第115話 決戦に向けて
エーギル海戦終幕。
都市内に1機たりとも侵入させずメーティス軍を撃退。僕は六仙さんから200万チップを報酬として頂いた。余談だけど、僕に協力してくれたパーロックさんは1階級昇進したそうだ。
マザーベースを去る際、そのパーロックさんが見送ってくれた。
「ありがとう旅の者。また大海の果てで会おう」
なんてカッコいいセリフを言っていたが、階級が上がったのが嬉しいのか可愛らしい笑顔をしていた。
僕はイヴさん達と合流し、オールザウェイでジョリー・ロジャーへと帰還した。
「シキ」
いつもの船着き場に着くや否や、イヴさんは僕にメモを渡してきた。
「このリストのもんを街で買ってきてくれ。さっきの戦いで受けたダメージの修繕に使う素材だ。拒否権は無いからな! お前のせいでできた傷だ」
僕の依頼でオールザウェイは戦場を横切った。そのせいで、敵艦隊の攻撃を受けあちこち壊れている。
「うっ、わかりました。買ってきます」
「頼んだぞ~」
買い物か、ショップ店員と話すのは憂鬱だけど気分転換になるかな。今日は戦い尽くめでちょっと疲れた。
僕は戦艦を降り、街中に入る。
(そういえば、何だかんだ街に降りたの久しぶりな気がする)
えーっと、船材屋さんはどこだったっけな。
この街は船を貿易手段として使うから、船や戦艦の資材は多く売っている。船材には困らない。
(なんか、街の雰囲気が……)
あちこちで戦車を組み立てたり、家を補強したりしている。
「そっか。ここはアシアに近いから……戦場になる可能性が高いんだ」
みんな必死だ。
街を歩いていると、見知った人に出会った。
「あ、シキちゃん」
「び、ビヤンカさん!」
バッド・ジョークのマスター。美しいお姉さまだ。
「ご、ご無沙汰です!」
「最近来てくれないわね。寂しかったわよ」
「すみません……忙しくて顔出せなくて。ビヤンカさんはここで何を?」
「店を補強するための資材を買っていたの」
ビヤンカさんは両手いっぱいに鉄材を抱えている。
アイテムはデータ化できる。けれど、アイテムポーチには限界重量が設定されていて、その重量を超えた分はデータ化できない。つまり、ビヤンカさんはアイテムポーチで抱えきれないぐらい資材を買ったということだ。
「僕、半分持ちます!」
「あらほんと? ありがと」
店まで資材を運ぶのを手伝う。
「みんな、真面目になっちゃったわね」
ビヤンカさんは家を補強する人たちを見て、残念そうに呟いた。
「ビヤンカさんは、やっぱり……メーティスとの戦いは嫌ですか?」
「そうね。こういうイベントも楽しむべきなんだろうけど、私はこのゲームに戦いを求めてるわけじゃないから。グリーンアイス? って人を非難する気はないけど、早く終わって欲しいと思うわ」
全員が全員、銃火器をぶっ放すためにこのゲームをしているわけじゃない。
イヴさんみたいにドライブを楽しむためだけに居る人もいるし、ビヤンカさんみたいにただゲームの日常を楽しみたい人もいる。
「で、でもそれなら、なぜこのゲームをしているんですか? もっと平穏なゲームもあるのに……」
「私、男性が昔から苦手でね……女の子限定で、これぐらい完成度の高いゲームってそんなに無いのよね」
インフェニティ・スペースがここまで売れている要因は現実とまったく遜色ないグラフィックと、自由度の高さだ。店舗経営1つ取ってもこのゲームと比肩するゲームは5つと無い。女性限定のゲームでは間違いなくトップのクオリティだ。
「リアルでは女子高の教師をしているの。それはそれで楽しいのだけど、意外と女子高の教師って規則がきつくて堅苦しくてね。。自由に羽を伸ばせる場所が欲しかったの」
「それで、このゲームにたどり着いたわけですか」
「ええ。バッド・ジョークは私の理想郷なの。あそこで働いている時が本当に楽しいのよね。みんながみんな、自由に歌って遊んで……」
バッド・ジョークに着く。
店内ではバイトの女の子たちが慣れない手つきで防衛ロボットを作っていた。
僕は床に資材を置く。
「ありがとシキちゃん、助かったわ」
「いえ。これぐらい」
「次の大戦、シキちゃんもオケアノス軍に加勢するの?」
「え?」
「イヴちゃんに聞いたの。シキちゃんはオケアノス軍に気に入られているって」
気に入られている……のかな? ちょっと語弊はある気がするけど、別にいいか。
「あ、はい。そうです。一応、オケアノス軍に加勢するつもりです」
「「「ホントですか!?」」」
店の女の子たちが目を輝かせて寄ってきた。
「えぇ!? あ、あの!?」
「が、頑張ってください! 応援してます!」
「このお店を守ってくださいぃ~! ここが大好きなんですぅ~!!」
「サービス弾むんで!!」
涙ながらに頼まれる。
「ぼ、僕はここの防衛につくわけじゃないので……! 守るのは別の人の役目で……」
ビヤンカさんが、僕の右手を両手で包み込む。
「お願いねシキちゃん、あとイヴちゃんもかな? ――この国を守って」
「ビヤンカさん……」
「もしも王が変われば、この国は変わっちゃう。そうなったら、きっと元の生活には戻れない。店は壊れてもやり直せるけど、国は壊れたらやり直せない。だからお願い……みんなを、守って」
お願いします!! と店員の人たちも頭を下げる。
「……わかりました。お任せください」
店を出て、帰路につく。
僕は、ただ楽しむためにロゼッタさんと戦おうとしていたけど、そっか……たとえ死人が出ないとはいえ、戦争なんだ。居場所を奪い合うために戦うんだ。
ゲームにマジになるな。と言う人もいるだろう。所詮娯楽だと……でも、娯楽を馬鹿にしてはならない。このゲームに、現実では癒せない傷を癒しに来ている人たちもいるんだ。
僕はオールザウェイの甲板に戻る。そして作業をしているイヴさんに宣言する。
「イヴさん……僕、頑張ります」
「そうか」
「ジョリー・ロジャーの方々の平穏を守るために、絶対に勝ちます。僕も……この街が大好きだから」
「頑張れい」
「なんだか僕、胸が熱いです! これが漢の魂ってやつですね……!」
「そうかよ。それは結構。ところでシキ、頼んでた資材はどうした?」
「あ」
忘れてた!
~軽いおさらい(この先を見る前に読むこと推奨)~
◆チーム・ましゅまろスマイル(シキのいたチーム)
シーナ……元トップチーム・ユグドラシルのバランサー。中学3年生。ジト目で敬語口調のスペースガール。シキがインフェニティ・スペースで1番初めに会ったプレイヤー。
ニコ……双剣使いのアタッカー。シキの妹の梓羽と知り合い(シキはこの事実を知らない)。血の気が多く、戦いが好き。
チャチャ……六仙にも重宝されるレベルのメカニックで、自身のメカニックの腕を振るうためなら場所や相手をあんまり選ばない。コミュ障のシキとは反対に明るい人柄だが、意外にシキと関わることが多い。
◆チーム・紅蓮の翼 (ましゅまろスマイルのライバルチーム)
ツバサ……元ユグドラシルのガードナーで、日常的にシーナに喧嘩を売っている。現実ではアイドルであり、かなりの人気者。絶対音感を持ち、その聞き分け能力で相手の攻撃を察知し完璧に防ぐ。6枚の大盾・『C:Aegis』は彼女の代名詞的武装。
クレナイ……シキが参加した最初のランクマッチでシキを落とした大剣使い。ウィング型アタッカーで、超高速からの重い1撃で敵を倒す。歴史オタクで、特に三国志が好き。
レン……狙撃手のロリ。シキとは同じ狙撃手としてこまめに情報交換している。シキには劣るものの、高い狙撃技術を要し、シキ・シーナ・ニコに対し、それぞれ有効な狙撃に成功している。
◆オケアノスの人々
イヴ……運び屋を生業としている白髪ポニテロリ。いつもタバコを咥えている。現実では成人済み。現実でも童顔かつ低身長。リアルだとタバコを吸っていると通報されることが多々あるため、仮想空間での喫煙を好む。シキが全幅の信頼を置いている程運転技術が高く、チャチャに認められるぐらいのメカニック技術もある。ただ戦闘能力は皆無。
ソルニャー……満を持して登場したマスコット。イヴが生産した四足歩行の猫型メカ。無尽蔵のエネルギーを持つフェニックスを核としており、1プレイヤーと遜色ない能力を持つ。走る時に『ポテポテ』と足音が鳴る。
ビヤンカ……イヴ行きつけの酒場のママ。美女で優しく、街で1番好かれているプレイヤー。
フーリン……ジョリー・ロジャーの軍警。ただしほとんど仕事をしない。なにか通報しても『やっとくやっとく』とだけ言い何もやらない。通称『やっとくさん』。
六仙……元ユグドラシルのリーダー。卓越した指揮能力と高い狙撃技術を持つ。オケアノスの王であり、∞アーツを所有している。青髪ロングのイケメンで、ファンクラブがあるぐらい人気。
ネス……六仙の秘書で眼鏡系女子。六仙が暴走する時は彼女がストッパー役になる。
◆メーティス軍
グリーンアイス……オケアノス最大のテロリスト。プレイヤーネームはロゼッタ。武器はチェーンソーを採用している。ゲームをクリアするための手段としてオケアノスを求めている。
カムイ……格ゲー世界チャンピオン。波動を発する両手を持っており、両手の波動と格ゲーから輸入した必殺技で戦う。格ゲー界に敵がいなくなり、退屈していたところをロゼッタに誘われインフェニティ・スペースにやってきた。敗北をきっかけにシキに執着する。
99……FPS界の魔女と呼ばれるマスク系女子。カムイと同じくロゼッタに誘われてゲームに参加した。
ソニック……RTA界の覇者。分析力に長け、相手の弱点を衝くのが得意。カムイ、99と同じく、ロゼッタに誘われゲームに参加した。敗北をきっかけにシキに強い警戒心を抱くようになった。




