第127話 シーナvsソニック
迷路のように入り組んだ通路をシーナは走る。
グリーンアイスを探しつつ、シーナはまったく関係ないあることを気にしていた。
(シキさん、カラオケのことはすっかり忘れているのかな)
金の惑星にて、シーナはシキとカラオケに行く約束をしていた。
だが依然としてその約束は宙ぶらりんのままだ。シキからそれに関する話題も出ない。
しかし話題を出していないのはシーナも同じ。シキを責めることはできない。
(それに……あのことについても聞けずじまい……)
シーナの脳裏を過るは、シキとラビリンスのとあるツーショットだ。
「別に……シキさんが誰と何をしようが勝手なのですが……」
シーナは思い出す。この夏休み、誰とも何のイベントも無かったことを。
家族での用事や、あとは習い事の用事しか無かったことを。
それに比べてシキはイヴや六仙、他の面々と絆を深めている。多くの事件、イベントに参加している。
「シキさんより、よっぽど私の方がボッチ力高いのでは? いやいやまさか……」
シーナは知らない。チームメイトであるチャチャですら、シーナよりもシキと多く関わっていることに。
シーナは知らない。シキが銀髪の美少女と夏祭りデートを決め込んだことを。
ハッキリ言って夏休みの充実度はシーナの完敗である。
「でも私、男の子からはいっぱい連絡くるし……」
シーナはその高い知能と品のある立ち振る舞いから近寄りがたい空気がある。
その空気は同性からすれば鼻につき、異性からすれば高嶺の花に見える。が、現状異性に興味の無いシーナにとって、異性にモテることなど嬉しくない。なのに異性にモテる事実でシキに対抗しようとしたことに、シーナは強い自責の念を感じた。
「……はぁ。友達欲しい。女の子らしい、ゆるふわ系の友達が……」
『シーナっち!』
「――うわ!? ちゃ、チャチャさん!? 急にどうしたのですか!」
チャチャからのフレンド通話だ。
『シキっちょの反応消失! 多分、敵さんに捕まったかも!』
シーナは頭を切り替える。
「シキさんが? それは困りましたね。倒されたわけではないんですよね?」
『うん。リスポーンしてないからね。多分電波遮断エリアにいると思う。いま手当たり次第に電波飛ばして、電波が弾かれる場所をリストアップしてるの。悪いけど片っ端から当たってくれる?』
「わかりました。グリーンアイスの捜索は一旦ツバサさんに一任しましょう」
通話が終わる――と思われた時、
『それとシーナっち!』
「? なんですか?」
『ゆるふわ系の女の子紹介してあげよ――』
「余計なお世話です!!」
通話を断ち切る。
ほどなくして、チャチャからリストが送られる。
シーナは近くの電波遮断エリアから当たる。
現在いる階から1つ上、奥のフロア――
「当たり……な気がしますね」
大きく開けた空間に出た。ドーム球場と同じくらいに広い空間だ。
ザ・研究所といった感じの部屋。機器が大量にあり、発明品らしきメカも多数存在する。なにより存在感を放っていたのは中央の黒い箱。立方体の箱が、この広大な部屋の半分を占めていた。
(あの箱が電波を弾いている。中から僅かながら戦闘音が聞こえる。とりあえず、アレを操作する機械を探すか)
「させないよ」
立ち塞がるは、巨大な機械の拳を2つ傍に浮かばせた少女。
(脳波で動く機械の拳『フロートフィスト』。射程は5mほど。近距離戦は危険。シールドピースではなくバレットピースを2セット(12個)採用しているのを見るに、ガードはフィスト頼り)
見える武装はそれが全て。あと4つはわからない。
「名乗らせてもらうね。ボクっちはソニック。RTAの申し子だよーん。悪いけど、ここは通さないようキングから……」
「六花」
シーナはアタックピース『六花』を展開。6枚の鋭い羽が飛び回る。
「ちょ……! 自己紹介無しでいきなり!!?」
ランクマッチと違い、脳波の制限が無い今の六花は反応の良いシキですら避けがたいもの。シキより反応の悪いソニックではとてもじゃないが捌き切れない……はずだったが、
「なーんてね。わかるわかる」
ソニックはフロートフィスト『へパイトス』で六花を完全に防御し切る。
「ふふん♪ ちょろいねお姉さん」
(速い……というより)
――正確。
まるで六花の軌道を読み切っているようだった。
(六花の動きを目で追って無かった。軌道を予測されていた)
「ん~、わかるわかる。不気味だよねぇ」
ソニックは八重歯を見せて笑う。
「前回情報不足で苦労したものだから、オケアノス軍につきそうな全スペースガールの情報を頭に入れた。もちろん、六仙率いる元ユグドラシルのメンバーだったシーナお姉さんのことも研究させてもらったよ。小さな癖から大きな癖までわかる」
ソニックは自身の目を指さし、
「お姉さんの動きは見なくとも読める」
シーナは双銃を抜く。
「紅龍と蒼龍。単発式と連射式のハンドガン。知ってる知ってる」
ソニックはバレットピース12基を展開する。
シーナは動き回りながら連射式の蒼龍でバレットピースを狙い、単発式の紅龍で本体を狙う。一方でソニックは攻撃はバレットピースに委ね、防御をへパイトスで行う。連弾は躱され、単弾は防がれ、バレットピースの一斉射撃がシーナを襲う。シーナはシールドピースを4基犠牲にし、一斉射撃を凌ぎ切る。
「お姉さん、ゲーム初めてどれくらい?」
「2年ぐらいですかね」
「へぇ~。ボクっちね~、まだ初めて1か月」
「そうですか」
シーナの塩対応にソニックは顔をしかめる。
「えぇ~? 反応薄くな~い?」
ソニックは下卑た笑みを浮かべ、
「ボクっちの趣味はさ、ゲームに真剣な連中を見下ろすことなんだよ。努力してきた人間をボクっちがあっさり抜かして、歯ァ見せてこっちを睨む連中に言ってやるのさ。『残念でした~。あなたはこのゲームじゃトップになれませーん』ってね。だからもっと絶望顔晒してくれないと困るんだよねぇ~」
シーナはきょとんとした顔で、
「それはすみません。始めて1か月で、あなたより強くなった人を2人程知っているもので」
「……」
ソニックの顔が引きつるのを見て、シーナは微笑む。
「そう怒らないでください。あなたもまぁまぁ才能ある方だと思いますよ」
「……お姉さん、虚言癖って言われない?」
「むしろ真実を口にし過ぎて疎まれるタイプです」
「…………これはわからせてあげないとね」
ソニックはバレットピースの動きを更に高速化させる。
「ふぅ」
シーナは動き回るのをやめ、瞼を下ろした。
「ばーか! ヤケになったら勝負は終わりだよ!」
「ええ。その通りです」
シーナは瞼を下ろしたまま、バレットピースの一斉射撃を最小限の動きで避けた。
「な!?」
シーナはしたり顔で瞼を開く。
「同じタイプのプレイヤーだったのが運の尽きですね。あなたの分析はすぐに終わった」
シーナの双銃にそれぞれ刻まれた竜の紋に光が走る。
「双天竜、最大出力」
紅く輝く紅竜と、蒼く輝く蒼竜をクロスさせ、構える。
「もうあなたの動きは見なくともわかります」
スピンオフも更新!!




