第102話 白衣の監視者
「やれやれ。ギリギリ先手を取れたな」
モニターで宝物庫を監視しながら白衣の女性――ロゼッタは言う。
「ナドラ君に感謝だねぇ。彼女の残したレポートのおかげで砂漠の探索が容易に終わった。実に簡単な仕事だったろ? 99」
モニター室に1人のプレイヤーが入ってくる。『99』と書かれたマスクをしたボーイッシュな女性だ。
彼女はプレイヤーネーム・99。宝物庫から宝を盗んだ張本人だ。
「まぁね。あんなセキュリティ余裕。ほら、約束の品だよ」
「ありがと」
99はトライアドを2個入れた袋をロゼッタに投げる。
ロゼッタが袋をキャッチすると、99はロゼッタに詰め寄り、白衣の胸倉を掴み上げた。
「おやおや、どうしたのかな。反抗期?」
「……わざわざ他ゲームのチャンピオン集めてやることが、こんなコソ泥紛いのことかよ。あぁ?」
ボソボソとした声に強い怒気を混ぜて99は言う。
「あたし達は他のゲームで敵を、情熱を無くした人間……ゲームに飽きちまった人間だ。そのあたし達に再び火を灯すとお前は約束した。なのになんだこりゃ? このゲームに来てから半月、ロクな仕事がありゃしない」
「モニターを見てごらんよ。アレが君たちに火を灯す人間だよ」
99はモニターを、そこに映る狙撃手を見る。
「名はシキ。吾輩がいま、オケアノスにおいて最も警戒する人間だ。オケアノスを落とすにあたって、彼女は最大の障害になるだろう」
「へぇ」
99は胸倉を放し、モニターに集中する。
「まったくの覇気を感じないけどね」
「見てればわかるさ。懸賞金をかけて大量の賞金稼ぎを動員したが、結局実力の一端すら見せてはくれなかった。ボイコットするのは、彼女の強さを見てからでも遅くは無いと思うよ」
ロゼッタは椅子に座り直し、99の横顔を見る。
戦いが進むにつれ99はモニターに釘付けになり、マスク越しでもわかるぐらい口角を上げていた。
(格ゲーの世界チャンピオン、RTA走者、そしてFPS界の女王。この3人はすでにこの組織でトップクラスのプレイヤーになった。グリーンアイスとして活動して2年、ようやくここまで駒が揃った)
ロゼッタはグリーンアイスとして活動し、テロ組織を拡大する上である問題に直面した。それは実力者の不足。数は揃えられても、質は揃えられなかった。
すでに名を馳せたプレイヤーはいずれかの組織に所属しており、ロゼッタの組織には属さなかった。
インフェニティ・スペースはプレイヤースキルで数の利を壊すことができるゲーム。強力なプレイヤーがいないことには始まらない。
そこで彼女はこのゲーム内ではなく、他ゲームから実力者を引っ張り込んだ。
格ゲー界の皇帝・神堂カムイ。
FPS界の魔女・99。
RTA界の覇者・ソニック。
SNSで直接呼びかけ、巧みな話術と交渉で彼女たちを引き入れた。
(バスケットボールの神様と呼ばれたマイケル・ジョーダンはベースボールでもプロになることができた。ボー・ジャクソンはベースボールとアメリカンフットボールで一流の成績を残した。1つのスポーツで結果を残した人間が他のスポーツに挑戦し、好成績を残した例は多くある)
いわゆるマルチアスリート。
ベースとなる身体能力が高いため、僅かな経験値でも他分野のトッププレイヤーと張り合える人間はいる。ロゼッタはこの例を参考に、他ゲームから有力プレイヤーを引っ張る策を思いついた。
(ゲームも同じ。1つのゲームを極めた人間は他のゲームもそれなりにこなせる。それが世界チャンピオンレベルなら尚更だ)
ロゼッタは莫大な資産・資材を持つため、彼女たちの鍛錬に必要な物は全て用意できた。自らが教官となり、彼女たちに教育を施すこともあった。半月という僅かな時間で彼女たちのレベルは120まで上がり、その技術もレベルに恥じぬ所まで成長させることができた。
(カムイ、99、ソニック。加えて彼女たちのアビリティデータをベースに量産したヒューマノイド。オケアノス各地にいる部下たち。白い流星のコピー。そしてトライアド。戦力は整った……落とすぞオケアノス。このコロニーは、この私が頂く)
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