第103話 シキvsカムイ
轟!!! と、地面を蹴り砕き飛び出してくる。
カムイさんは右手を突き出してきた。右手には黒いエネルギーが纏わりついている。
(この手、なにかやばい!!)
カムイさんの両手のコンビネーション。丁寧に躱すも、足元を蹴りで払われる。
仰向けに倒れた僕の顔面に向け、右手を出してくる。僕は転がって躱し、立ち上がる。
(やっぱり、格ゲーチャンプに接近戦で勝つのはキツイよね……)
ARの格闘ゲームは半分格闘技のようなものだ。指定したキャラクター毎に使える必殺技やリーチや特性は変わるも、結局は仮想体(バーチャル世界の体)を使った殴り合い斬り合いだ。
肉弾戦は彼女の領域。ここで争っても勝ち目はない。
「勝ち目無いので、搦め手を使わせて頂きます!」
「むっ!」
僕はシールドピースを飛ばして、カムイさんの両肩と膝関節にぶつけ動きを阻害する。
「……ピースで関節を押さえるか……!」
僕はアサルトライフル一丁を展開して連射する。
カムイさんは後ろに飛びのき躱し、避けきれないレーザー弾は両手から出したエネルギー波で弾いた。
「良い動きだ。安心した……彼女の言葉に嘘は無かったな」
あの両腕、きっとラビちゃんのトリックアームのような特殊な腕、武装の1つだ。
「気炎万丈! ――ようやく闘争心に火が点いた!!」
カムイさんはズボンのポケットに手を突っ込み、少し足を開いて立つ。
「明鏡脚」
予備動作が無かった。
カムイさんは直立したまま、膝も曲げずに、3歩分距離を詰めてきた。
「なんだこれ!?」
瞬間移動でもしたような感じだ。
カムイさんはさらに横の移動も混ぜつつ、その独特な移動方法で距離を詰めてくる。
アサルトライフルで狙うも空振り。距離2mのところまで近づかれた。
(やばい、どうくる……!)
「地返し!!」
カムイさんは地面に両手の指をめり込ませ、僕の足場の地面をひっぺ返した。
「うわっ!?」
足場だった地面と共に空中へ投げ飛ばされる。
「岩砕崩雷蹴!!」
空中に飛んだ地面を、カムイさんは飛び回し蹴りで粉砕。僕は岩の破片を浴び、全身の耐久値を減らした。
(う、嘘でしょ……)
僕は格ゲーはあまりやらないけど、レックレスファイターの世界大会だけは配信で見た。その大会は当時ゲーム業界でかなり注目されていた。なんせ日本の女子高生がベスト4まで勝ち残っていたのだから。
フルダイブ型の格ゲーは男性が圧倒的優勢で、ベスト16は男性が占めることがほとんど。なのに、彼女は他の男性をフルボッコにし、優勝した。常識を覆した。
その大会で神堂カムイ選手が使っていたキャラが、今のとまったく同じ技を使っていた気がする。
「フルダイブ型の格闘ゲームでは技名を念じると、システムが勝手に体を動かして技を成立させる。何度も何度も同じ動きを強制されれば、体に技が染みついても仕方あるまい?」
現実の肉体ならともかく、仮想の肉体ならば、仮想の技が使えてもおかしくはない――のか?
「いやいやいや……め、めちゃくちゃだ! シューティングゲームで格ゲーをするつもりですか!?」
「めちゃくちゃではないだろう。シューティングも格ゲーも、目の前の敵を倒すという点では同じだ」
こ、この人……常識外れ過ぎる!!
「とはいえ、このゲームのシステムは存分に使わせてもらうがな」
カムイさんは機械の翼を実体化させ、背中に装備する。ウィングだ。
カムイさんは飛びあがり、突進してくる。僕はアサルトライフルとバレットピースを展開し、角度を付けて攻撃し牽制。距離を取りつつ火力を集中させる。
カムイさんは足を止め、シールドピースを使ってバレットピースの弾丸を処理。アサルトライフルの攻撃は手のひらから放出した黒いエネルギー波で弾く。
(あの波動バリア、受けれる面積はそこまで広くはないか)
カムイさんは弾を防ぎ切ると、手のひらから黒いエネルギー弾を放出。僕は横に飛んで躱す。
「掌底からエネルギー弾ですか。ロボットアニメで良く見るやつですね……」
例を挙げたらキリが無い。
「ウェイブアームと言うらしい。波動の弾なんて、格ゲーマーらしいだろう?」
カムイさんは再び接近してくる。
僕はG-AGEを抜いて撃つも、手のひらのエネルギー波に焼却されてしまう。
(G-AGEはエネルギーで構築された盾とかには無力だからね。結構相性悪い)
僕は左右の手にアサルトライフルを実体化させる。
「!?」
(質より手数。防ぎ切れない攻撃で乱す)
相手の防御の手はシールドピースと手のひら周辺を覆う波動バリアのみ。アサルトライフルとバレットピースの一斉射撃は防げまい。
「くらえっ!」
総攻撃。
カムイさんは接近を辞め、横に飛び、弧を描くように回避を始める。
「やはり飛ぶのはダメだな」
カムイさんは地に足を着け、またモーション無しの走法を使ってくる。
「真・明鏡脚」
さっきよりも格段に速い。ウィングの加速も乗せてるんだ。だけど、
(もう慣れた)
僕は1発たりとも無駄にせず、全ての弾丸でカムイ選手を捉える。カムイ選手は全て防御するも、面を喰らった顔だ。
「これは……素晴らしい。この速度域の我を寸分違わず狙い撃ちにできるのか!」
「すみません。もっと速い人を知っているので」
さらに一斉射撃を続ける。
防御の手は足りていない。
レーザー弾はカムイさんの肩を、膝を掠める。
(絶対に近づかせない!!)
カムイさんの片翼がレーザー弾に破壊され、カムイさんの速度が落ちる。
「成程。貴様が相手ではこの走法は速度を緩めるだけだな」
あのモーション無し移動は独特だ。線ではなく点の移動、このゲーム内ではまず見ない動き。初見殺しの要素はある。けどそれだけだ。初見殺しとは得てして、慣れてしまえば凡技も同然。
「これはもういらんな」
カムイさんはウィングをパージして、それを掴み、
「!?」
――ぶん投げた。
ウィングは僕の手に衝突。右手のアサルトライフルを弾き飛ばされてしまった。
(どうせエネルギー切れ間近だった。構わない)
僕は左手のアサルトライフルも捨て、狙撃銃を構える。カムイさんはこっちに向かって全速力で直進する。僕はスタークで応戦するも波動バリアに弾かれる。
(あの波動バリアの反射角度は読めた)
僕は間を空けず2度引き金を引く。
1発目は綺麗に逸らされるが、2発目は波動のバリアをバウンドして、カムイさんの顔面にぶつかった。
「貴様……!」
「寸分狂いなし」
しかし頭部の耐久値は0になってない。弾かれたことで威力が減衰したかな。
僕はバレットピースでカムイさんの顔面を狙う。カムイさんはシールドピースで防ぐが、
(レーザー弾の発光が、カムイさんの視界を一瞬埋めた)
間髪入れず僕は胸の中心、急所の1つを狙って撃つ。カムイさんの左手が狙撃に反応する。
(ほとんど見えていないはず。これに反応できるとはさすが)
左手が狙撃を弾く。けれど完璧じゃない。急所から逸らすのが限界で、バウンドした漆黒のレーザー弾はカムイさんの右肩を破壊した。
カムイさんは右腕を失ったことを意に介さず、さらに距離を詰めてくる。距離5m。
僕はサーベル端末をベルトから抜き、横に薙ぐ。
「高出力モード」
伸びたサーベルがカムイ選手の腰から下を斬り落とす。
カムイさんの右手側から薙いだ。右腕を失った今、初見で対処は不可能だ。
「伸びるサーベル……!?」
「あなたは凄い選手ですけど、このゲームを知らなさすぎる」
初見殺し、ワンオフ式サーベル。
初見殺しはこう使うんだ。
(クライムガンを……)
ステータスを変える銃で倒そう。このまま倒しても彼女は投獄できない。彼女のステータスを開いてクラスを見たけど市民だったからね。正規の手段で入ってきた人だ。
「まだだ……!」
カムイさんはニヤリと笑い、上半身だけの状態でスラスターを吹かし、距離を詰めてくる。
そして残った左手から波動の砲弾を飛ばす。僕は屈んで躱し、下からカムイさんの体を蹴り上げ、上空に舞うカムイさんの胸をG-AGEで吹き飛ばす。
(さすがに、クライムガンに持ち変える余裕は無かったな……)
すでに武装のスロットは8個埋まっていた。
クライムガンを装備するにはシステムメニューを開き、武装のカテゴリを選び、入れ替える操作をしないといけない。最速でも5~6秒はかかる。
予め入れておくべきだったか。いや、ここに至るまでにいま装備している武器で使わなかったものはない。今回は仕方ない。
「とりあえず、今はこの言葉だけを残そう――『見事』!!」
カムイさんがデリートされる。
彼女が最後に見せた顔は、羊を見つけた狼のそれだ。
「恐らく僕以下の経験値で、よくもここまで。うぅ……! ちょっと怖いやあの人……」
強敵に会えた喜びより、変な人に目を付けられた恐ろしさが勝る。黙ってれば美人なのになぁ、あの人……もったいない。
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