第121話 脳波強度・脳波感度
カプセルに戻ってきた僕は立ち上がり、体を伸ばす。シーナさんとツバサさんも遅れて戻ってくる。
「やられました。僕の完敗です」
「ウィングのせいか、いつもより動きが鈍ってましたね」
「はい……慣れるまで時間がかかりそうです」
でもそれを抜きにしても、シーナさんには勝てそうになかったな……。
「驚きました。脳波武装ってあんなに速く動かせるものなんですね」
僕があの対戦で抱いた疑問。それは僕とシーナさんのピース系武装の速度差だ。
アレはやっぱり武装のランク差によるものなんだろうか。
「シーナちゃんの脳波強度は異常だからね」
と忌々し気にツバサさんが呟いた。
「脳波強度ってなんですか?」
「はいぃ? 本気で言ってる?」
ツバサさんは呆れたように肩を竦める。どうやら脳波強度とやらは常識問題らしい。
「説明してあげればいいじゃないですか」
「はいはい」
ツバサさんは指を2本立て、
「脳波系武装を扱う際に重要な能力が2つある。1つは脳波感度。これは1度に操れる脳波武装の数・質量を決める能力。そしてもう1つが脳波強度。これが高いと1つ1つの脳波武装の動きが速くなり、器用になる。シーナちゃんはこの脳波強度が恐ろしく高いから、脳波武装の動きがアホみたい速い」
「ですが、脳波感度は並レベルなので、ツバサさんのように大きな盾を幾つも併用し、さらにシールドピースを全て同時に動かすなんて芸当はできません」
脳波感度に脳波強度! コレ、結構重要な要素じゃないかな……。
このゲーム、脳波で動く物いっぱいあるもんね。
「脳波系武装の商品に必要脳波強度とか書いてあったでしょうに。よく今まで知らずにこれたねシキちゃん」
「そ、そういえば、値段の下になんか変な数字が書いてあったような……」
売り物のバーコードの下にある数字(JANコードだっけ?)と同じようなモノだと思って無視してた。
「ではシキさんは自身の脳波数値を知らないのですか?」
「は、はい」
「よし! いま測ってみようよ。シキちゃんの脳波レベル気になる!」
ツバサさんに促されるまま、僕は頭に機械仕掛けのヘルメットをかぶる。これが測定器らしい。
ツバサさんが測定器を操作する。
「脳波測定開始――っと」
測定は数秒で終わった。
「お。出た出た。えーと……うっわぁ……」
「ど、どうですか?」
「さすがですねシキさん」
測定器を外し、測定器にある液晶画面を見る。
『脳波強度:882 脳波感度:890』
と、液晶画面には映っていた。
「どちらも平均が100ですので、凄い数値ですね」
どっちも平均値の約9倍ってこと!?
本当に? 測定の仕方間違えてないですか??
「ちなみに私は脳波強度が1001、脳波感度が182でした」
「ツバサは脳波強度が500ちょっとで、脳波感度が960とかだったかな」
シーナさんもツバサさんも僕と違って数値に偏りがある。
僕は脳波強度も脳波感度もほぼ同じ。バランスが良い。
「合計値で言えば、私が見て来た中でシキさんが1番です」
嬉しい。けど、
「シーナさんとの脳波強度の差は100ちょっと……なのにシーナさんのシールドピースの速さは僕の物より倍は速かった。たった100ちょっとでこれだけの差が出るものなんですか?」
「数値の差+技量の差です。脳波の数値は才能に依るため、大きく変動はしません。ですが、脳波操作の技量は当然研鑽を積めば高まります。技量が高まればシールドピースの速度も上がります」
同じ肉体を持っていても、走り方で速度差が出るように。とシーナさんは言葉を紡ぐ。
「世の中には100程度の脳波強度で、私に迫る速度で脳波武装を扱える人もいますよ」
「数値が絶対じゃないってことだね」
才能にさして差が無いのにもかかわらず、六花にはまるで対応できなかった。それだけ僕とシーナさんの間には技量差があったということだ。脳波操作において、僕はシーナさんの遥か後ろを歩いているということ。
兵器の差で負けたと、少しでも思っていた自分が恥ずかしい。
「勝負を分けたのは、僕とシーナさんの技量差……やはり完敗ですね」
まだまだ足りないものばかりだ。
「落ち込む必要は無いですよ」
シーナさんが声を掛けてくれる。
僕が俯いてるのを見て、僕が対戦で負けたことに落ち込んでいると思ったようだ。
「50もレベル差があったのですよ。しかもシキさんはゲームを始めてまだ1か月ぐらいじゃないですか」
「悔しいですけど、落ち込んでは無いです。まだまだ技術的に上があるというのが嬉しくて、喜びをかみしめていたんです」
「そう……ですか。これは失礼しました」
「えっと、こちらこそ紛らわしくてすみません」
それにしてもシーナさんはやりにくかったな……ザ・才気煥発ってタイプより、ジックリ構えられる方が苦手だ僕。
(面白い……やっぱりシーナさんのチームを離れて良かった。シーナさんとの戦いは面白い……! 色々な発見がある。いつか、ランクマッチで戦うのが楽しみだ……!)
思わず笑みが零れる。
「あんなボコられて、なんで笑っているわけ?」
「ふふっ。これがシキというプレイヤーの強さですよ」
「なにその『私だけはシキさんをわかってます』って顔。ムカつくから辞めて欲しいんだけど」
僕はシーナさんに顔を向ける。
「もう1本! お願いします!」
「はいはい。いくらでも付き合いますよ」
それから僕はシーナさんと特訓したり、戦艦の火器の試運転などをして過ごした。
リアルでは夏休みの宿題を進め、ゲームでは決戦に備えトレーニング。
日々はあっという間に過ぎていき、夏休みの宿題が全て片付いた頃……決戦の日は訪れた。
8月31日――
【読者の皆様へ】
この小説を読んで、わずかでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと頑張ってほしい!」
と思われましたらブックマークとページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです! ポイント一つ一つが執筆モチベーションに繋がります!
よろしくお願いしますっ!!




