12-5. エピローグ
歩道を歩く者たちのなかには、これまで着こなしていた最後の制服に別れを惜しみつつ、花びら舞うなかで和気藹々と過ごしている学生たちを見つける。
彼らの何気なく楽し気に過ごしている様子には、この咲き誇る光景と相まって幻想的に見えて、羨ましく、そして眩し過ぎた。
振り返れば、自身にもそんな過去があったのだと遠く深く片隅に追いやっていた記憶を呼び起こす。
あの頃が一番、輝いていたのかもしれない。
いまではすっかりと疎遠となってしまった友人たち。
……彼らは元気にしているのだろうか。
桜並木のなかを流れていく彼らの姿に重ね合わせ平穏を祈った。
んっ!? 冷たい??
いきなりの頬に伝わる冷たさに事態が掴めず、即座にその場を離れ目でそれを追う──。
向けた視線の先には、可笑しそうに笑う彼女がいて、缶ジュースを手に持っていた。
「クスクス。反応が大げさすぎるよ。ところでどうしたの?? 神妙な顔してさ」
彼女はさっと私に近づき、顔を覗き込む。
同じ視線の高さにある彼女の瞳には私自身の姿が映り込んでいて心奥まで見透かされているような錯覚を覚えた。同時にそれには吸い込まれそうにもなる。
しばしの沈黙のなか、眉間に痛みが走ってベンチに座り込んでしまう。
「どーせ、またつまんないことを考えているんでしょ。そんな辛気臭い顔はやめなよ」
ぼそっと『いてて……』と零す彼女はデコピンを喰らわせた中指が思いのほか痛かったのかひらひらと返して背にする。
『うーん』と背伸びをする彼女は快晴な天候の下、空と山と川と桜を見回し呟く。
「昔から何度も見てきているけどさ。やっぱりいいね。昔はただの通学路でしかなくてなんとも思わなかったけどさ。離れたいまになって思うよ、誇れるってね。
だからさ──、せっかくの満開なんだよ。この満開を楽しもうよ」
こちらに向き直って両手を伸ばし持ち掛ける彼女の仕草には笑うことしか出来なかった。
困って笑ってしまう姿に彼女は気分を害したのか、不満を呟く。
「……なんだよ。人がせっかく盛り上げてあげようと思ったのに」
ここまで嚙み合わないのも珍しいのではないのか。ぶー垂れているその姿も面白く映る。
組織からの付き人の視線は肌で感じて警戒していたのにも関わらず、彼女にはこうも簡単に懐に入られるとはな。
過去に軍事経験を積んでいたと彼女に告げても冗談にしか伝わらないのかもしれない。
「いや――、昔を懐かしんでいた」
目の前を流れていく学生たちに視線を振る。
彼女もまた彼らを視線で追って、『あ~』と零してはどこか納得いったように頷く。
「そういえば、時期的にそうか。地元の学校はそろそろ卒業式ってお母さんから聞いていたけど、今日だったんだ……」
彼らが去って行くことには少しばかりの寂しさが生まれる。
ちょうど彼らの掛け合いに当時の自分を投影していて、それが行ってしまったように感じ取れてしまったからなのかもしれない。
「懐かしいよね。私たちもあんな時期があったんだよね」
いま思えば、懐疑的になる。
まさか、自分自身にあそこまで楽しく過ごせていた時間があったことに。
それはいまの心境が、目に映った彼らとは真逆に近しいところにあるからなのかもしれない。
光と闇。希望と絶望。生と死。
……誇張はしているが、大きな差異はない。
ほんとうに思う。願わくは、もう一度学生時代を過ごしたいものだ。
そのとき、ふとハンカチが当てられていた。
どうやら頬には涙が伝っていて、そっと手を置いてくれていたらしい。
「なに、感傷的になっているのさ。
でも、いいよね。私もまた戻れるんだったら戻ってみたいよ。そのときには昔の君を訪ねてみるのも面白い」
こちらの思いを汲み取ってか、楽しそうに笑う彼女。
彼女とは大学からの付き合いとなるが、持ち掛けられる話しは面白そうに思える。
もし、当時出会っていればどのような学生生活を送っていたのだろうな。
きっと面白おかしくふざけ合って過ごしていたのかもしれない。
夜の学校に勝手に忍び込んでは屋上でただ駄弁って星空を眺めたり。後日にそのことが学校にバレて叱られ、授業中にも関わらず二人揃ってゲームセンター・ファミレス、もしくはどこか遠出してひと夏の冒険をしてみたり――。
いや、もっと日常的なところで期末テストの点数を競っては、体育祭なりの競技ではお互い応援し合ったり。修学旅行に至っては全体のプログラムから勝手に外れて二人遠出して――。
いや、同じだな。思い浮かぶのが悪友のそれでしかない。ほんとにそうであったらと思えてしまう。




