第111話 血と鉄の匂い
(まずい)
戦艦の上から戦場を見下ろし、僕は奥歯を噛んだ。
(数は倍くらいオケアノス軍が上だけど、陣形の練度はあっちが上だ。優秀な指揮官がいる。それにヒューマノイド……特に連携している8機が厄介。アレを潰したいけど周りの戦艦が邪魔だ)
狙撃が飛んでくる。
戦艦の監視塔から甲板に降りて躱す。距離が離れているから簡単に回避できる。僕は一旦監視塔の陰に隠れる。
(アタッカーが3機、スナイパーが3機、バランサーが2機か。慎重に一機ずつ潰そうかな。でもあれに時間を掛けると艦隊戦で押し負ける。どうしたら……あ!)
そういえば、いまこの近くには――
「……イヴさん、チャチャさん、聞こえますか?」
フレンド通話を2人に繋ぐ。
『ああ、よく聞こえるよ。今日は花火が良く上がるなぁ』
欠伸混じりにイヴさんは言う。戦闘音が通信先からもかろうじて聞こえるので、そう戦場から遠い場所では無さそうだ。
『どったのシキっちょ? あ! 戦艦なら無事だよ。いち早く戦闘水域から離脱したからさ』
「離脱したところ申し訳ないのですが、戻ってきてもらっていいですか?」
『……おいおい冗談――』
『いいよ! おんもしろそーっ!』
『いいわけあるか!』
乗り気なチャチャさんと乗り気じゃないイヴさんの言い争う声が耳に響く。
ついでに『にゃっせにゃっせ!』とソルニャーが資材を運んでいる時にする掛け声が聞こえる。
『いま絶賛宇宙戦艦に改造中だぞ。別に武装はパージしてないけど、資材は乗っけたままだから速度は出ない。エンジンも調整中だしな。こんな亀さん戦艦で突っ込んだらあっという間に殲滅される』
「10秒でいいんです!」
体を出そうとするも、すぐに物陰に隠れる羽目になる。敵艦隊の弾丸の雨が、前に出させてくれない。
「10秒だけ、艦隊を引きつけてくれれば! 戦況を変えられます!」
上に飛んでる蚊トンボ8匹、撃ち落としてやる。この弾幕さえ止めてくれれば……!
『艦隊引き付けろとか、相変わらず無茶言うなお前……』
「1流のメカニックと1流のドライバーが居るんです。無茶じゃないはずです!」
『『いやいやいやぁ~』』
通話先から照れた声が聞こえる。
『……わかった。10秒でいいんだな』
「は、はい!」
『フレアフィールド全開。フェニックス接続エンジンも不安定同調ながら起動させてみるよん。多分、もってニ十数秒。敵艦隊の前を爆速で突っ切る。タイミング言うから、逃さないでよシキっちょ!』
「了解ですっ!」
ニ十数秒で8機。狙うのは連続で8狙撃命中。
目に見える場所からの狙撃は反応されかねない。レーダー撃ちで落とす。相手はステルス性があまり高くない。僕のレーダーで捉えられる。
問題は距離。対象部隊との距離は1kmぐらいある。レーダーの範囲外だ。
敵陣営の真ん中に行く必要がある。
「うぅ……! やるしかない。やるしかないやるしかない!」
これしか手がない。
僕は足下のイージス艦を見る。
(この戦艦なら近づける)
だけど、敵陣のど真ん中に行けば当然――
「……すみませんイヴさん。作戦開始までもう暫し時間ください」
『こっちも時間かかるからちょうどいいよ』
頼むしかない。艦長に――『死んでください』と。
---
私の名はキャプテン=パーロック。
オケアノス軍二等隊士だ。
戦艦を愛し、戦艦に愛された女――と言いたいところだが、残念ながら愛されてはいない。
偉そうに海賊帽を被り、眼帯で右眼を隠して、葉巻を吹かしているけど、いち囮艦の艦長に過ぎない。
艦長というだけで特別ではあるけど、艦長の中では下の下。真っ先に突っ込まされるか、あるいは壁として使われるか。結局はその程度の使い方しかされない。キャプテンの名が虚しい(自分で付けたんだけど)。
此度の戦場での役割は壁。もう長くはもたない。戦局がどう動いても、このラインの戦艦は撃墜されるだろう。
(つまらない……)
腕を組んで椅子に座しているだけ。クルーもみんな、諦めて目が死んでるし。あーあ、宇宙を宇宙戦艦で旅して、宇宙海賊を名乗る夢――いつになったら叶う事やら……。
「艦長~。なんか艦長と話させてくれと、艦外電話から内線が来てます~」
「いいだろう。通せ」
限界まで声を低くして言う。でも元の声が萌ロリボイスなので、全然高いままだけど。
「しししし、失礼いたしましたっ!!」
と言ってブリッジに入ってきたのは白黒髪の女の子。なにやらエラいガタガタ震えている。新兵か?
「あああ、あのですねぇ……! 敵艦隊の中央に特攻して欲しいんですけど、いかがでしょうか!?」
い、いかがも何も……。
「なに言ってんのあなた」
「いま忙しいんだから帰ってよ」
「あう、あう……」
あらら。針のむしろだ。もう泣きそうになっちゃってる……。
(いや待て。アイツどこかで……)
そうだ。たまに六仙様やネス先輩と一緒に居る奴じゃないか。これ、追い返したら後で叱られるパターンないか……? うっ、それは嫌だ。ネス先輩に詰められるのは怠い。
「……突っ込んで、なにか策はあるのかい? お嬢さん」
「え? は、はい。あります! 敵陣に突っ込んでさえくれれば、この戦艦は落ちますけど……せ、戦局は動かせます! この艦は、英雄になりますっ!」
しら~っとする艦内。なんかカッコつけたつもりになってるけど、具体性は0だ。
追い出せ~っという視線が向けられるが、気にしない。部下の気持ちより上司の機嫌が大事だ。
「……ロマン、だな」
「はい?」
「女に生まれたからには、ロマンとダンスしねぇとな」
私が言うと、当然の如く艦内から不満の声が上がる。
「艦長!?」
「ちょ、勘弁してくださいよ」
「独断で動いてマイナス査定くらったらどうするんですか!?」
「……女には、たとえ負けるとわかっていても行かねばならぬ時がある」
「「「ねぇよ!!!」」」
私は正面を指さし、決め台詞を言う。
「行こうか。血と鉄の匂いがする方へ……」
「えぇっと? OK……ってこと、ですかね……?」
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