第100話 マスコット登場!
「次から次へと、忙しい奴だなまったく」
「毎度毎度すみません……」
ジョリーロジャーの港にて、イヴさんの車に拾ってもらった。
「それにしてもトラック、軽トラ、バイクと来て次はワンボックスカーですか……」
「キャンピングカーさ。見ろ後ろ! ソファー、冷蔵庫にキッチンもあるぞ~」
イヴさんもこのゲームを謳歌してるなぁ~。
ん? ソファーになんか大きなぬいぐるみが置いてある……。
「この前のオークションで全財産使ったのに、このキャンピングカーを作るお金はどこから捻出したんですか?」
「借金した……」
「えぇ!?」
「心配はいらない。今回の一件を手伝う見返りに、軍警が借金を返せるだけの金をくれるってさ。まさに救いの糸だ。もうちょいでほぼ下着みたいな衣装でウェイトレスをやらされるところだったぜ」
多分、借りた相手はバッドジョークのマスターかな。
「ま! 借金して作ったのはコイツだけじゃないんだけどな」
「他にも何か作ったんですか?」
「それは後のお楽しみ」
砂漠を走り、ピラミッドへ。
巨大なピラミッド。圧倒される。ここは迷宮で、中には機世獣がうじゃうじゃいる。だけど機世獣のレベルは40程なので僕の相手では無い。
「あたしはここで待ってる。戦闘能力は皆無なんでな」
「はい。また帰りお願いします」
僕はピラミッドに向かって歩み始める。
「待った。コイツの試運転もついでに頼むわ」
イヴさんが右手を挙げる。すると、キャンピングカーの中から影が飛び出し、僕の目の前に着地した。
「にゃっさ~」
それは――一言でいうなら、二足歩行の巨体の猫。大きさは130cmぐらい。目は『―』。口はなにを考えているかわからない『Δ』。毛色はホワイトだ。なぜか迷彩服と迷彩柄の帽子を被っている。
のほほんとした表情。
見るかにふわもちなボディ。
柔そうな毛並み。
か……か――!
「かわいいっ!!」
僕は思わず抱き着いてしまう。
「なんですかコレ! なんですかこの可愛すぎる生き物っ!?」
プニプニ、ふわふわ! お日様の匂いがする!
「イヴ様特製、猫型支援ロボットだ! 配達の護衛にするために造ったんだよ。ガードナーをモデルにしていて、かなり高い装甲値を持つ。盾にもなるし、爪型のレーザーサーベルを出して相手を裂くことも可能だ。TWも扱えるし、運転もできる。足が遅いのだけが難点かな」
「名前! 名前は!?」
「ソルジャーのニャンコで『ソルニャー』だ」
「ソルニャー! きゃわいい~! 一生大事にするね~!」
「やらねぇからな? いま貸すだけだぞ」
かわいい……ずっと表情変わらないのもかわいい。一の目にΔの口……かわいい。
でも、正直戦力になりそうには見えない。
「安心しろ。強いぞそいつは。なんたってあたしの技術と資材を存分につぎ込んだからな」
「なにか特別な能力があるんですか?」
「まず核には前のオークションで競り落としたフェニックスを使っている」
フェニックス……確か、半永久的なエネルギーと高出力を携えたコアエンジン。
つまり、ほとんどエネルギーの供給が必要ないってことかな。
「プラスしてグロウメタルを基本骨子に使っている。フェニックス、グロウメタル、さらにチャチャが開発した自動人格形成AIを搭載。レベルを持ち、自主的に学習する傑作! 1スペースガールと同等の性能さ」
グロウメタル万能だなぁ。ナドラさんが回りくどいことをしてまで欲しただけある。
「レベリングはある程度して、すでにレベル70に到達した。けどまだ人格の形成は甘くてな。赤子のような状態だ」
「じじじ、人格って……! なんか怖いんですけど……良いんですか人格なんか形成して!」
「なに考えてんだお前。よくSFであるAIが人格持って人間に反逆~、とか。ロボットなのに人間らしい感情を持ったせいで苦しい~、とか。そういう展開を考えてるのか? ないよ。安心しろ。潜在意識にこの世界が故郷だと、主には逆らうなと、ロボットであることを誇りに思うようにと刷り込ませている」
それはそれでなんか可哀想。
「ちなみにいま使える言葉は2つ。YESの意味をもつ『にゃっさ~』と、NOの意味を持つ『むにゃ~』だ」
「にゃっは~」
「あと相槌の『にゃっは~』があったか。言語能力は無くても命令はきちっと聞くから安心しろ」
というわけで、僕はソルニャーを連れてピラミッドに入る。
石畳を踏んで、長方形の穴から中へ。
中は迷路のようだけど、MAPは頭に入っているから問題ない。
松明の火が一定間隔であるから視界も良好――とまでは言えないか、薄暗い。
早速レーダーに敵アイコンが映る。
「機世獣にゃ!」
「うん! ――って、アレ?」
正面から飛んできたコウモリ型の機世獣を、ソルニャーはレーザーの爪で引っ掻き両断する。
「余裕にゃ!」
と、ポーズを決めるソルニャー。
「そ、ソルニャー?」
「どうかしたにゃ? 仮主殿」
「ふ、普通に喋れるじゃん!? イヴさん、ソルニャーは全然喋れないって言ってたのに!」
ソルニャーは僕に背中を向け、背中を丸める。
「ぼくの今のイチオシの悩みにゃ」
「イチオシの悩み……」
日本語がちょっと変だけど、まぁいいか。
「主殿、ぼくが喋ることを凄く凄く楽しみにしてるにゃ。ぼくが生まれた時からずっと、楽しみにしてるにゃ。いまかいまかと待ち望んでいるにゃ。それがプレッシャーなのにゃ。だから言語能力を取得してからも主殿の前では喋れないでいるにゃ」
「なるほど。コミュ障として、気持ちはわからんでもないにゃ……」
「一言目はどうしよう。真面目なセリフにするか、それともなにかギャグでも言った方がいいのかどうか……わからないにゃ。キャラも悩んでいるにゃ。武士のような堅物なキャラでいくか、それとも萌え全開のキャラでいくか……」
真面目に悩んでいるんだろうけど、正直しょうもない悩みだ……。
「今僕と喋ってるキャラで、最初の言葉は主殿の名前で良いと思うよ」
「にゃるほど! 迷いが吹っ切れたにゃ。感謝するにゃ! 仮主殿!」
なんか……癖のある人格が形成されちゃってるなぁ。かわいいからいいけど。
祝100話!!!
長かったようで、あっという間のようで……。
ここまで続けられたのも皆様の応援のおかげです! 感謝です!
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三 Δ 三