周る。その右手の剣で、僕の首を狙う。
神眼で相手の動きは見えている。
「燃えろ緋縅!!」
炎纏モード発動。右腕に巻いた緋威が紅く輝く。
僕は右手で剣を掴み、灼き飛ばす。
「……とどめぇ!!!」
左の剣が来る前に、燃え盛る右手で胸の中心を貫く。
「約束は果たしましたよ。月上さん」
ヒューマノイドが力なく倒れる。エネルギーの放出が止まり、全身の電源が落ちた。
一息つき、神眼を1度解く。
(神眼……便利な力だ。でもこの能力って自分の周囲しか見えない。遠距離の相手、狙撃にはまったく使えない)
そりゃ先天的に備わっている力なら、僕のスタイルと合わなくても仕方ない。ゲームのシステムではなく、僕の脳に依る力なんだ。ロールに沿わない力でも仕方ない。
だけどなんだろう、モヤモヤする。弾詰まりしている感じだ。これが本当に僕の特性……?
一旦、考えるのはやめとこうか。今は別に考えることがあるもんね。
「どうしよっかな。この空間から脱出できる気がしない……」
このホログラムのせいで空間の輪郭を掴めない。
EN瓶でENを回復した後、ずーっと前進してみると、
「あでっ!?」
目に見えない壁に顔面から当たった。
僕はG-AGEで壁を撃ってみる。穴が空いた。穴から外が見える。
「え」
外を見たら、青い瞳と目が合った。
「シキさん」
「うへあ!? し、シーナさん!?」
「いまセキュリティを解除してるので、撃つのはやめてください。私に当たりかねません」
「は、はい! 了解です!」
壁の穴は数秒で埋まった。なるほど、自動修復機能付きか。自力脱出は無理だ。
プシュー、と音が鳴り、宇宙空間に長方形の穴が開いた。穴から光が入ってくる。
「シキさん、ご無事のようですね」
穴からシーナさんが顔を出した。
「あ、ありがとうございますシーナさん。助かりました……」
穴から外に出る。
振り返ると、真っ黒な箱があった。こんな所に入っていたのか……。
「それにしても、なぜこんな所に?」
「えっと、罠に引っかかりまして……」
「シキさんが引っかかる罠とは、さぞかし狡猾なものだったのでしょうね」
興味本位で踏みました、とは言えない。
「今はどんな状況ですか?」
「それがツバサさんとも、チャチャさん達とも連絡が取れないのです。もしかしたらどちらも交戦中かもしれません」
「心配ですね……」
「二手に別れますか。シキさんはツバサさんの座標へ。私は戦艦に戻ります」
うん。今はそれがベストかな。
「了解です! それでいきましょう」
僕とシーナさんは別れ、僕は近くの階段から下へ。シーナさんは別ルートから戦艦を目指す。
(EN瓶、1本は出しとくかな)
これからの戦いに備え、EN瓶MAX(1本でENが満タンになるアイテム)を1本、ベルトに差しておく。
階段を下っている途中で、僕は立ち止まった。
階段を下りた先に、白衣の女性が待ち受けていた。
「やぁ。少し話さないかい? シキ君」
「ロゼッタさん!?」
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