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12-3. エピローグ

 そんななか、以前から付き合いのある彼女の故郷を紹介されて、いまに落ち着く。


 彼女が勧めるだけあって、目の前を咲き誇る姿に心が洗われていくようだ。

 惹き付けてやまない生命力あるその姿に、ある一節が呼び起こされる。


 『武士道は、日本の象徴である桜花に勝るとも劣ることもない、日本の土壌に咲く固有の華である。そして、それは書架に収められているわが国の歴史を綴った古めかしい美徳に連なった、朽ちた標本の一つではない。

 それは今なお、私たちの心の中にあって、力と美を兼ね備えた生きた薫香である。それは手にふれる姿や形はもたないが、道徳的雰囲気の薫りを放ち、今も私たちを引きつけてやまない存在であることを十分に気づかせてくれる』


 時代の転換期に目まぐるしいほどに方々を駆けた者たち。

 外交の折、道徳教育の在り方に宗教教育の有用性を相手から説かれたとき、その返答にと答えた言葉である。この国の道徳教育の根底には、武士道があって古くから人間形成の普遍的模範を示し続けていたと伝えている。

 彼の言及した武士道たる精神は書物にまで書き表されるようになり海外含む多くの著名人、当時の米国大統領にまで目に留まるようになった。たかだか東洋の一国でしかなかった国の思想は広く認められ国際社会進出に大きく寄与したのである。


 ただ、その精神も時代が移ろいでいくなかで、その溢れる美徳につけこまれ短くも咲き誇る桜花に自身を重ね戦禍に投じざる得なかった者たちがいたことを考えれば、悲しくも感じる。  

 それ以上に悲しく思わせるのは、いまの国の実態といえようか。


 当時の彼らがこの時代に生きる者たちをみたとき、どう思うか。一目散に『腹を切れ』と吐き捨てることだろう。


 隣国含む国際社会からの『多様性・相互理解』という要請に対し、考えなしに受け入れてきた結果、これまでの重んじてきた伝統はすっかりと霞んでしまって、不品行が横行するようになった。国民からの全面的な信任を受けて外交する者は他国に絶対的信頼を置いてなのか盲目的信仰に傾倒するようになって、いまでは先代たちが文字通りの命を懸けて守り通してきた国土さえも明け渡そうとしている。

 いや、盲目的信仰というよりかは、他国からのもてはやされたいという一心で気前よく振舞った結果なのかもしれん。外面をよく見せようとばらまき振舞う彼らの姿勢は明らかに『それ』から変質したと断言できる。


 これに似た在り様を旧約聖書にあるエゼキエル書ではこう語っている。

『彼らはわが民を惑わし、平和がないのに「平和」と言い、また民が塀を築く時、これらの預言者たちは水しっくいをもってこれを塗る』

 しっくいにとっては水の配分量が多ければ多いほどに、それは綻びとなる。内通者による綻びからの風穴は『平和』と語る破壊を内側へと招いて、国民ひとりひとりを惑わし陥れていく。


 どんなに綺麗に着飾って煌めかせかぐわしい香りを放ちまわりを虜とする華やかさを備えようとも、いずれ時が来れば散ってしまう。

 溢れる美徳もまた同じように咲き誇って、とうに散ってしまったというのだろうか。

 ……武士道を語った者もこれは予見さえ出来なかったことだろう。

 まさか、引き合いに出した桜花とともにその精神さえも散ることになろうとはと。

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