11-1. 対面
潜り込んだ室内は、照明は全く点いておらず、ただ外と同化した暗さが満ちていた。
せめて月明かりなりが届いていてくれれば、幾分か助かるのだが。生憎と空を厚い雲が覆っていたためか、それも期待出来そうにない。視認し難いな。
明暗の順応には一般的に三十分程度掛かると言われている。いましがた照明あるなかを過ごしていれば、順応には少し時間がかかるか。
……このなかで人質も、ましてや敵兵もいないだろう。
やはり米軍が制圧したと考えるのが妥当か。
慢心が過りはするものの、それでも目を凝らし明かり無いなかを、空間把握に努める。
さなか音を立てることなく、静かに雲の合間から一条の月明りが注がれる。
差し込みはじめは淡く輪郭をぼやかすほどに心許ないものであった。ガラス越しに照らされる室内はもちろん、光源たる月そのものもそのように映った。それが、次第に雲が流れてか、はっきりと輪郭を帯びはじめていく。
──っ !!
七、八メートル先の床に投影された『それ』も具体性を帯びはじめたか、だんだんと手前に向かって伸びていき『一人の影』らしきを作り出しはじめていく。
思わずハンドガンを握る力が強くなる。
「……あんたが今回の事件を引き起こした首謀者か!?」
「問いただすまでもない」
突然の対面に心拍数は上がり、発汗が促進される。
ガラス越しの月明りでは相手の顔まで視認はできないが、この状況下でひとり佇んでいるところをみれば、人質でないことはたしかだ。
今回蜂起を起こした者たちのうち、それらを率いる首謀者もしくは幹部といったところか。
月明かりから浮かぶシルエット、発せられた声から察するに三〇代、いや二〇代後半。……意外に若い。外見も気にはなるが、もっと気掛かりなことがある。相対する者とは一言しか交わしていないが。
こちらが向ける銃に対し動じる素振りを一切見せていない!? それどころか相手は銃を構えるなり抵抗さえ見せない!? あまつさえ、発せられた声があまりにも平坦すぎる!?
……民間人ではないな。軍事経験のある『こちら』側の人間か!?
「人質をどこへやった!?」
「彼らには、ここから東に位置する別棟に移動してもらっている。彼らは全員無事だ」
「なぜ罠も張らず、俺をここに招き入れた??」
「そんな手荒な真似をすることなど、出来るわけがない。
敵地に一人潜入し、敵兵の視線を潜り抜け、見事任務=役割を完遂した『功労者』である君にはね」
「……どういう意味だ」
政府に対し国家運営の根幹を揺るがす蜂起を起こし、いまやその勢いが全世界に及んでいる。
それがいま、目の前に立つ一人の青年を中心にして引き起こされたとは、俄かに信じ難く思う。
だが、その『流れ』はたしかに存在していて、いまを変えようとしている。
その渦中にいる奴の口から出た『功労者』という言葉。
あたかも『同業者』と思わせるかのような、その物言いには引っ掛かりを覚えた。




