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【書籍化決定】スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
JKボッチと神ゲー編

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第13話 いつか月の上で

「な、名前、なんで……?」

「全校生徒の名前ぐらい記憶してる。生徒会長なんだから当然」


 当然、ではないと思いますが?


「すすす、すみません! すぐに退却します!」

「なんで? 逃げる必要ない」


 月上さんはコンビニ袋を見せる。


「私もここで食べる。一緒に食べよう」

「い、いいのですか……? 僕なんかが……」

「うん。むしろ一緒に食べたい。私に、1撃をくれたあなたに」


 僕なんかと一緒に食べたいだなんて……ん? 今なんか変なこと言ってなかった?


「1撃?」

「古式。それでプレイヤーネームがシキなんだね」

「え?」


 僕のプレイヤーネームを知っているということは、どこぞのゲーム世界で会ったということだ。

 誰だ? 僕に知り合いなんていないはずだけど。


「どこかで会いましたっけ……?」


 月上さんは上を指さし、


「月の上で」

「月の、上……」


 歯車がガッチリ合った。

 月上さんの声は、あの子と一緒なんだ。


「まさか……白い流星?」

「そう」


 流星ちゃんが生徒会長!?


「ご飯、食べながら話しましょ」


 月上さんは僕の隣に座る。

 ふわ。と甘い香りが鼻腔をくすぐる。香水じゃない、もっと自然でふんわりとした香りだ。や、やばい。僕、匂い大丈夫かな……こんな近距離で、臭かったらどうしよう。


(てててて、ていうか、こんな誰も来ないような場所で、あの1年生生徒会長と2人きりて! 無理、無理だよ……! 何を話していいか全然わからない!)

「狙撃」

「はひ?」

「あの狙撃技術、独学?」

「え、は、はい。他のゲームでも基本的にスナイパーやってたんで……」

「良い腕。私に弾当てた子は久しぶり」

「え、えへへ……そうですかね」


 月上さんはグイグイ来るタイプじゃない。梓羽ちゃんと同じでクールタイプ、だからちょっと話しやすい、かも。


「壇上から、あなたのアバターを見て、すぐにあなたが『シキ』だってわかった」

「アバターだけで?」


 集会所では現実の姿をそのままトレースしたアバターを使っている。シキとは似ても似つかないはず。


「身体的特徴がシキと同じだった。後は勘。月の上で感じた鷹のような鋭い殺意を、あなたのアバターから感じた」


 え? 僕って普段からそんな殺伐としてる!?

 た、確かに、早く銃が使いたくてイライラしてたけど……。


「つ、月上さんはどうして月面にいるのですか?」

「……愛を知るため」

「へぇ、アイ……愛!?」


 じょ、冗談? 笑った方がいいのかな……。


「あなたはどんな人が好き?」

「好……!? そそそそんな! 僕なんかが誰かを好きになるなんて滅相も無いっ! 相手に失礼です!」

「? 好きになると失礼なの?」


 純粋な眼で聞いてくる。

 くぅ……! この青い瞳に吸い込まれてしまいそうだ。


「ああ……いや、そんなことないですね……。えっと、その……二次元でもいいですか?」

「うん」

「ろ、ロ○クオン=ストラトス(ニ○ル)……赤井〇一、マク○スのミ○エル、デュー〇東郷、次○大介、尾○百之助……みんな推しです」


 JKにこのメンバーが伝わるだろうか……。


「狙撃手が好きなの?」


 あ、伝わった。この子も相当アニメを見てるな。


「はい……そうです。狙撃手って知的で、それにその……普段のキャラと、武器を持った後のキャラのギャップが好きで……銃を構えている時の横顔に惹かれるというか……あと狙撃手ってみんな大人びていて好きなんですよねぇ……あ、でも尾〇は大人に見えて子供っぽい所が良いというか……うぇへへへ……」

「でも、狙撃手って大体死――」

「それは言わないでくださいっ!」


 狙撃手ってどちらかと言うと生存率が高い役回りだけど、なぜか創作では死ぬかもしくは重傷を負いがち。その儚げな所も好きなんだけどね。


「月上さんは……どうなんですか?」

「私は誰かを好きになったことがない」

「えっ……」

「家族愛、友愛、異性愛、同性愛、敬愛、自愛……愛情というものを抱いたことが無い。というか、あまり他人に興味を持ったことが無い」


 意外だ。

 いま目の前にいる月上さんは無表情だけど、先生の前とか、全校朝会とかで見る月上さんは表情豊かで、友達とかと談笑している姿も良く見る。とても他人に興味のない人間には見えなかった。


「インフェニティ・スペースの私は最強。あの世界で、もし私がキルされたのなら……私はきっと、私をキルしたそのプレイヤーに興味を持てる。だから私はずっとあの月面で待っている。私を殺してくれる人を……私が愛せる人を」


 月上さんはそのサファイアのような美しく青い瞳で、僕を見る。


「あなたには期待している」

「え――ええぇ!?」


 嫌――じゃない。嬉しいよ。

 こ、こんな綺麗な子が……僕と正反対の、皆の人気者が僕に興味を持ってくれているなんて、嬉しいに決まっている。でも、


「ぼ、僕には無理ですよ……! 僕は月上さんと違って人気ないし……コミュニケーション苦手だし……か、影の人間だし……今だって心臓バクバクだし……他の人ができなかったことを、僕にできるはずがない」

「そんなことない」


 月上さんは立ち上がり、僕の正面に立つ。


「月上さん……?」


 月上さんは、僕の後ろのドアに手をついて、屈む。

 顔と顔が、近くなる。


「私が損得勘定抜きに、特定の誰かとお弁当を食べたいと思ったのは初めて」

「あ、え、は、え……!?」

「素の私と食事を共にする。それは、他の誰もができなかったこと」


 扇風機の風力が弱いのか、汗がどばどばと出て、スカートまで濡れている。

 気温は100度を超えているのだろうか、のぼせそうなぐらい頭が熱い。


「待ってるから。あの月の上で。あなたを、待ってる」


 僕の暑い熱い夏休みが――始まる。

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― 新着の感想 ―
失礼、ツーリング・エキスプレエスのディーン・リーガルがいないのは何故? やはり古すぎてマイナーなのか。
この世界だと最低でも20年以上昔のキャラだらけなのに、月上さんは良く知ってたな
なんで狙撃手すぐ死んでしまうん? それはそのほうが物語が引き立つから でも死んでほしくないよね(焼け野原ひろしまじ許さん)
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